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FLOATIN’


窓から流れてくる風がひどく、心地よくて。


真夏の空はくっきりと蒼く、四角い空間から切り取られたその色だけがひどく鮮やかだった。御剣はその色を見つめながら、微かに滲む額の汗を拭った。
「そんな事、しなくてもいいのに」
拭った手のひらを自分の向かい側に座っていた成歩堂に、奪われる。少し汗で濡れている指先を彼はぺろりと、舐めた。
「き、貴様っ何をっ!」
突然の事にびっくりしたように御剣は言うと、彼は悪びれもせずに微笑った。その顔がひどく無邪気なせいで、御剣はその先の言葉を見失ってしまう。言い掛けたはずの言葉が出てこないで、ただ。ただ成歩堂を見つめる事しか出来なくなって。
「君の汗も、全部僕のものだから」
腕を絡め取られ、そのまま引き寄せられて。引き寄せられて抱きしめられるのを…御剣は拒む事は出来なかった。



窓を開けていても部屋の中はじっとりと暑くて。
ワイシャツ越しにこうして触れ合う肌も微かに汗ばんでいて。
こんな風に抱きしめられるのは暑いだけのはずなのに。
なのに、背中に手を廻したら。廻したら、離せなくなった。
この背中のぬくもりを感じたら、離したくなくなった。



「どうしたの?今日はえらく素直だね」
背中に廻された御剣の腕に機嫌を良くした成歩堂がそのまま彼の額にキスをする。さっき自身が指で汗を拭っていたけれど、まだ。まだほんのりと水滴が残っている。それを舌で掬い上げながら、成歩堂は額に何度も口付ける。額だけでは足りなくなって、その髪にもキスをした。
「分からん」
相変わらず顔は不機嫌なままで、それでも背中に廻した手は離さない。そんな天邪鬼な所が、愛しくて堪らない。素直じゃないけれど、変な所が素直なのが。
「まあいいや。御剣から引っ付いてくれるなんて、嬉しいよ」
だから自分も彼の身体をぎゅっと抱きしめた。ひっついて余計暑くなるけれど、構わずに抱きしめた。



君の柔らかい髪。さらさらの、髪。
この指に刻んで、そして口付けて。
全部僕の記憶の中に埋めて。君だけ、埋めて。
ずっと君だけを捜していた。ずっと君だけ。
君だけが、ずっと欲しかった。ずっと、ずっと。
大事な子供の頃の宝物そのままに。
そのままに今君が僕の腕の中にいる。大事な。
大事な僕の、ただひとつの宝物が。


――――もう絶対に…絶対に離しはしないから……



成歩堂は御剣の髪を撫でながら、その頬に手を重ねる。微かに熱いのは、この気温のせいだけじゃないだろう。
「御剣」
名前を呼べば素直に顔を上げる。そんな所が好き。けれども瞳がかち合うと照れたように視線が反らされる。そんな所はもっと好き。
「…何だ…?……」
不機嫌なままもう一度御剣が顔を上げた。睨んでいるような顔。でもそれが照れ隠しなのだという事は、成歩堂には嫌と言うほどに分かっているから。
「好きだよ、御剣」
「――――」
ストレートに言えば、面白いくらいに重ねていた手のひらに熱を感じる。白い肌がさぁぁと朱に染まる。そう言った真っ直ぐな言葉に慣れていない御剣だから。
「好きだよ、御剣」
繰り返し言葉を告げれば耐えきれずに目を閉じた。その隙を狙うように成歩堂は無防備な彼の唇を塞いだ。押し当てられた柔らかい感触に、ぎゅっと御剣が目を閉じるのを確認しながら。



重ねあった唇から、伝わるものがあって。
それが不器用な君の気持ちならば。僕は。
僕は目を細めて、笑うだろう。誰よりもしあわせな顔で。
きっと誰よりも、嬉しそうな顔で。
言葉に出来ない気持ちが、こんな風に伝わるなら。



「…き、貴様はっ…そんないきなり……」
「いきなりじゃないよ、何時も思っている」
「…な、何をだ……」
「君が好きだって。君にキスしたいって、そして」


「―――君を、抱きたいって……」


その瞬間腕の中の身体が一瞬硬直して。そして。そして次の瞬間大きく息を吸いこんで、そのまま。そのままゆっくりと体重を僕の腕の中に預けてきた。ゆっくりと、預けてきた。
「ん?御剣?」
そんな御剣の髪にキスをしながら、成歩堂は尋ねる。柔らかい声が御剣の瞼を震わせている事を、気付いているのだろうか?
「…今は…駄目だ……」
「どうして?」
何を言うのだろうと思いながらも成歩堂は先を促した。こんな風に返してくる事がひどく珍しかったから。だから成歩堂は御剣に尋ねる。
「…今は…私は……」



成歩堂は、微笑った。何よりも嬉しそうに微笑って。
きつく、御剣を抱きしめた。ぎゅっと、抱きしめた。
彼が聴こえないほどの小さな声で。成歩堂だけに、聴こえる声で。
そっと。そっと、囁いた、その言葉に。



――――…今は…汗で…べとついているから……と。



「いいよ、汗も全部君のものなら」
「…成歩堂……」
「全部、君のものなら僕は」



「…僕は…欲しいんだ……」


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