あいつの事なんて、大嫌いだ。だから何時も。
何時も俺様はあいつを負かしてやろうと、色々考えているのに。
考えているのに、何時も。
何時も負かされるのは俺様のほうで…。
―――俺様の方ばかりが…何時も負かされて、いるから……
後ろからそっと抱きしめれば、見掛けよりも華奢な身体がびくんっと震えた。それが可笑しくて、愛しくて。口許に無意識に笑みを浮かべるのを抑えきれなくて。
「わ、バカ抱きつくなっ!!!」
そう言いながらも、腕の中の君は抵抗しない。普段真っ黒な耳が真っ赤になっている。それが可愛くて。どうしようもない程に可愛かったから、そっと耳にキスをした。
「わ〜〜っ!!な、何をするんだっ!!」
「だって君があまりにも可愛いから」
ふっと軽く息を吹き掛けながら囁けば、腕の中の身体がぴくんぴくんっと震える。その仕草が僕にとってはどうしようもない程に可愛くて。どうしようもない程に可愛くて。
「大好きだよ、バイキンマン」
耳元にキスをしながら、そう言った。しっかりと腕の中に君を抱きしめながら。小さな君の身体を、この腕の中に。
「うるさいっ俺様はお前なんて大嫌いなんだっ!」
じたばたと暴れ出す君。しばらくそのままにさせておいたけれど、ちょっと痛かったのでぎゅっと力を込めて閉じ込めた。そしてそのまま上から覆い被さるように、君を見下ろして。
「くすくす、嘘ばっかり。君は何時もこんなにも僕の事を気にしているのに」
手で君の丸い顎に触れる。艶かな肌の感触が心地よかった。このまま君を食べてしまいたい。何時も顔を子供たちに食べさせているけれど、僕が食べたいのは君だけなんだよ。
「気にしてなんかないっお前は俺様にとって敵なんだっ!」
そう言いながらも何時も君は僕を意識しているよね。本当は僕らの仲間に入っていきたいのに素直になれないから。素直になれないから、こうやって悪ぶって。
本当は振り向いて欲しいのに、その方法を知らないから、こうやって意地悪することで気を引こうとする君。そんな君が、僕は大好きだよ。
「可愛いなぁ…。そうやって敵のふりして僕の気を引きたいんだろ?」
手に取るように君の気持ちが僕には分かるから。だからね、つい。つい君をからかってしまうんだ。君の遊びに付き合ってあげるんだ。本当は抱きしめて、ずっと。ずっと腕の中に閉じ込めておきたいけど。色々な手を考えて僕の気を引こうとする君もまた、どうしようもない程に可愛かったから。可愛い、から。だから、ね。
「違うっ俺様は何時だってお前を倒したいって…んっ…」
そのまま君の顎を捕らえて覆い被さるように、キスをした。触れた瞬間、ぴくんっと腕の中の身体が硬直したけれど。けれども、ゆっくりと瞼が閉じられるのが、僕には見えたから。
「…んっ…はぁっんっ…」
口を開かせて、舌を忍び込ませて。
全てを溶かすように、何度も絡め合わせて。
意識も、こころも、全部。
全部溶かすように、君のこころの壁を。君の小さな意地を。
全部、全部、溶かしてしまうように甘いキスを。
唇を離せば、その瞳はうっすらと潤んでいた。溶けるようにぼんやりと潤むその漆黒の瞳。綺麗だなと思った。宝石みたいに綺麗だなって。噛みつきたいなって思った。
「嫌いだったら拒めるだろう?」
顎のラインをそっと撫でる。何度も何度も、撫でる。その手を頬に移して、そして包みこんで。滑らかな頬を包みこんで。もう一度額に唇を、落とした。
「…あっ……」
額にキスしただけなのに目をぎゅっと瞑る君が可愛い。可愛いよ、どうしようもないくらいに君が。
「…ち、違うお前が突然っ」
額から離れた唇にほっとしたのか、息を吐き出してから君は言った。上目遣いで涙目になりながら。頬を真っ赤にしてムキになる君が。そんな君が愛しくて堪らない。
―――やっぱり君をこのまま。このまま全部、食べてしまいたい。
可愛い、君。素直じゃない君。
意地っ張りの君。子供のような君。
全部。ああ、全部。全部、好きだよ。
そんな君が、何よりも大好きだよ。
だからずっとね。ずっと構ってあげる。
君が望むだけ、ずっとね。ずっと、僕が。
君を構ってあげるから。だから。
だから他の事は考えないでね。僕だけの事、考えていてね。
見上げてくる瞳が、微かに潤んで。頬は朱染まって。
「突然でも拒めただろう?」
その熱さを手のひらで感じながら、僕は。
「…こ、拒めない……」
僕は益々熱くなる君の頬を何よりも愛しく感じながら。
「拒めないだろう?僕を」
恥ずかしくて俯きそうになる君の顔を固定させて。そして。
―――そして、一番君から聴きたかった言葉を…聴く……
「…うん…拒めない……」