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―――生きてゆく事に、少しだけ疲れたのかもしれない。

何の為に生きているのか?
ふとそんな事を考えたりする。
でも考えても。考えてもその答えは出なくて。
だから、決めた。

『アガレス様に忠誠を誓う』

そうやって生きてゆくと。
そうしたらもう他に何も考えなくてもいいから。
何も考えず、何も望まず。ただ。
ただこの命をアガレス様の為だけに。
それだけの為に、生きてゆけばいいと。

でも本当に、それでいいの?

…誰かの『モノ』になりたかった……
そうしたらもう何も考えなくても、いいから。


「お前は何処か壊れている」
冷たい瞳が自分を見下ろす。何処までも冷たい瞳。まるで鏡のように反射して、全てを拒絶している瞳。でも逆に今はそれがひどく安心出来るのはどうして?
「―――クルガン殿は壊れないのですか?」
漂う水のように静寂で。氷のように鋭い。この人を表現するのにはどうしても冷たい『氷』の印象でしか伝える事が出来ない。
「私が壊れると思うか?」
冷徹な瞳で全てを見透かすように、けれども全てを拒絶してそう言った。それが全て事実だと言うかのように。いやこの人にとってそれは本当にただの『事実』でしかないのだろう。そこにある当たり前のような『事実』。
「貴方が壊れたら…ハイランドはお終いですね」
冗談とも本気ともつかないニュアンスで、言った。その時自分はどう言う気持ちでこの言葉を言ったのか、自分自身ですら分からなかった。もしかしたら、どうでもいい事なのかもしれない。
「ルカ様がいる。あの人がいる限りハイランドは安泰だ」
このひとの『忠誠』は真実なのだろうか?自分のような思いとは違うのだろうか?
全てのものに冷めた、このひとにそんな熱い思いは存在するのだろうか?
『本当にそう思っているのですか?』
そう聴こうとして、言葉にするのを躊躇った。もしも言葉にしてしまったならば、自分の存在意義すら壊れてしまうような気がして。何もかもが壊れてしまうような気がして。
だから、聴かない。今は、聴かない。
―――自分にとっての『真実』を見つけるまでは…でもそんなものこの世に存在するのだろうか?
「――それよりも何しに来た?こんな時間に」
書類を書き上げていた手を止めて、やはり冷たい瞳で自分を見下ろす。この冷たさが多分、どうしようもなく自分を惹きつけずにはいられないものなのだろう。
その先に何もなくても。何も、存在しなくても。
「…クルガン殿……」
わざと甘えた声を出して、そして。そして椅子に座ったまま動かない彼の前にしゃがみ込んで。
「こんな時間だから、来たんです」
そっと布越しから彼自身に指で触れた。それは平常状態なのに、ある程度の硬度を持っていた。そしてそのまま指先で形を辿ってゆく。
「相変わらずサカリのついた雌猫だな。お前の親父は、今日は抱いてくれないのか?」
「仕事が忙しいです、クルガン殿」
「―――ならば私をその気にさせるんだな」
その言葉に自分はこくりと頷くと、彼自身を外界に出してそのまま口に含んだ。


自分の父親に妻の代わりに抱かれて。
それでも父親に忠誠を誓い、アガレス様に忠誠を誓い。
そうする事でしか自分を護る術を知らないのならば。
ただの哀れな子供でしかない。

―――そう、ただの可愛そうな子供だ。

「…んっ…ふぅ……」
私の前にしゃがみ込みながら、懸命に分身を頬張る姿は中々健気に見えた。まだ何処かあどけなさの残る顔をしながら、それでも舌使いだけならば充分に『大人』だろう。いやそれ以上に『娼婦』なのかもしれないが。
「…んんっ…ん……」
静かな室内にぴちゃぴちゃと淫らな音だけが響く。わざと音を立てて煽る所なんかは、子供のする事じゃない。よっぽど仕込まれたのか、それとも天性のものなのか。
……自分にはどうでもいい事んのだが……
「キバ将軍のもこうやって舐めているのか?」
「…父は…私にこんな事を強要したりしません…」
「庇うのか?自分の子供を犯すような人間を」
「父を侮辱したら、例え貴方でも許しません」
自らの父親を本気で尊敬しているのか?それともただのファザコンか?自分にとってはどちらであろうとも構わないが。
「―――分かった。それよりも口が止まってるぞ。私をその気にさせるんじゃなかったのか?」
「…ごめんなさい……」
本当に済まなそうな表情でお前は言った。その顔はただの子供でしかない。奇妙なバランスで成り立っている今のお前は、きっと一本の細い糸の上に立っているのだろう。
そしてそれが切れたら後は、きっと。きっと壊れるしかない。
―――壊れたら、お前はどうなるんだろうな……


誰にも理解されないから、誰にも言わなかった。
このひと以外は。この全てを冷たく見つめるこのひと以外には。

『父は私を母親の代わりにこの身体を抱くんです』

だって理解出来ないでしょう?
実の父親に犯されて、でもそれを望んでいる息子など。
だって最初に誘惑したのは自分なんだもの。
母に生き映しの自分を時々葛藤しながら見つめる父の瞳に気付いたから。
だから、自分から抱かれた。
そうしたら。そうしたら、父は。
もっと私の事を考えてくれるでしょう?
…戦争よりもアガレス様よりも…母よりも……

ボクノコト、考エテクレルデショウ?

