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地上の鎖


空を、飛びたかった。
自由に空を、飛びたかった。
誰にも邪魔されずに、背中に生えたこの翼で。
この翼で、空を。
空を、飛びたかった。

けれども俺には羽根がない。背中に生えた翼は何時しか漆黒の闇に染まり、ただれていった。穢れて傷つき、そして毟り取られた。

お前の背中の白い翼だけが、俺の唯一の光だった。

「傍に、いる」
そう言ってお前は微笑った。無邪気な笑顔で、生まれたての子供のような笑顔で。何者にも穢されていないその笑顔、瞳。その全てが俺にとっての贖罪になる。
「竜宮が、傍にいる。ずっと天城氏の傍にいる」
手を差し出して、俺の髪をそっと撫でた。綺麗な指先。傷一つない指先。
そんな手で俺に触れないでくれ。お前の手が、穢れてしまうから。綺麗な何一つ傷のない指先が、俺の闇と血で染められてゆくから。だから、触れないで…くれ。
「お城ちゃん…俺は……」
それでも。それでも触れていてほしいと思う。お前の温もりがたとえこの髪の先からでも伝わると言うのならば。この僅かな場所から、お前の光が注ぎ込まれるというならば。
「どうしたの?」
触れた指先を、堪え切れずに自らの指先で包み込んだ。暖かい、指先。俺とは対照的な、暖かい手。暖かいこころ。暖かい、魂。
「…お前の手は…暖かいな……」
もっともっと、お前に触れたい。その身体に、この心に、その魂に。全てを透過して、この腕の中に奪ってしまいたい。
けれどもそれは出来ない。俺の全身が闇に堕ちた以上、お前に触れる事は出来ない。
こうして今指先を包み込んでいるだけで、お前は穢れはしないだろうか?
「暖かいよ、天城氏に包まれているんだから」
「…お城…ちゃん……」
「むぅ、その呼び方はよすのだ」
頬を膨らませながら、拗ねるお前は本当に無邪気で。無邪気だから、泣きたくなった。
でも今泣いたとしたら、俺の瞳から血の色をした涙が零れるのだろう。
それでもお前は俺の涙を拭ってくれるか?
「でも他の呼び方はイヤだ」
「何でなのだ?」
「だってそう呼ぶのは俺だけだから。俺だけがお前をそう呼んでいるから」
バカみたいな小さな独占欲。お前は俺の物ではないのに。俺だけの物には決してならないのに。どんなにどんなに求めてもその背中の翼が俺とお前の距離を遠ざけて行く。そして永遠に触れられない距離へと。
何時しかこの手で触れる事が出来ない場所へと、お前はその背中の羽根で飛び立ってゆくのだろう。
俺にはない綺麗な白い翼で。その穢れなき翼で。それでも。
「…俺だけが、呼んでいるから…」
心の何処かで思っている。その翼を俺の闇と血で染めて、何処にも飛び立てないようにしてしまいたいと。
そうして、そうして、閉じ込めて。閉じ込めてしまえたらと。
拒まない唇に口付けた。こうやって少しづつ俺は闇をお前に注いでいる。

漆黒の闇と紅の血で染められた俺の羽根。
その重みに堪えきれず根元から腐り、そしてなくなった俺の羽根。
お前の傍に行きたいのに。お前の隣に立ちたいのに。
それなのに少しづつ離れていく距離。確実にお前は空へと舞い上がり、俺は地上の鎖に足を捕らわれている。
生暖かい血と、喉の奥まで浸透する闇が身動きを出来なくさせて。そして。そして俺は全てを失ってゆく。

お前の光だけが、俺の闇を照らす唯一の存在。

「天城氏」
本当は名前で呼びたかった。皆と同じじゃなく、特別な存在だと伝える為に。けれども。けれどもどうしても名前で呼べない。呼びたくても、呼べない。
言葉にしたら何か大切なものがひとつづつ、消えて行きそうで。だから。だから、呼べない。
「何だ?」
「竜宮と天城氏は、そんなにも遠いの?」
こうやって近づこうとすれば、拒まれる。踏み出す前に冷たく深い壁に拒まれる。もっと、もっと近くにゆきたいのに。
「遠いよ、遠過ぎてお前の背中も見えない」
どうしたらもっと傍にいけるの?どうしたら、もっと近くに。幾ら格好だけ黒ずくめの衣装を着ていても、本物の闇になる事は出来ないの?
「…天城氏……」
背中の翼など折って欲しい。そうして、そうして隣に立ちたい。それすらも、ダメなの?

そばにいることすら…ダメ…なの?……

綺麗な、瞳。一点の曇りもない、その瞳に闇が染み込んだなら。
それは俺のせい。俺がお前に触れて、お前に口付けて、そしてお前を抱いたから。
内側から静かに浸透する闇と、生暖かい血。それは俺の最大の罪。最大の贖罪。
穢したくないと、何よりも綺麗なまま護りたいと唯一思った存在。そして穢しても、壊しても傍にいて欲しいと思った存在。
ただ愛しただけなのに、どうしてこんな事になってしまう?

ただお前を、愛しただけなのに。

「…お城ちゃん…」
これ以上。これ以上俺の傍にいないでくれ。

「…天城氏…」
もっともっと、近づきたい。その闇に触れたい。

『…愛している……』

どちらが先に言ったのだろうか?
重なった声は風にかき消されるように細い。伝えた想いの糸は、切れそうに脆い。
それでも、それでも確かにその想いを言葉にした。
消えそうで壊れそうなその想いを。想いを、言葉にした。

ああ、今この場で死ねたのならば。

触れたのは、互いの指先。
壊れそうな程細い絆で結ばれた指先。
それだけが、ふたりを結ぶ唯一のもの。
唯一の絆。それでも。

それでも確かにそれはふたりに存在した。

地上の鎖。
解けない。解きたくない。
このままお前の足に絡みつかせて。
このままお前の手首に結びつけて。
そして、永遠になれたのならば。

地上の鎖。
解きたい。解けない。
その足に絡みついた鎖を。
ひの手首に結ばれた鎖を。
解いて、一緒に空へ還りたい。

ふたりに、なりたい。


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