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憧憬


『昔から、お前が嫌いだったよ』


お前は何時も光の中にいた。
誰もがお前を愛し、誰もがお前に惹かれた。
何時も真っ直ぐ前だけを見つめている瞳と。
誰にも負けない強い意思と、そして。
そして誰にでも注がれる見えない優しさが。

――――どうしようもない程に、俺は惹かれていた。


「…おめーとは、こうなる運命だったんだな」
変わらない、瞳。変わる事のない、瞳。何時でもどんな時でも前だけを見据えて。未来だけを、見つめて。
決して後ろを振り返る事のない、お前。去っていった俺すらも振りかえらないと、思っていた。
「ああ、そうだな…藤丸……」
このままお前を倒す、それはひどく甘美な夢。甘く切ない痛みをともなう夢。この手でその身体を切り刻んだならば。切り刻んで、しまえたならば。
「俺達は殺しあう、運命だったんだ」
そうだ、どちらかが死ぬしかないんだ。俺達には。


『才蔵…おめーつええなーっ』
『…ふ、そうか?…』
『でも俺もっと、もっと強くなる。おめーよりも強くなるかんなっ!』
『ならば俺を越えてみろ。俺よりも強くなって、そして』

『俺を何時か倒してみろ』


純粋に、憧れていた。
その『強さ』に。ただ憧れていた。
何時しかお前を越えたいと。
越えて、誰よりも強くなりたいと。
それはただの、憧れだった。
憧れは何時しか手の届く所までやってきて。
そして俺達を、引き裂いた。


「俺は自由を手に入れる。絶対の自由を」
藤丸、お前は初めから自由だったじゃないか?忍者として誰仕えようとも、誰もお前の心を縛る事なんて出来なかった。誰もお前を捕らえる事は出来なかった。
背中に生えた翼は、自由にお前を空へと飛び立たせる。無限の空へと。幾ら、幾ら俺がその背中を追いかけても、届かない。届きは、しない。
お前は永遠に、俺の手に入らない。それならば。それならば俺は、お前の前に立ちはだかろう。そうしたら。そうしたらお前は、俺のことを考えない訳にはいかないだろう?
「自由、欲しければ俺を倒すんだな」
何処までも自由なお前の心を掴むには、これ以外にないのならば。お前の前に敵として立ち、こうして争い合うしかないのならば。
――――そうしなければ、お前を手に入れる事が出来ない……
「ああ、倒させてもらうぜっ才蔵。遠慮なくなっ!」
そうしてくれ、藤丸。お前の全てで俺を倒せ。俺は俺の全てでお前を倒す。どんな感情でもいい。お前が俺に向けてくれる『本物』ならば。


『藤丸様、淋しそう』
『…かなめ?…』
『才蔵様がいなくなって、淋しいのですね』
『…そ、そんな事ねーよっ誰があんな奴の事なんか…』
『…私には、分かります…藤丸様の気持ちが…』
『―――』
『だって私は誰よりも藤丸様を見つめてきたから』
『かなめ?』
『―――藤丸様…才蔵様の代わりには私はなれませぬか?…』
『変わりも何も…おいつは男でおめーは女だろ?全然違げーだろうが』
『…そうでしょうか?…本当に違うと言いきれますか?…』
『……分かんねーよ………』

『俺には分かんねーよ』


一度だけ、その身体に組み敷かれた事があった。お前は俺を乱暴に抱いた。抱く?いや犯すと言った方が正解かもしんねー。まだろくさま行為の意味すら分からなかった俺を、ただ乱暴にお前は抱いた。
―――藤丸、と。
俺の名前を何度も呼びながら。何度も繰り返し俺の名を呼びながら。
俺をお前は犯した。それは。
それは俺に対する憎しみから来るものじゃあ、なかったのか?


