大事なことは、目には見えない所にあるから。
目には見えないけれども、伝わるもの。そっと伝わるもの。
それが何よりも、大切。何よりも、大事。
…目には見えなくても、こうして指先に伝わるものが……
優しい人、だから。不器用でも何よりも優しい人だから。
私はそんな貴方が。そんな貴方が、何よりも大好きです。
―――傍にいてずっと…ずっと指を絡めていたいの……
「どうだ、ユリアン。最近は」
背後から掛けられた声に俺はどきりとした。別に何を今更緊張する事ではないけれども、やっぱりどうしても…。
「どうって…ミカエル様」
黄金の髪。蒼い瞳。彼女と同じでありながらその印象は全く違う。そこにあるのは冷たさと、そして絶対の強さ。彼女の柔らかさとは別のもの。
「―――モニカとはどうしている?」
意外な答えに一瞬、俺は頭が真っ白になった。まさそかんな事を聴かれるとは思わなかったので。と言うかこの人がそんな風に妹を気に掛けて、俺自身に聴いて来ることが思考の範囲外だったので。
「あ、その…えっと…何と言えば…」
困って返答出来ない俺に、ミカエル様はひとつ。ひとつ、微笑って。そして。
「モニカの花嫁姿を、楽しみにしているからな」
―――思いがけない言葉を俺に、告げた。
『大切な人です。私にとって、貴方は』
真っ直ぐな瞳で彼女は言ってくれた。恋人だから『様』を付けないで…と微かに頬を染めながら。それでも。それでも俺は何処かまだ自分に自信が持てないでいる。
今の地位も、ミカエル様が与えてくれたものだ。彼女の相手は貴族でなければならないからと。身分差を解消する為に、与えられたもの。
……決して自分の力で勝ち取ったものではない……
俺は君に相応しい人間なのだろうか?君は完璧な『お姫様』で、何処にも非の打ち所がない。誰にでも優しく、そして慈愛に満ちている彼女。どんなものにも深い愛情を注ぐ彼女。
そんな彼女の隣に俺は立っても…いいのか?そんな君を、俺は護る資格があるのか?
ふとそんな事を考えて。考え出したら止まらなくなって。そして何時も。何時も答えは導き出されることはなく、堂々巡りだった。
俺が持っているものはただひとつ。ただひとつだけ、誰よりも君を好きだと言う事…それだけだった。それ以外のものを何も持ってはいなかった、から。
「ユリアン、どうしたのですか?」
背後から掛けられた声に驚いたのは今日、二度目だった。けれども振り返った瞬間に、俺の口から零れるのはただひたすらに、柔らかい笑みだけで。
「考え事をしていた」
「何を考えていたのです?」
横に並び俺を見上げる蒼い瞳。綺麗な空だけを切り取った瞳が、反らされることなく俺を見つめる。そうだね君は何時も、真っ直ぐに俺を見つめていてくれた。
「――――モニカの事だよ」
その言葉に少しだけ恥ずかしそうに君は微笑って。そっと俺の手に自らの腕を絡めて。絡めて、そして。
「…私の部屋に…行きませんか?……」
俯きながら、小さな声でそう言った。俺はそんな君を、このまま抱きしめたかった。
「紅茶、飲みますか?」
「ありがとう」
彼女の部屋に通され、そして煎れたての紅茶を渡される。そこから薫る暖かな匂いが心をそっと落ち付けた。
「で、何を考えていたのですか?」
向かい合って座りながら、大きな瞳が俺を真っ直ぐに覗きこむ。その瞳は何時も本当の事だけを見つめていて、俺の些細な心の歪みも溶かしていってしまう。真っ直ぐな蒼が。
「…俺が君に…相応しいかって…考えていた……」
だから俺は決して君に嘘はつけない。君に隠し事は出来ない。真っ直ぐに見つめられる瞳に答えを隠し通す事が出来ないから。
「…ユリアン……」
カチャンと小さな音がした。君が手に持っていたティーカップを皿の上に置く音。その手が少しだけ。少しだけ震えて見えたのは俺の気のせい?