「…んっふぐっ!」
大きな手が髪を掴んで強引に奥まで咥えさせられた。一瞬その巨きさにむせたが、そのまま咥え続けた。何時しかそれは口の中でどくんどくんと脈打ち始める。
「…くふ…ふ…んんん……」
口の中にとろりとした液体が流れ込んでくる。そのまま先端を吸い上げて、欲望の証を吐き出さようとしたが、寸での所でそれを止められる。
「全部飲み切れないだろう?部屋が汚れる。残りはお前のココで受け止めろ」
「…あっ……」
何時しかその指先が双丘の狭間に辿りつくと、服の上から強引に割れ目を抉った。それだけで快楽に浅はかなソコはひくりひくりと反応する。
「抱いて欲しいんだろう?」
その言葉に自分はこくりと頷いた。そしてそのまま自らの服を脱ぎ捨てると、そのまま彼の膝の上に座った。
「このままするのか?」
「…だってもう待ちきれない……」
「本当に淫乱だな。やっぱり天性のものか?」
「……ええ、そうです……」
そう言って自分は差し出された彼の指をわざと音を立てながら舐めた。そうやって自分の身体の熱を煽情してゆく。身体の芯から疼かせる。
「でもそれは貴方のだから。他の人じゃダメ…」
「自分の父親でもか?」
「……ダメです…貴方が、いいんです………」
広い背中に腕を掛けて腰を浮かせると、彼の長くて逞しい指先が忍び込んできた。その感触を待っていたとばかりに自分の媚肉は指を痛い程に締めつける。
「…あ…くふ……」
くちゃくちゃと指が中を掻き乱す度に濡れた音がする。その音にすら自ら酔った。芯からじーんと疼いてくる快楽に自らの身を堕とす。深い、闇の底へと。
「…はぁんっ…あ……」
このひとの指が、好き。冷たくてただ他人を傷つける為だけに存在する指。その指先が好き。そのまま自分を何処までも傷つけて欲しい。傷つく事すら出来ずに麻痺した自分のこころをその指で抉って欲しい。深く、深く、抉って欲しい。
身体の痛みが、こころの痛みに通じるまで。身体の快楽がこころの快楽に伝わるまで。
固まって凍ってしまった自分のこころを粉々に壊してほしい。
「…あ…ぁ…もう…指は…いいから……」
壊して、欲しい。壊れる一歩手前の自分を。どうにも出来ない程に、壊してほしい。その冷たい瞳と指先で。
「…ちょうだい…貴方のを……」
「だったら自分で貰いな」
冷たく耳元で囁かれる言葉が。何よりもの快楽へと摩り替わってゆく。ここには何も存在しないから。ただ肉欲のみが支配するから。
―――愛や想いやそして、『意味』すらも存在しないから………

「…はぁっ…あっ!」
上手く操れない指で彼自身を掴むと、そのまま自らの入り口にあてがった。そしてそのままゆっくりと腰を沈めていく。巨きく硬いその凶器は容赦なく自分の身体を真っ二つに引き裂いた。
「…あああっ…あぁ…」
それでも腰を落としてもっと深くまでソレを求めた。このまま引き裂かれてしまいたいと思いながら。このまま真っ二つになってしまいたいと思いながら。
「…はぁ…ああ…あ……」
「自分で動かしてみろ」
その言葉に躊躇う事なく自ら腰を振った。擦れ合う音が室内に響き渡る。その音にすら自らの媚肉は反応し、内部の楔をきつく締めつけた。
「あああ…あ…当たってる…当たってる…」
限界まで腰を落として、余す事なくその楔を自らの肉に埋める。隙間なくみっしりと、自らの体内に埋め込む。
「このまま内臓まで引き裂くか?」
―――このまま内臓まで引き裂かれたら…そうしたら…届く?痛みがこころまで、届く?
「…うん…引き裂いて…引き裂いて…ああっ!」
どくんと大きな音が身体中に響いて、そのまま体内に熱い液体が注ぎ込まれた。そしてそれを感じながら、自らも彼の手のひらに白い液体を吐き出した。

部屋にあった大きな鏡を割った。
粉々に割った。鏡に映る自分が嫌いで。
自分の姿がイヤで。
いやだから、粉々に砕いた。
その時自分も一緒に。
一緒に粉々に砕けてしまえたらばよかったのに。
そうしたら、よかったのに。

―――そうしたらこんなに、苦しくないのに……


「―――私に壊して欲しかったのか?」
そう呟いても気を失ってしまったこいつには、その声は届かないだろう。いや、永遠に届かなくてもいい。
「私が『愛』のない人間だから…壊して欲しかったんだろう……」
ほんの少しでも同情したら、ほんの少しでも愛情があるならば完璧に壊す事なんて出来ないから。そうしたらやっぱりお前はこのままどうにも出来ない状態のまま生き続けるしかないのだから。
「でも私にもお前を完璧に壊す事は出来ないんだ―――クラウス……」
そうして意識のない唇にそっと。そっとひとつ、クルガンは自らの唇を落とした……。

―――けれどもそれは。それは、誰も知らない……


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