「…藤丸……」
お前の今の声は『あの時』と同じ声だ。俺を犯したあの時と。忘れようとも忘れられなかった記憶。俺に付きまとう記憶。何時も何時もそれはお前だった。
俺はお前の呪縛から逃れなければ真の自由を手に入れる事が出来ない。お前から、逃れなければ。
「―――殺せ、さあ」
そうだ。俺はお前から逃れなければいけない。誰も俺を縛れる奴はいない。俺は何時でも自由で、そして。そして独りだ。誰かの事を考えるのも、誰かの事を想うのも俺には必要のないものだ。
…誰かを、愛するのは…俺にはいらないものだ……
「ああ、行くぜっ!才蔵っ!!」
俺は全ての力を込めて刀を抜き、そしてお前の心臓を貫いた―――


『藤丸、お前は独りだな』
『何言ってんだよ、俺にはこんなに仲間がいるぜっそしてお前もな』
『それでもお前は独りだ。俺らには届かない場所にいる』
『そんな事ねーよ。ほらっ一緒に俺らはいるじゃんかよ』
『…それでも俺にはお前が遠いよ…』
『バーカ、何言ってんだよ。遠いって言うなら俺がお前の元へ行ってやんよ』

『俺がお前の傍に、行ってやんからよ』


ぽたぽたと零れる血。お前の、血。お前の生暖かい血が俺の頬にかかる。
「何故だっ…才蔵」
お前は、避けなかった。俺の刀を…俺を避けなかった。
「なんでだっ?!才蔵っ!!」
全てを懸けて戦うと、自らの全てを懸けて。互いの全てを懸けて戦うと、そう言ったじゃないか。なのに、何故?
「…お前に…消えない後悔を…与えたかった……」
自由になるほうの腕がそっと俺の頬に伸びて、包み込まれた。大きな、手。お前の手はこんなにも大きかったか?
「…そうしたら…俺を…忘れないだろう?……」
「お前何言って……」
「…お前の心に…永遠に刻まれるだろう?……」
「―――才蔵……」
「…お前の…」

「…そのこころを…捕らえられるだろう?……」


自由なお前の心を縛るには。空にはばたくお前の羽根をもぎ取るには。俺の血を染みこませて、滴らせるしかないんだろう?
その白い翼を、俺の血で紅色に染めるしか。


「…藤丸……」
「…さい…ぞう?……」
「…ふじ…まる…お前を……」
「才蔵?」
「…どうしたら…俺は…捕らえられるんだろうか……」


『―――愛して、いる…お前を……』


あの時、お前に無理やり犯されながら。
薄れてゆく記憶の中で。
崩れゆく記憶の中で。
頬に落ちた暖かい液体と。そしてお前の言葉。

―――あれは、夢じゃ…なかったのか?……


「…昔から…お前が…………」


愛していたんだ。
お前だけを、ずっと。
どうしようもない程に欲しくて。
どうしようもない程に手に入れたくて。
愛していたんだ、ずっと。
お前の瞳をどうしたら振り返らせるか。
お前をどうしたらこの場所に止めておけるか。
どうしたらお前から、翼をもぎ取れるか。
どうしたら、お前を。

…お前のこころに…俺を残せるか……

―――ずっと、愛していたんだ…藤丸……


「…バカ…だな…おめーは……」
冷たい、身体。まだ血は暖かいのに。身体は急激に冷えてゆく。
「…なんで…最後になって…」
ひえて、ゆく。つめたくなって、ゆく。
「…俺を……」

「…俺を自由にしてくんねーんだよっ!……」

何時も考えていた。
お前のことだけを考えていた。
俺の手の中から去っていったもの。
一番大切なものがこの手から去っていって。
何よりも大切なものが、この手のひらから。
考えていた、ずっと。
ずっとお前のことだけを考えていた。
自由を手に入れたいと、完全な自由を手に入れたいとそう願いながら。
そう願いながら、俺は。
ずっとお前のことだけを、考えていた。

―――だってお前のことを考えている間は…お前がいない事実を忘れられるから……


『昔から、お前を愛していた』


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