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未来


ずっと一緒にいられるなんて、それは夢でしかない。

目覚めた瞬間に、君がいない。そんな夢を見た。
ふいにそれが現実と夢とがごちゃまぜになって分からなくなる。
君がそこにいるのか。君がここにいないのか。

―――ふいに、分からなくなる……

目覚めた瞬間に、零れたもの。
手のひらから、零れたもの。
さらさらと、零れ落ちてゆくもの。


「京介」
伸ばされた手は何時しか僕よりも一回りだけ小さな手になっていた。初めて僕に伸ばされた君の手は小さくて、そして。そして壊れそうだったのに。
「どうした?蒼」
「京介…なんか…哀しそうに見えたから…」
伸ばされた手が僕の頬に触れる。暖かい、手。冷たく凍えていた君の手は何時しかこうしてぬくもりを伝えるようになっていた。
「蒼の気のせいだよ」
微笑って、そして君を抱きしめた。僕の腕にすっぽりと包まれる身体。こうして君を腕の中に抱きしめる事がひどく安心をする。こうやってまだ君が僕の腕の中にいる事に。
「でも瞳が哀しそうだ。泣いているみたい」
見上げてくる瞳。僕の瞳が泣いているみたいだと言うけれども、僕には君の瞳の方が泣いているように見えるよ。

―――でももう…昔のように膝を抱えては泣かないんだね……

「泣いてないよ、蒼の気のせいだ」
ぽんぽんと背中を叩いて、その髪にキスをした。何時ものようにそっと。

―――そっと、キスを…した……


何時まで僕等はこうしていられるのだろうか?
何時まで僕等はこうやっていられるのだろうか?
心地よい水底に眠る魚のようなこの日々を。

―――僕等は何時まで…?……


何時しか君は僕の腕の中から飛び立ってゆくだろう。
その背中にある真っ白な羽が、君を飛び立たせる。
僕の手の届かない場所へと、君を。
でもそれを僕が止める権利はない。それを僕が奪う権利も。
君はこれから未来に生きて、そして。
―――そして羽ばたいてゆくのだから。


それでも、今はこうして君に触れていたい。
「…京介……」
見上げてくる漆黒の瞳を瞼の裏に焼き付けて、そうしてもう一度キス。
「…きょう…す…け……」
繰り返されるキスの間に零れる君の声。僕の名を呼ぶ、君。
「……大…好き……」
背中に廻した腕の強さと、そして一生懸命さが。
「…だい…すき……」
何よりも、嬉しく、切ない。


「僕も蒼が一番好きだよ」
「一番?一番、好き?」
「一番、好きだよ」
「うん、僕も。僕も京介が一番好き」


何時まで。何時まで君の『一番』でいられるだろうか?


抱きしめて、君を抱きしめて。
きつくこの腕の中に。
そうしたら君は。君はずっとここにいる?

―――そんな事を考える自分が、浅ましくて嫌だった。



本当は何処かで、気付いていた。
京介と、僕と。ずっとこのままで。
このままずっと一緒にいられるなんて。
一緒にいられる訳がないと。
本当は何処かで分かっていた。
それでも。それでも願っていた。

―――このまま時が止まってしまえたら、と。


でもね、京介。
僕は京介と同じ位置に立ちたいんだ。
何時も何時も背中を追い駆けるんじゃなく。
何時しか真っ直ぐ向き合って。
同じ目線の高さで。同じものを見て。
京介の隣に、立てる人間に。
僕の背中に背負っているたくさんのものを振り払って。
ただの僕になって、京介の隣に。
隣に、立ちたいから。


――――何時か、追い着きたい…んだ……


「ねえ、京介」
「ん?」
「何時しか、ね…僕等の道が違う所へ行っても」
「―――蒼……」
「こうして心は、繋がっているよね」


手を差し出して、指を絡める。
そっと、そっと指を絡める。
そのぬくもりが、指が離れても。
離れても、ずっと。

ずっと、繋がっているから。


「…そうだね…蒼……」


君がこの腕から離れ、そして飛び立ったとしても。
僕等が離れ離れになっても、それでも。
それでも『今』は決して消える事も、色あせる事もなく。
そしてそれは確かに未来へと続いてゆくものだから。



―――未来、へと………


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