―――繋がった、小指の糸。
それが僕達を結ぶただひとつの絆。
記憶の片隅に押しやられた、ただひとつの。
ただひとつの、絆。
『…君を…愛していた……』
僕らはどちらが死ぬまで、殺しあう運命。互いの息の根を止めるまで、その血を流し合う運命。その先に辿り付く未来が絶望でしかなくても、それでも僕らはそれ以外の道はないのだから。
「…幻十……」
「―――せつら……」
『僕』が愛したのは、君だけだよ。どんな事になろうとも、僕が愛したのは君だけなのだから。
「これで『僕』が君に逢えるのは最期かもしれないね」
忘れていた、忘れようとしていた、ただひとつの約束。幼い頃にした約束。僕は忘れていた。いや、忘れていたかったんだ。
―――僕の小指の糸が結んだ先を……
この糸が紅い糸だったらよかった?紅い糸だったらよかったのか?でももうすぐ紅い色に染まるだろう。この糸は君の血を吸って真っ赤な糸に染まるだろう。君の血を、吸いとって…。
……それは『僕』が望んだものなのだろうか?………
幼い頃、ただひとつだけ。
ただひとつだけした約束。
君の首にかけた小指の糸。
――― 一緒だよ、と。
そんな意味だったんじゃないのか?
そんな想いからじゃなかったのか?
それでも糸は僕の指に。そして君の首に。
それは決して逃れられない事実。
初めから、運命なんて決まっていたのに。
僕は、君が好きだった。
君だけをずっと、好きだった。
君だけが欲しくて、君だけを想っていた。
けれども『私』はそれを許さない。
魔人である以上、それは許されない。
何故なら、僕達は。
僕達は、殺し合う運命から逃れる事は出来ない。
「…せつら…僕らは…殺し合う為に生まれてきたんだ」
僕と君の存在意義は。
僕と君が存在する理由は。
ただひとつ。
どちらが扉を開く事だけ。
その女を手に入れる事だけ。
ただそれだけが。
それだけが存在意義。
この穢れ、魔に犯された街で。
ただそれだけが、僕らを結び付けるもの。
小指の、糸。
君の首にからまった、糸。
それだけが。
それだけが僕らを結ぶ唯一のモノだった。
この糸を紅い血で染め上げたならば。
そうしたら、僕らは。
僕らの唯一の絆は、どうなるの?
「…さようなら…幻十……」
愛していたよ。僕は君だけを愛していたよ。
けれどもそれは私が許さない。魔人として生きる私が許さない。
そう言った個人的な感情では、生きる事は許されないんだ。
だから、『私』は君を消す。
唯一の『僕』の障害である君を。
それ以外に選択肢はないのだから。
…それでも僕は、君を愛していたんだ……
逃れられない運命に逆らう事は出来ない。
それでも君の首に小指の糸をかけた事が。
君の指に、この糸を結んだ事が。
…それがただひとつの僕の答えだから……
さようなら、幻十。君だけを、愛していたよ。