―――そばにいることの、しあわせ。
一緒にいられることのしあわせ。
見つめていられることのしあわせ。
言葉を交し合えるしあわせ。
…こうして、指を絡められることの…しあわせ……
「…バカっ…もう、いい加減にしないかっ…こらっ……」
ベッドサイドのライトだけが映し出す室内に、掠れた甘い声が零れる。その声に答えるような柔らかい笑い声が、零れて。
「つれない事言うなよ、久々なんだから」
「…って久々だからって…こ、こんな何回も…っわっ、まだするのか…あっ…」
何度も快楽に煽られて敏感になった肌に成歩堂は唇を落とした。それだけで腕の中の、御剣の身体が、ぴくんっと震える。
「…止めっ…もぉ…ダメだと言っているだろうが…あ……」
「それだけ憎まれ口が叩ければまだ平気だよな」
「…何が平気なのだっ…こらっ…」
成歩堂の指が御剣の胸に伸びてそのままぷくりと立ち上がっている胸の果実に触れた。そのままぎゅっと指で摘めば、その唇から零れる吐息はひどく甘いものになる。濡れて紅く染まった、その唇からは。
「…あっ…やだ…やめろ…成歩堂……」
「僕にこうされるのは、嫌?」
うっすらと微笑みながら、成歩堂の指先が淫らにソレに絡みつく。御剣の身体を知り尽くした指先が、いとも簡単に彼を追い詰めて。追い詰めて、そして意識を思考を、溶かしてゆく。
「…あぁ…あ…成歩…堂…はぁっ……」
胸の果実を弄りながら、開いたほうの手が何時しか、御剣自身を包み込んでいた。それは既に何度も果てたはずなのに、微妙に形を変化させ感じていることを指先に伝えた。そんな事ですら…成歩堂には愛しかった。
「嫌じゃないよな?こんなにしてるのに」
耳元に囁かれた言葉に、御剣の頬がさぁぁと朱に染まる。それと同時に手の中の彼自身もどくんどくんと熱く脈打った。羞恥と同時に快楽が襲い、堪えようとして閉じた唇は…けれども叶わずに吐息を零すだけだった。甘く、蕩けるような喘ぎを。
「…あぁ…ああん……」
「熱いよ、御剣。感じているんだろう?」
息を吹きかけられるように囁かれ、身体の芯がぞくぞくと震えた。耐えきれずに身体が小刻みに揺れ、先端からは先走りの雫が零れて来る。幾ら首を左右に振って否定しても、とろりとした透明な蜜が何よりもの証拠だった。
「…もっと乱れていいよ。僕が見たいから……」
熱く囁かれる言葉に、自らの限界を御剣は感じる。けれども自身を愛撫する成歩堂の手の動きは柔らかく、イク事が出来なかった。否、イカせないようにわざと、緩い愛撫しか与えられなかった。
「…やっ…やだ…もう…止め…ふっ…くっ……」
じれた御剣の腰が、淫らに揺らめく。もっと強い刺激を求めて、無意識に成歩堂の手に自身を押しつけながら。けれどもそんな御剣をただ。ただ成歩堂は見下ろすだけで。
「―――イイよ、御剣…もっと乱れて」
「…やぁ…もぉ…ダメ…こんな…やだ……」
耐えきれずに目尻から涙が零れて来る。それが快楽のためなのか苦痛のためなのかは、成歩堂には判断出来なかった。けれども涙を零しながら腰を揺らして、自分を求める恋人に愛しさを感じずにはいられなくて。
「…あっ…成歩堂……」
ゆっくりと唇が降りてきて、零れ落ちる涙を舌で拭った。その思いがけない優しさに、御剣の濡れた瞳が開かれる。その瞳をただひたすらに成歩堂は綺麗だと思った。
「…んっ…ふぅ…ん……」
涙の痕を辿っていた唇が、何時しか御剣の唇を塞ぐとそのまま舌を侵入させた。逃げ惑う御剣の舌を強引に絡め取り、顎を捕らえて固定させるとそのまま口中を弄った。
舌裏を舐め、根元を吸い上げる。角度を変えながら何度も貪り尽くして、唇が痺れるまでキスを繰り返した。
