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FLOWER


君に花束のシャワーを。
一面の、花びらを。
君の笑顔の為に。君の幸せの為に。

一面の花びらの、雨を。

暖かい太陽の日差しが、瞳に焼き付いて。目を閉じてもその光の残像が瞼の奥に焼きついていた。
「どうした、蒼?」
頭上から降り注ぐ、声。優しく降り積もる、声。大切なぼくの道しるべ。
「太陽が眩しくて目が開けられない」
目を擦りながら言うと、そっと髪に手が降りて来た。優しく髪を撫でられる。それがひどく、ひどく気持ち良かった。
「大丈夫だよ。今は僕が太陽の光を遮っているから」
その言葉にぼくはそっと、目を開いてみた。するとそこには逆光に照らされた京介の大きな輪郭が瞳に飛び込んできた。
「どうした?」
「京介が太陽のせいで見えなかった」
しばらくして瞳が慣れてきて、ぼくは京介の衣服の裾にぎゅっとしがみついた。やっぱり声を聞いても、触れられても、何処か安心出来なくて。こうやって瞳に姿を映して、こうやって自分から触れる事が出来ないと。
…なんだか、落ちつけなくて……
「今は見えるだろう?」
「うん、見える。京介の顔が」
見上げた先の瞳の優しさに微笑ったら、京介はそっと。そっとぼくにキスしてくれた。

降り注ぐ優しい花びらの雨。
君の淋しさや心の傷を埋めるように。
ゆっくりと振り続けるその花の香りに。
永遠に包まれていられますように。

優しい眠りを、妨げないように。

触れるだけのキスは、ひどく優しくて。優し過ぎる、くらい。
唇が離れても、しばらくはその余韻を味わいたくて瞼を開くのを躊躇った。すると今度は瞼の先に唇が降りて来た。
「…京介……」
袖口を掴んでいた手を、背中に廻した。広くて大きな背中。ぼくを無条件に護ってくれるその背中。その広さを指先で確かめながら、ぼくは小さな幸福感を胸に宿す。
「どうした?」
「何でもないよ、名前呼んだだけ」
こうして声に出して呼ぶだけで口許に言葉を乗せるだけで、幸せになれる不思議な言葉の呪文。唱えるだけでぼくの心の空洞を埋めてくれる大切な言葉。
「変な奴だな」
そう言いながらも声は優しいから。誰にも分からなくてもぼくだけには分かる京介の微妙な声の変化。ぼくしか知らない、ぼくだけしか知らないものだから。
だから誰にも、言わない。ぼくだけの小さな秘密。

ふたりをそっと、包み込んで。
誰にも邪魔されない透明な空間に。
花びらとともに、閉じ込められたのならば。
誰にも触れる事の出来ないその棺の中に。

綺麗で静かな時間軸に、永遠に閉じ込められてしまいたい。

抱きしめられる腕の広さと心地よさが、ぼくの世界の全てになる。この腕の中の世界以外何も知らなかったならば、ぼくは世界で一番幸福な子供でいられただろう。
この優し過ぎる空間だけを、ぼくの世界の全てになれたのならば。
「…蒼……」
「なに?」
名前を呼ばれたから、またぼくは見上げてみた。そこにあるのはやっぱり優し過ぎる京介の瞳。ぼくの大好きなその瞳。
「名前を呼んだだけ」
「むぅ、なんだよそれは」
「蒼の真似だよ」
くすっと小さく微笑った京介がなんだか無償に憎たらしくて、ぼくはぎゅっとひとつ背中をつねってみた。
「痛いぞ、蒼」
「京介が悪いんだ」
「どうして?」
「ぼくの真似なんかするから」
「だって最初に言ったのは蒼の方だろう?」
「でもでもダメなの」
「何故?」
「だってぼくが京介の名前を呼びたいんだもん」
自分でも妙なことを言っていると思った。案の定京介はくくっと笑い出した。
「それじゃあ回答になっていないよ、蒼」
「…でもダメなの『真似』じゃダメなの」
「じゃあ、なんならいいの?」
京介の言葉にぼくは。ぼくは少しだけ頬を染めながら。

「京介がぼくを呼びたいと思ったら…いいの…」

子供みたいなバカな主張に、それでも京介は微笑ってくれた。そして、そしてそっとぼくの頭を撫でてくれて。
「何時も呼びたいと思っているよ」
そっと額に唇を落とされる。そこから広がる暖かな温もりが、ひどく心地よくて幸せだった。
「蒼の名前を呼びたいと」
額から瞼、そして頬へと落ちてくる唇に。その唇に柔らかい甘さと、くすぐったさが混じって。混じって胸に甘い痛みを落とした。
「こうして声にして、蒼の存在を確認するために」
両手が頬を包み込んで、ゆっくりと視線が絡み合う。でもぼくの頬はきっと真っ赤になっているから、じっくりと見られるとひどく恥かしい。
「蒼が僕の傍にいるって、確認するために」
何時も、傍にいる。例え離れ離れになったとしても、ぼくの心は魂は何時も京介の傍にあるのだから。だから京介も、ぼくの傍にいてほしい。ずっと、ずっと。
「傍にいるよ」
「でも何時しか別れが来る」
「別れが来ても、傍にいる」
「それは不可能だよ、蒼」
「どうして?例え互いの姿が見えなくなっても、こうして触れられなくなっても…こころは、こころはずっと一緒にいられるよ」
「…蒼……」
「一緒に、いられるよ」
例えこれからぼくたちが違う道を歩んでも。二度と交わることがなくなっても。それでも。
互いが互いの存在を思っている限り。心の中に互いが住んでいる限り。こころの奥底で、繋がっているのだから。

…淋しくない…君のことを考えている間は…

「…そうだね、蒼……」
それ以上京介は何も言わず、ただぼくをずっと抱きしめた。何度も何度もその指先で髪を撫でながら。だからぼくは目を閉じた。
眩しい太陽から、京介と言う太陽から、そっと。
でも太陽の光は瞼の残像に焼きついているし、京介の眼差しはぼくに降り注いでいる。そう、この目に映らなくても。この手に触れられることが出来なくても。
こうやって、こうやって存在を確認することが出来るから。だからもう。もう、怖くない。もう不安になる事もない。京介の存在がなくて怯えることもない。
こうやってこころが結びついているかぎり。

花束、一面の花束。
ふたりに注ぐ花びらの雨。
そこにふたりのこころを永遠に。
永遠に結びつけて、そして。

そしてひとつに、なろう。


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