むせ返る薔薇と、血の匂い。
目を閉じれば一面の紅い色だけが、鮮やかに。
鮮やかに世界を支配する。
真っ赤な薔薇の花びらがひらひらと。
ひらひらと、零れて。零れて、そして。
そしてそれは、血の海になる。
―――その海に、君が眠る……
貴女は私のただひとりの、大切な人。
その胸に唇を這わした。その瞬間に長い睫毛が、揺れた。哀しいほどに綺麗な、その睫毛の先が。
「…あっ…アセルス様……」
病的なほどに白い肌。どんなに触れてもどんなに熱を灯らせても、その肌が紅く染まる事はない。ただ白く、透けるほどに白く。
「…白薔薇……」
見つめあってそして互いに舌を絡めあった。ぴちゃぴちゃと音を立てながら、激しくその唇を貪り合う。貪り合って、そして蕩けてゆくまで。
「…んっ…んん…ふぅ…」
「…はぁっ…ん……」
互いの身体を密着させながら、口付けを繰り返す。絡め合っていた指先は何時しか互いの胸に触れていた。お互いにその柔らかい個所を揉み合いながら、互いのエクスタシーを高めるように舌をもつれ合わせた。
「…あぁ…アセルス様……」
一筋の唾液の糸を引きながら唇を離す。そこから零れるのは甘い息と、切ない言葉。そして高鳴る鼓動と、求め合う心。
「…白薔薇…好きだよ…」
「…私もです…アセルス様…アセルス様が……」
白薔薇のピンク色の舌がアセルスの胸の突起を突ついた。小さな唇がその果実を咥えて、ちろちろと舐める。その間にもアセルスは彼女の胸を激しく揉んでいた。
「…あぁ…んっ…白薔薇…そこは…ああんっ……」
かりりと音がして乳首を歯で噛まれ、耐えきれずに熱い息をアセルスは零した。オルロワージュの血をただ独り引いた自分。女の身でありながら女を惹き付けずにはいられないその血を。そして。そして自分が選んだただ独りの相手は…。
「…アセルス様…私のアセルス様……」
むせ返るほどの薔薇の香りが一面に漂う。それは白薔薇の愛液の匂いだった。感じるほどに昇りつめるほどに、その香りが強くなってゆく。
「…白薔薇…あぁ……」
「ああんっ!」
アセルスの手が白薔薇の足の間に忍び込み、既に潤っている秘所へと辿り着いた。甘い香りのするソコに、指を突き入れる。ぐちゃぐちゃと音を立てながら、一番感じる個所を探り当ててゆく。
「…ああんっ…あぁ…ダメです…アセルス様…あああんっ……」
びくびくと白薔薇の身体が震えて、アセルスの胸に舌を這わす事が出来ない。喘ぎを押さえる事が出来なくて。
「…白薔薇…好きだよ…私の…あっ!」
それでも白薔薇も必死になってアセルスの花びらを探り当てると、指を忍ばせた。互いの性器をそれぞれの指でまさぐり合う。とろりと蜜を大量に分泌させながら。
「…あぁ…ん…あぁ…アセル…あああっ!!」
「…ダメだ…もうっ…もう…ああああ……」
一番敏感な場所をそれぞれが見付けて、そして。そしてぎゅっと、指で摘み上げた。びくんっと身体が波打って、一瞬意識が真っ白になった。
血の、海。花びらの海。
紅い紅い海。
その中に君だけが。
君だけが、白い。
―――永遠に、君だけが……
「…はぁぁんっ…あんっ……」
花びらを擦り付けながら、互いに腰を振った。擦れ合っている器官がじんじんと痺れて、そして火照るように熱い。
「…あああっ…あぁ…ん…もっと…もっと…」
「…アセルス…様…あぁ…はぁあ……」
ぴちゃぴちゃと愛液が溢れ、互いの脚を伝ってゆく。それでも花びらは濡れてゆくばかりで、収まる事を知らなかった。
「…はぁっむ…はふぅっ……」
花びらを擦れ合わせるだけでは足りなくて、舌を深く絡め合った。指先を繋ぎ合った。そして、激しく腰を密着させて何度も何度も擦り合わせる。
「…はぁんっ…ふぅっ…んんん……」
「…んんんっ…ん…ふ…くぅん………」
もう何も、見えなくて。もう何も、分からなくて。ただ。ただどくどくと聴こえる互いの心臓の音と、そして。そしてぐちゃぐちゃと繋がっている個所から零れる濡れた音だけが全てだった。
―――それが、全てだった……。
「ああああ―――っ!!!」
「ああああんっ!!」
互いに喉を仰け反らせ、そして甲高い悲鳴を上げて。
そしてどろどろに蜜を分泌させて、果てた。
君は紅には染まらない。蒼にも染まらない。
そして私の中に流れるこの半妖の血にも。
誰よりも私を求め、そして私の半身であろうとも。
オルロワージュからかけられたその魅了から。
決して逃れる事は出来ない。そして。
そしてその魅了を受け継いでいる私からも。
むせ返る、血の匂い。むせかえる、薔薇の匂い。
そして胸に宿る、この痛み。
薔薇の刺が刺さって、貫いたこの痛み。
真っ白な、この痛みから。
私は永遠に逃れる事は出来ないのだろう。