―――瞼の裏に映るのは、華の残像。
綺麗に、零れる。涙が、零れ落ちる。
その透明な雫をそっと拭って。そして。
そして唇に口付けた。
これが夢だったなら、少しは楽なのかもしれない。
「…あぁっ…天城氏……」
黒尽くめの衣装の下から覗く素肌は、驚くほどに白かった。その白を穢したくなくて、けれども穢したくて唇を落とす。白い肌に紅い花びらの跡を着けてゆく。
「…やぁっ…ダメ…あん……」
白い肌を少しづつ朱に染めてゆく、快楽。自らの手によって、色を染めてゆく悦楽。それは他のどんなものにも変え難かった。
「―――お嬢ちゃん、こっち向けよ」
「…あ、…あま…ぎ…んっ……」
熱く火照ってゆく身体を抱きしめながら、唇を奪った。髪に手を入れて、その感触を楽しみながら。さらさらの漆黒の髪をこの指に絡めながら。
「…ふぅんっ…んんん……」
上を少しだけ向かせて、唇を開かせた。そのまま舌を忍び入れ、ゆっくりと口中を貪る。甘い味が、した。お前の唇はひどく甘かった。
―――きっと、天国よりも…甘いんだろう……
「…はぁっ…ふむ…ん……」
ぴちゃぴちゃと濡れた音を立てながら、貪り奪う口付け。口の中に堪った唾液の味ですら、ひどく甘やかで。お前の口許から伝う唾液が、ひどく愛しかった。
愛しい、者。愛しい、人。この腕の中に閉じ込めて、永遠に俺だけのものに出来たならと。出来たならばと、それだけを願った。
『―――竜宮がずっと…ずっとそばにいる……』
背中から剥がれ落ちた羽は、ぼろぼろで。闇に染まり爛れて崩れていった。
『…だから…天城氏…泣かないで……』
ぼろぼろになって、何もなくなった俺。何も持っていなかった俺。そんな俺にお前は眩し過ぎて…どうしようもなく眩し過ぎた、から。
『…泣かないで……』
―――涙が零れて止まらなかった。
漆黒の衣装に身を包んでも、お前は眩しい。
きらきらと、強い光に包まれている。
強く、眩しい、その光が。
何時しか俺を焦がして、溶かしてしまうのかもしれない。
―――漆黒に堕ちている、俺は。
「…ああっ…あぁ…」
尖った胸に口付け、そのまま口に含んだ。軽く歯を立てれば、睫毛が揺れる。それを愛しく想いながら、もっと乱れた姿が見たくてソコに愛撫を集中させた。
「…やぁんっ…あんっ……」
びくんびくんっと震える肩を抱き寄せながら、紅く熟れた胸の果実を何度も咥えた。ちろちろと舌で嬲れば、耐えきれずに俺の髪をくしゃりと乱す。細いその指先が。
「…あぁぁっ…ん……」
それでも零れるのは甘い吐息だけ。甘くて、蕩ける声だけ。この声を知っているのは俺だけ。俺だけが、知っているお前の声。
―――そんな事ですら、俺にとっては何よりも満たされるものだった。
華を、降らせる。
お前の身体に。
俺がひとつひとつ。
その肢体に、余す所なく。
余す所なく華を。
華を、降らせる。
―――綺麗だね、とてもお前は綺麗だね。
夢だったら、よかった。
この腕に抱いているのも。
こうして抱きしめているのも夢ならば。
俺のただの幻想だったならば。
俺はこれ以上、苦しむ事はないから。
―――お前を穢していると云う事だけが、事実だった。
「―――あああんっっ!!」
脚を割って、そのまま中に入っていった。熱くてきつい、お前の中に。締め付ける肉の感触だけで、俺はイッてしまいそうだった。
「…あああっ…あぁ…あま…ぎ…し…あああっ!」
ぐいっと腰を引き寄せ、より奥へと入ってゆく。ぐちゃぐちゃと中を掻き回して、最奥を抉った。
「…ああ…あぁ…あんっ…あんっ……」
背中に爪が立てられる。血が零れ落ちるほどにきつく。きつく抱きつかれるこの瞬間が何よりも嬉しく、何よりも辛い。何よりもお前が愛しい存在だからこそ。
俺はお前を抱くぼとの人間なのか?俺はお前を愛する資格のある人間なのか?
それはずっと。ずっと俺の中にさ迷っている迷路で、そして永遠に出ない答えのようだった。それでも。
「―――お嬢ちゃん……」
「…あま…ぎ…し…あぁ…あ…」
それでもお前は、俺を求めてくれる。俺に手を差し出してくれる。それが。それが何よりも。
――――何よりも、幸福でそして苦しい……
「お嬢ちゃん、俺は―――」
「ああああっ!!!!」
一番奥の肉を抉って、俺はその中に欲望を吐き出した。
―――あいして、いる。と、声にならない声で、告げた。
天城氏、何を見ているの?
そんな哀しい目をしないで欲しい。
竜宮は何も出来ないけど。でも。
でもずっと、そばにいるから。
独りじゃないから。だから。
だから、笑って欲しい。竜宮は。
―――天城氏の笑顔が何よりも好きだから……
熱い、身体。包み込む媚肉。
零れる甘い吐息。そして。
そして流れ落ちる涙は。
全て、現実だから。夢じゃないから。
どんなに苦しもうとも、俺はそれを全て受け入れる以外にはない。
「…天城氏…苦しい?…」
「お嬢ちゃん?」
「…竜宮といると…苦しい?…」
「……ああ、好きになり過ぎて…苦しい……」
「…でもね…竜宮も…」
「…竜宮も…苦しいよ……」
夢よりも苦しいもの。それはこの想い。それでも。それでも俺達は……
「でもそれ以上に、一緒にいたい…駄目なのか?」
「―――駄目じゃねーよ」
「…天城氏……」
「俺も…どんなになってもやっぱり」
「やっぱりお前と一緒にいたい、から」
目を閉じれば華の残像が。
俺がお前に付けた花びらの雨が。
それが決して消えない罪ならば。
その罪を腕に抱いて。全ての贖罪を抱いて。
そして、お前をこの腕に抱こう。誰に何も言われても、もう戻ることは出来ないのだから。
…愛していると云う想いは、決して消える事はないのだから……