「どうして今更…そんな事を言うのですか?私には…貴方しか……」
「違う、モニカ…俺は…その…俺は…何も持ってはいない」
綺麗な瞳が、動揺しているのが分かる。ごめん、君にそんな瞳を俺はさせたいんじゃない。そんな顔を君にさせたいんじゃない。俺は。俺は…。
「…君に相応しいだけの力も…地位も…俺は……」
その言葉に君は何も言わずに椅子から立ち上がった。そして。そしてそっと俺の前に立って。立って、そっと。そっと微笑った。
大切な、ひとです。貴方は大切な人です。
私にとって貴方の手だけが。貴方の手、だけが。
私を外の世界へと導いてくれた。その手が、私を。
護られることしか知らない私。兄に護られることしか。
この小さな城の中だけが私の世界の全てだった。
この中だけが、私の世界の全てだった。でも。
…でもそんな私を連れ出してくれたのは貴方…その手だけが、私を導いてくれる……
「…貴方はたくさんのものを持っています…」
「…モニカ……」
「私が持っていなかったものをたくさん…そして…そして貴方だけが私にくれました」
「―――でも俺は……」
「地位よりも力よりも大事なものを貴方はくれました。私に」
「私のこころに」
微笑いながら、そっと。そっと君は俺の手に指を重ねて。
重ねてそのまま君の胸の上に手を置いた。
柔らかい感触が布越しに指先に伝わるのを感じながら。
伝わるぬくもりに、俺は胸が締め付けられそうになった。
「…モニカ……」
重なった手のひらが。そこから伝わる胸の鼓動が。
「…好きです…貴方だけが…貴方だけが…好き……」
激しく打つ、胸の音と。重なる手の熱さが。
「…俺もだ…モニカ…俺だけの……」
全てが溶かされ、そして甘い痛みになる。
そのまま細い身体を抱きしめ。きつく、抱きしめ。俺は君の身体をベッドの上へとそっと押し倒した。
「―――怖い?」
額にひとつ口付けを落としてから、俺はそっと君に尋ねる。そんな俺に答えるように蒼い瞳は開かれ、首を左右に振って。
「どうして?私ユリアンを怖いと思ったことなど…一度もありません」
くすりと微笑う君の唇をそっと塞いで。塞いだままゆっくりと俺はその衣服を脱がしてゆく。手が緊張して中々上手く脱がせられなかったが、それでも何とか全部を脱がして君を生まれたままの格好にする。
「…怖くないですけど…恥ずかしいです……」
「綺麗だよ、モニカ」
恥じらいの為に頬を染め、視線を外してシーツに顔を埋める君が愛しかった。そんな君のさらさらの髪を撫でながら、ゆっくりと胸に手を当てる。
「…あっ……」
小ぶりだど形のよい白い胸に指を這わす。こうして少し力を入れただけで、潰れてしまうほどの柔らかい胸を。
「…あっ…はぁっ……」
出来るだけ丁寧に、君に触れた。元々俺は乱暴だったから。だから君を壊してしまわないかと心配になって。心配になったから、だから俺は。俺は細心の注意を払って、君を手に入れてゆく。
「…あぁっ…あんっ…ユリ…アンっ……」
口に手を当てて必死に堪えようとする君が愛しい。ほんのりと汗ばみ、紅く染まってゆく身体も。その全部が、俺にとっては。
「―――愛しているよ、モニカ」
「…あぁっんっ…はふっ……」
胸を指先で弄りながら、空いている方を口に含んだ。ピンク色の突起に舌を這わせ、ちろちろと舐める。それだけでびくんびくんっと腕の中の身体が震えて。
「…あんっ…あぁ…ユリアン……」
しばらく胸を弄っていた舌と指をゆっくりと身体全体へと這わした。触れていない個所などないように、君の全てを手に入れるために。余す所なく、全てに口付けをして。全てに、触れて。
「―――あっ!!」
