夢と、リアル



ずっと、あの頃のまま。あの頃のまま、ふたりで。
ふたりでずっと。ずっと、花畑で遊んでいたかったね。
誰にも邪魔されずに、誰にも見つからずに。
ずっと。ずっとふたりだけの秘密のまま。秘密のまま、永遠に。


私の大切な半身。私の大切なひと。
ただひとりの、片翼。私のただ独りのひと。


―――貴方のいない世界で、私は何処をさ迷えばいいの?



何もかもが一瞬にして、消え去った。荒れ果てた大地には、何もない。全てが焼かれ、そして。そして全てが消滅し、何もかもがなくなった。
「…お父さん…お母さん……」
私の口から零れた声は、ひどく掠れていて、そして怯えていた。私は小さくて、とても弱くて。そして。そして、独りぼっちだった。
「…シン…シア……」
焼け爛れた匂い。むせ返る血の匂い。そこに優しかった花の薫りも、甘い匂いもない。もう何処にも、ない。
「…シンシア…何処、なの?……」
花の薫りのする貴女。甘い匂いのする、貴女。何時でも一緒だった。ずっと、一緒だった。私が生まれたときから、ずっと。ずっと、一緒だった貴女。その貴女が、今。今何処にもいない。
「…シンシア…シンシアっ!」
甘い匂いのする貴女が、花の薫りと一緒に…さらわれてしまった……。


ずっと、一緒だった。ずっとずっと、一緒だった。
『私達ずっと、一緒にいられたらいいね』
柔らかい笑顔。私を包み込む笑顔。甘く優しく、そして。
『…ね、ずっと一緒に……』
そしてその細く柔らかい腕で、私を包み込んでくれたのに。


私を優しく抱きしめてくれる腕は、もう何処にもないの。


「…シンシア…どうして?どうして…約束したじゃないっ一緒にいるって…私達ずっと…」
大切な人。大事な人。何よりも誰よりも、大切な人。私のただ独りのひと。私の、半身。
「…ずっと一緒だって…シンシア…シンシア……」
貴女がいたから、私。私何も怖いものがなかった。私の世界に必ず貴女がいたから。貴女がいたから、私は。私は何も怖いものも、怯えるものもなかったの。
「…シンシア…どうして…どうして…何時ものように…何時ものように私を…抱きしめて……」
大事なひとだって、言ったじゃない。ずっと護るって言ったじゃない。どうして、どうして?どうして何処にも貴女がいないの?

―――どうして、何処にも、いないの?

「…シンシア……」
春の薫り。貴女は春の薫り。
「…寒いよ……」
暖かい日差しと、そして木漏れ日が。
「…寒いよ…シンシア…暖めて……」
貴女、だった。私にとっての貴女だった。
「…さむい…よ……」
ただ独りの、貴女だった。


ここは寒いの。日差しも柔らかい光も何もないから。何もないから、とっても寒いの。寒いから。寒いから…もう私は…私は……。


「…寒い…よ…シンシア……」
自らの手を伸ばして、胸に触れる。何時も貴女がそうしてくれたように。
「…寒い…よ…あっ……」
自らの手でそのふくらみに触れて、きつく揉んだ。指の隙間から胸の膨らみが零れてくる。けれども構わずにきつく、揉んだ。
「…あぁんっ…寒い…っあんっ……」
何度も何度も服の上から鷲掴みにして、わざと乱暴に扱った。痛いほど張り詰めた乳首を布越しから指で擦る。痛いほどの刺激が、今は。今は、欲しかったから。
「…ああっんっ…あんっ…はぁっ…ん……」
何もかも、忘れたい。今の現実をなくしたい。今ここにいる自分を消してしまいたい。暖かい場所にゆきたい。貴女のいる、暖かい場所へと。
「…ああんっ…シンシア…シンシア…はぁぁっ……」
びくびくと身体が震える。私は耐えきれずに服のベルトを外して、そのまま裾から手を入れた。敏感になった乳房に自らの手で触れる。けれども自分の手は、冷たかった。ひどく、冷たかった。
「…あぁ…寒いよ…寒いよぉ…シンシア……」
冷たい指先で肌だけが熱くなってゆく。身体だけが熱くなってゆく。けれども。けれどもそれとは正反対にこころは。こころは、益々冷たくなってゆく。暖まりたいのに。あたたまり、たいのに。貴女の指で、唇で、暖かくなりたいのに。
「…ああ…あんっ…はふっ…んっ!」
そのまま下腹部に手を忍ばせ、自らの蕾に触れた。ソコはとろりと蜜をたらし、指を容易く受け入れた。そのままくちゅくちゅと中をこねくり回す。
「…ふぁっ…ぁぁ…はぁんっ…あん……」
媚肉はひくひくと淫らに蠢き、指を飲み込んでゆく。一本では耐えきれず本数を増やして中を蠢かせても、それは変わらなかった。刺激を求めて淫らに蠢く花びら。
「…あんっ…あんっ…ああん……」
シンシアの細く綺麗な指。ひんやりと冷たさの残る指が、ココを。ココを何時も弄ってくれて、そして。そして零れ落ちる蜜をその舌が舐めてくれて。紅い舌が、扇情的に零れ落ちる蜜を掬ってくれて。そして。
「…シンシア…シンシア…あぁ…もっと…もっと…強く…して……」
そして剥き出しになった一番感じる個所を、誰も知らない…私だけが知っている牙が噛んで。そう、軽く噛んで。私は何時も。何時もそれに耐えきれなくて。耐えきれ、なくて。
「…シンシア…シンシア…ああっ…あああっ!!」
意識を真っ白にさせて…ただひたすらにのぼりつめて…いたから……。



貴女が何時も。何時も私を。
私を抱きしめ護ってくれたね。
今も、ほら。ほら、護ってくれている。
見えない貴女の手が、私を。
私を抱きしめて、そして包み込んでくれる。


ねぇ、シンシア…痛かった?苦しかった?
私の変わりに魔物に殺されて、辛かった?
…ねぇ、シンシア…答えて…答えて……



――――私、貴女の痛みを、分け合いたいよ……




「…シン…シア……」




ぽたりと零れる液体が。広がる蜜が。ただひたすらに。
ただひたすらに苦しく、切なく、惨めだった。



それでも私は生きてゆかなければいけない。
貴女が自らを盾にしてまで護った命ならば。
どんなになろうとも私は生きなければならない。


それが貴女の望みで、貴女の願いならば。





けれども今だけは。今だけは、許して欲しい。こうして泣いてしまうことを…。


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