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Year


―――― 一年間は、長かったのか?それとも短かったのか?


そのまま背後から抱きしめたら、うなじから微かな薫りがした。それはこうして至近距離まで来なければ分からない薫りだった。
「―――き、貴様はっ!」
閉じられた扉の向こうからは、楽しげな笑い声が聴こえてくる。その声が嫌になるほどに御剣の耳に飛び込んできた。けれどもその声を遮るかのように成歩堂の唇が御剣のうなじに落ちてくる。
「―――っ!」
生暖かい感触にぴくんっと御剣の肩が、震える。それを確認するように二、三度ソコに唇を落とすとそのままきつく、御剣の身体を抱きしめた。
「離せっ!誰かが来たらどうするっ!」
「嫌だ、やっと逢えたんだ…君に」
離れようともがく御剣の身体を抑え込むように扉に押しつけると、そのまま後から抱きしめる腕に力を込めた。きつく、抱きしめた。
「やっと君を抱きしめられたんだ」
耳元に囁かれる成歩堂の言葉は、ひどく熱いものだった。声のトーンは抑えられ、感情を荒げるようなものではなかったが、でも胸に直接突き刺さるようなそんな声だった。
その声が御剣の全身を駆け巡る頃には、扉に着いていた手はずるりと落ちていって…そして身体の力も抜けていた……。



一年は長かったか?一年は短かったか?

こうして君の身体を抱きしめても、その答えは出ない。
君の事を考えない日はなかった。君の事を考えようとした日はなかった。
やっと手に入れた大切な存在。ずっと追い駆けていたただ一人の存在。
それなのに君はこの腕から逃れるように消えていった。君が、消えた。
やっとこうして捕まえたのに。やっとこうして抱きしめられたのに。


僕はずっと。ずっと君だけを追い続けていたのに。


「忘れた日はなかった。思い出そうとした日もなかった」
君にとって『検事』である事が、全てだと思い知らされた日。
「君の事を、僕はそうする事で閉じ込めて」
僕の腕の中にいるよりも、自分自身の答えを見つける事が。
「僕の心から、閉じ込めて」
こうして僕の腕の中に、いる事よりも。君にとっての真実を見つける事が。


分かっている。そんな君だから、追い駆けたんだ。そんな君だから、僕はずっと捜していたんだ。



「僕の中で君は死んだと、何度も言い聞かせてきた。それでも思い出すのは、何時も君だけだった」



どうして何も告げずに僕の前から消えたの?僕はただ君の一言があればそれだけで信じられたのに。信じて君を待つ事が出来たのに。どうして君は、何も言わずに消えてしまったの?
「君を追い駆けていた十四年間は、何も怖いものはなかった。何も怖くなかったのに、それなのに君が消えた一年間は…怖かった」
君がやっと僕に振り向いてくれたと。やっと君を僕が抱きしめる事が出来るようになったと。やっと君をこの手に掴む事が出来たのに。
「こうして抱きしめて実感するまでは、怖かった」
君が辿り着いた場所。君が見つけたもの。僕の腕の中から消えて、そして探し出したもの。そこにもしも僕がいなかったら?そこに僕の居場所が、なかったとしたら?

――――君の居場所に、僕がどこにもいなかったら?

「…僕と君は同じものを感じているんだと…そう思っていたから…」
「…僕だって思っていた…この場所は…僕と君だけのものだって…なのに君は……っ」
「…それが甘えだと…そう思ったから……」
「…御剣?……」
「貴様はそれを『信頼』だと…気付いていた…なのに私は……」


「…それが貴様に甘えているのだと…そう思えて怖くなった……」



復讐しかなかった私を、人殺しになってしまった私を。救い出してくれたのは君だった。君だけが深い闇から私を引き上げてくれた。君だけが、私を救い出してくれた。
一面の光、暖かい場所。安らげる事の出来る場所。それを君が与えてくれた。私に、与えてくれた。
その暖かさに優しさに、溺れるほどに。溺れるほどに私は、怖くなった。このぬくもりが心地良ければ良いほどに、私は。私は全てを見失いそうになっていた。自分自身すらも、この眩暈がする程の幸福の中で。
だからもう一度。もう一度君と向き合いたくて。君に依存するんじゃなく、真っ直ぐに。真っ直ぐに君に向き合いたくて、私はその答えを捜した。
自分自身の力で。自分の為に。私はその答えを、捜した。


「…私は…貴様と対等で…いたいんだ」
君と同じ場所にいたい。君と同じ場所に立ちたい。
「…御剣……」
君との法廷は勝ち負けではなく、違うものだと。
「…同じ位置に…いたいんだ……」
違うものだと、確かめたかった。そうだって答えを見つけたかった。


だから私は。私は君に何も告げずに、消えた。誰にも言わずに、消えたんだ。



扉の向こうでは皆の笑い声が響いている。楽しそうに響いている。けれどももう。もうその声は御剣の耳にはひどく遠いものに聴こえてくるだけだった。遠い音のように、聴こえてくるだけだった。
「御剣、こっちを向いて」
成歩堂の言葉に、御剣は身体をそっと彼へと向けた。ほとんど変わらない身長差。それはずっと二人にとっての距離だった。ずっとこの視線が二人の定位置だった。
「…成歩堂……」
視線が絡み合う。少しだけ恥ずかしくて御剣は瞼を伏せた。その瞬間に成歩堂の唇が、彼のそれに落ちてくる。御剣は黙ってそれを受け入れた。苦しいほどに優しい口付けを、受け入れた。
「お帰り、御剣」
その言葉に御剣は俯いて、そして。そして成歩堂しか聴こえない小さな声でひとつ。ひとつ、言った…ただいま、と。




「君の場所はここなんだ。僕のそばだから…だからもう…もう何処にも行くな……」


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