「…はぁ…あ……」
長い溜め息が御剣の口から零れる。その吐息をもう一度だけ奪って、成歩堂は口許を伝う唾液を、その舌で舐め取った。そのたびに、腕の中の身体がぴくんっと揺れる。
「…あっ…ん…はぁん……」
口許から顎、そして首筋のラインへと舌を這わせると、そのまま鎖骨にひとつキスマークを落とす。彼が自分だけのものだと言うシルシを付ける為に。
「…なる…ほ…どう……」
御剣の指が成歩堂の髪をくしゃりと乱す。それを感じながら、成歩堂は自らの指を御剣の最奥へと忍ばせた。ソコは先ほど自らが吐き出した精液のせいで濡れていた。
「…あぁ…はふっ……」
あれほど肉を受け入れたはずなのに、御剣のソコは侵入する成歩堂の指をきつく締め付けた。何度貫いても、それはずっと変わらなかった。何時も初めてのようにその媚肉は彼の指を締め付ける。千切れてしまいそうになるほどに。
「…あぁ…あ……」
柔らかく中を掻き回しながら、残る精液を媚肉に擦りつけた。そのたびに蕾は淫らに蠢き、奥へと成歩堂の指を誘う。
「…ああんっ…あんっ……」
指の数が二本へと増やされ中で勝手気ままに動き回られて、御剣は耐えきれずに成歩堂の背中に爪を立てた。ぎゅっと爪を立てて、襲ってくる刺激に耐えた。分かっていたから。身体は、心は、分かっていたから。指よりももっと。もっと激しく熱い刺激が、自分に与えられることを。
「―――いい?御剣…」
指引き抜かれ耳元で囁かれた成歩堂の言葉に。御剣は微かに頷いた。
抱き合えることの、しあわせ。
ぬくもりを感じられることの、しあわせ。
ひとつになれることの、しあわせ。
―――全部、全部、ふたりで、感じたいから。
「―――あああっ!!」
指とは比べ物にならない異物が最奥に侵入して、御剣の形良い眉が歪む。しかしその表情は次第に快楽の色を、滲ませていって。甘く溶けていって。
「…ああっ…ああ……」
あれほど身体を繋ぎあったのに貪欲な御剣の蕾は、成歩堂の雄を激しく求めた。きつく締めつけ、楔を全て飲み込もうとでも言うように。
「御剣、きついよ。このまま僕を引き千切るつもりかい?」
「…違っ…そんな…あぁぁ……」
ばりりっと音を立てて、御剣の爪が成歩堂の背中に食い込んだ。そこからは鮮血が滴る。しかし成歩堂は別段気にした風でも無く、ゆっくりと腰を動かし始めた。御剣にそっと、微笑いながら。
「御剣、好きだよ」
力強い腕を御剣の細い腰に当てながら、激しく揺さぶった。繋がった個所からくちゃくちゃと淫らな音がする。それがひどく御剣の耳に響き、彼の羞恥心と性欲を煽った。
「…あああっ…ああんっ……」
抜き差しを繰り返すたびに、楔が硬く熱くなる。媚肉を押し広げられる痛みが、激しい快楽となり眩暈のような感覚が御剣を支配して。
「お前だけが好きだよ。ずっと、好きだよ」
「…あああ……」
ぐいっと成歩堂が御剣の腰を引き寄せる。そのまま最奥まで貫いて、成歩堂はその肢体の中に熱い欲望を注ぎ込んだ……。
しあわせ。たくさんのしあわせ。
それは小さな日常にたくさん転がっていて。
いっぱい、ふたりの間に落ちていて。
溢れるほどのしあわせが。いっぱい、いっぱい。
――――いっぱい、零れているから………
「……この…節操無しが………」
恨めしそうに自分を見上げる彼に、成歩堂はひどく優しく微笑って。
「お前を前にすると、我慢が効かなくなるんだよ」
「…だからって…貴様…限度ってものがあるだろうがっ!」
怒りの収まらないその唇に一つキスをして。そして。
「―――お前の前では限度なんてないよ」
「…限度ないくらい…好きだからね……」