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遺言







――――僕は君に逢うために、生まれてきたのかもしれない

この手で、君を殺した。
ただ独り僕を分かってくれた君を。
君を、この手で殺した。

君だけが僕の孤独を分かってくれたのに。

「僕が生きつづけることが、僕の運命だからだよ。結果、人が滅びてもね」
道はひとつしかない。僕が滅びるか、君らが滅びるか。僕が生きるか、人が生きるか。それしかない。それ以外にない。ともに生きる事は、ありえない。
「だがこのまま死ぬこともできる。生と死は同等価値なんだ、僕にとってはね。みずからの死、それが唯一の絶対的自由なんだよ」
君とともに生きる未来はないんだよ…シンジくん……。でもね。でも最期に君に出逢えたから。自由のない僕。許されない僕。存在事態が人間にとって忌みのモノ。それでも。それでも君は僕を必要だとそう言ってくれた。
「遺言だよ」
だから君にだけは、伝えるよ。君にだけに。ただひとつの遺言を。ただひとり、君の為だけに。

僕は君に逢う為だけに生まれてきた。
そうだね、君に殺される為だけに。
君ら人間が生きる為に。生き続ける為に。
僕は死に逝かねばならない存在だから。
死ぬために生まれてきた命だから。
だから君に。君に殺されたい。

―――君に殺され、たい……。

「さあ、僕を消してくれ。そうしなければ君らが消えることになる。滅びの時をまぬがれ、未来をあたえられる生命体はひとつしか選ばれないんだ」
どうして?どうして、どうして?何を言っているのか僕には分からないよ。分からないよ。だって、だって。せっかく…せっかく僕を分かってくれる人が現われたのに。君だけが僕を分かってくれたのに。
「そして君は死すべき存在ではない」
君だけが、僕を分かってくれた。僕の壊れたこころを。僕の哀しみを、僕の苦しみを。君だけが、君だけが、分かってくれた。ただひとり、君だけが。
……それなのにねぇ…ねえ…どうしてそんな事を君が言うの?僕には、分からないよ……
「君たちには未来が必要だ」
未来…未来って何?君がいない未来なんて、僕は。僕は欲しくないよ。君の犠牲の上に成り立つ未来なんて。そんなモノいらないよ。
ねえ、カヲルくん…どうして?どうしてなの?どうしてこんな事になってしまったの?

『独りでいる事は、哀しいよね。でも人は所詮独りなんだ』
『…カヲルくん……』
『独りなんだよ。でもね』
『…あ……』
『こうして肌を触れ合わす事で、その孤独を忘れる事ができる』
『…カヲ…ル…くんっ……』
『ほんのひとときでも、忘れる事が出来る。こうやって繋がっていれば』

『繋がっていれば…独りだと感じないだろう?』

今でも、今この瞬間でも君が触れた箇所が熱く疼くのに。
君が口付けか箇所が、君の指が触れた箇所が。君が、貫いた箇所が…。
「…カヲルくん……」
もう一度その名を呼んだ。何よりも大切なものだと。何よりも大事なものだと、今それをイヤと言うほどに実感しながら。
「…カヲル…くん……」
それでも。それでも君の決心を変える事は出来ない。僕らの運命を変える事は出来ない。どちらかが滅びなければ、どちらかが生き残れない。そして。
そして君は自らを差し出し、滅びる側を選ぶ。僕に遺言を残して。僕に最期の言葉を残して。
僕が今。今この手に力を込めれば君は滅びる。そして人間には未来が訪れる。未来が、人間の元へと帰って来る。でも。
でも、でもでも。僕の未来は…僕の未来は、本当にこの手に帰って来るの?君がいなくなって、君を殺してそれで。それで僕の未来は?
「…カ…ヲル…く…ん……」
ねえ、どうして僕に君はこんな選択を押し付けたの?

覚えていてほしいから。
こんな滅びる為にだけ生まれてきた命でも。
それしかない命でも。
君には。君にだけは覚えていてほしかったから。
ほんの片隅でもいい。ほんのこころの隙間でもいい。
僕を。僕を覚えていてくれたならば。
君が僕を、覚えていてくれたならばそれで。
それだけで、僕はいいんだ。

好きだよ、君が好きだよ。
君の傷つきやすい硝子のようなこころも。
怯えた瞳も。弱い気持ちも。
全部、全部大好きだよ。
だから、ね。僕を殺して。

―――大好きだから、殺して……

『…カヲル…くん…本当だね……』
『ん?』
『…本当だ…こうしていれば…淋しくない……』
『だから人はセックスをするんだよ。淋しいからね』
『…でも……』
『でも?』
『…君とじゃないときっと……』

『…きっともっと…淋しい……』

君とだから、淋しくない。
君の腕の中だから。君が抱いてくれるから。
だから、淋しくない。
君の熱に浮かされて、君の熱さに溺れて。
でも。でも、満たされている。
ひどく、こころが、満たされている。

―――君の手で、僕を殺してくれ。そうしたら僕は君だけのものだよ。

ふたりに、なろう。
ふたりだけになろう。
ほらちょっとその手に力を込めればいいんだ。
そうしたら僕は死ねる。
死んだら、君だけのものになれるよ。
君だけのものに。
僕の瞳の最期に映すものは君だけなんだから。
ほら、ふたりになろう。
このままふたりに、なろう。

―――僕だけの…もの…に?………

そうか、そうだね。
今僕が君を殺せば君は何処にもいかない。
何処にも行かない。僕の傍にいてくれる。
そうしたら、そうしたらもう。
もう僕は淋しくなくなる。
ずっと君と一緒にいられるのだから。


「ありがとう。君に逢えてうれしかったよ」


僕も。僕もカヲルくん、君に逢えて嬉しかった。
ぼろぼろになった僕の背中の羽根を。
君の綺麗な背中の羽根で空へと飛ばせてくれた。
君の綺麗な羽根が、僕の未来を与えてくれた。
―――君の、君の綺麗な羽根が……。


「……僕も君に逢えて…うれしかった……」


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