びくんっと君の身体が波打つ。一番最奥の部分に俺の指と舌が辿り付いてせいで。まだ硬く閉ざされた蕾に俺は舌を這わす。綺麗なピンク色をした花びらを。
「…あぁっ…くふっ…はっ……」
始めての刺激に君の両足ががくがく震えていた。俺は腰を抑えながら、君の秘所に舌を忍ばせる。奥へ奥へと埋めながら、出来るだけ傷つけ名ないようにと、丹念に唾液で濡らした。
「…はぁぁっんっ……」
充分に濡れぼそったのを確認して、そのまま舌を離して君を見下ろした。長い金色の髪が白いシーツに波打っている。それがひどく。ひどく、綺麗だった。
「…モニカ……」
「…あっ……」
そのままもう一度ぎゅっと君を抱きしめて、指先を蕾に埋めた。先ほどたっぷりと濡らしたお陰で、思ったよりもスムーズに花びらは異物を受け入れる。くちゃくちゃと中を掻き乱して、ソコを充分に異物の刺激に慣れさせる。
「…あっ…くうんっ…ぁぁ……」
一番君の感じる部分を探り当て、そのままぎゅっと摘まんだ。それだけで、シーツの上の白い肢体が波打つ。同時に乳房を揺らし、髪も乱した。その姿がひどく。ひどく俺の欲望を煽って。
「―――モニカ…いい?」
くぷりと音とともに中に埋めていた指を離す。そうして俺は充分に硬度を持った自身を彼女の入り口に、当てて。そしてそっと。そっと耳元に息を吹き掛けるように囁いた。
「…ユリアン…平気です…私は…平気…だから……」
震える睫毛を開いて、俺を見上げる蒼い瞳。目尻から零れる涙が、ぽたりと頬を濡らす。それをそっと拭ってやりながら、俺は君の腰を掴んでそのまま侵入した。
何時も貴方が、連れていってくれるから。
私を知らない世界へと。私を知らない世界へと。
どんな時でも、貴方が。貴方だけが。
―――私を連れて行って…くれるから……
「―――あああっ!!!」
始めての衝撃に、君の身体が弓なりに反り返る。形よい眉が歪み、苦痛の為に涙がぽろりと目じりから伝う。それでも君は必死に俺の背中にしがみ付いて、離そうとはしなかった。
「…あああっ…ああっ…あっ……」
「大丈夫?モニカ?」
汗でべとつく前髪をそっと掻き上げて、額にひとつキスをした。そうしてそのままゆっくりと君の髪を撫でて、その顔を見つめた。
「…大丈…夫…です……ユリ…アン……」
うっすらと開かれる蒼い瞳が涙で濡れていた。それでもやっぱり君の瞳は真っ直ぐに。真っ直ぐに俺だけを見つめてくれる。反らされることなく、見つめてくれるから。
「…貴方だから…平気です…だから…ユリアン……」
「ああ、モニカ…止めない…君が…好きだから…」
口付けをひとつ唇に落として、俺は腰に手を掛けた。そしてそのままゆっくりと揺さぶる。熱い君の中に溶けてしまいそうな快楽を、感じながら。何度も何度も、揺さぶって。そして。そして―――
「ああああっ!!!」
最奥まで君を貫いて、その中に俺は欲望の証を注ぎ込んだ。
大切な、ひと。一番大切な、ひと。
貴方の強さと優しさだけが、私を。
私を知らない場所へと連れて行ってくれる。
他の誰でもない、貴方だけが。
貴方だけが私を、連れて行ってくれる、から。
――――貴方だけが私を…その手が導いてくれるの……
「…ユリアン……」
「…モニカ……」
「…ありがとう……」
「…私を…連れて行って…くれて……」
頬から零れ落ちる君の涙を、そっと。そっと指先で拭って。俺は。俺はもう一度君に、口付けて。そして。そして―――
「…俺と…結婚してください……」
俺の言葉にそっと君は微笑う。
そして。そして指を絡めて。
絡めて、見つめあって。そして。
そしてもう一度、微笑って。
「―――はい…ユリアン……」