薔薇の棘

薔薇の棘が胸に突き刺さり、そしてこころを抉ってゆく。

貴方の銀色の髪。綺麗な長いその髪に。
ただ指を絡めて、そして。そして眠れれば。

――――何も望みはしなかった……

何もいらないから、そばにいて。何も欲しくないから、ずっとそばにいて。
「…あっ…ピサロ…様…んっ！……」
抱きしめられて唇を塞がれる。舌先で下唇を舐められる。それを合図にするように私は口を開いて貴方の舌を受け入れた。
「…んんんっ…んん…ふっ……」
くちゅくちゅと濡れた音を響かせながら、夢中になって舌を絡め合う。時々当たる牙の感触が、貴方の口付けだと思わせて、私の瞼を震わせた。
「…ふっ…はぁっ…ぁ…ピサロ様…っ……」
痺れるほどに口付けられて、銀色の糸とともに唇が開放される。零れるのは甘い吐息だけだった。名残惜しくふたりを結ぶ唾液の糸と、甘いため息だけで。
「―――ロザリー…好きだよ……」
「…あっ……」
囁かれ耳たぶを噛まれれば、それだけで身体の芯は疼いた。甘やかな痛みに、心が捕らわれ絡め取られてゆく。その甘美な囁きと、声が。
「私のロザリー」
「…ピサロ様……」
髪を撫でられ胸元を肌蹴られて、そして。そして忍び込む冷たい貴方の手に、私はもう一度甘いため息を零した。

貴方がそばにいてくれれば。貴方さえいてくれれば。
私は何も欲しくはない。私は何も望まない。だから。

――――だからこの絡めた指先を…離さないで……

シーツの冷たさが火照った身体にはひどく心地よかった。白過ぎると言われた私の肌も貴方の舌と指によって、紅く色付いてゆく。貴方の私を知り尽くしたその手と舌によって。
「…あぁんっ…はっ……」
長い指が私の胸を鷲づかみにし、そのまま尖った果実を指の腹で転がす。その度に長く伸びた貴方の爪が私の乳房に食い込んで、別が刺激を与えられた。
「…あぁっ…あんっ…ああんっ……」
濡れた唇がもう一方の胸の突起を口に含み、そのまま舌でちろちろと嬲られた。唾液で濡れぼそるほどに吸われ、身体の芯が痺れてゆく。その間も胸を揉む手の動きは止まることなくて。指の隙間から零れる子房が、紅く染まるほどに。
「…はぁっ…ぁ…ピサ…ロ…様……」
震える指を貴方の髪へと絡めた。銀色の綺麗な貴方の髪へと。さらさらの指を擦り抜ける貴方の髪。触れるだけで極上の感触を与える貴方の髪。何よりも、何よりも…大切なもの。
「ロザリー…私の…私だけのものだ…ココも…ココも……」
「…ああんっ…はぁっ…あんっ！」
舌と指が胸からその谷間へと、そして下腹部へと滑り臍の窪みを舌で嬲られた。その刺激にぴくんっと私の尖った耳が揺れて。
「…ピサロ…様…全部…全部…私は……」
「そしてココも、私だけのものだ」
「――――ひゃんっ！！」
私は貴方だけのもの…そう口にしようとして言葉が出なかった。脚を開かされると、茂みを滑り指が私の入り口をなぞったから。割れ目の部分をすっと指が滑り、何度もソコを行き来させる。もどかしいほどの柔らかい愛撫に、私の腰が刺激を求めて無意識に揺れた。
「…あぁっ…ん…ピサロ…様…もっと…ピサロ…様……」
「しょうがない奴だ、何時の間にお前はこんなにイヤらしい娘になったんだ？」
腰を揺らし蕾を指に押し付ける私に、貴方はひどく綺麗な顔で微笑った。言っている言葉のいやらしさとは無縁の涼しげとも言える顔で。
「…ピサロ様が…ピサロ様が…そうさせたのです…私を……」
「―――ふ、しょうがないな」
「ああんっ！！」
入り口をなぞるだけだった指が、突然私の中へと入ってくる。やっと与えられた刺激に悦ぶように私の内壁は貴方の指をぎゅっと締め付けた。
「…ああんっ…あん、あんっ…はぁっんっ！」
ずぷりと音ともに指が奥へと挿ってゆく。その間にも私の蕾からは甘い蜜が零れ、指をしっとりと濡らした。締め付ける肉を掻き分ける指の強さが、擦れ合う摩擦が意識を遠ざけ腰を自然と浮かせた。
「こんなに濡らして、我慢出来ないのか？」
「…あぁ…ピサロ…様…ピサロ…様…ぁぁぁ……」
ぐちゃぐちゃと中を掻き乱す音が私の耳に響いて、身体の芯を熱くさせた。耐えきれずに腰を振って、より一層の刺激を求める。花びらはひくひくと蠢き、ひたすらに擦れ合う摩擦を追った。
「…お願い…ピサロ様…指よりも…指…よりも……」
欲しかった。貴方が欲しくて堪らなかった。指よりも熱く硬いモノで私を掻き乱して欲しいと。何も考えられなくなるくらいに貴方で埋められて、そして。そして真っ白になりたいと。

――――貴方が、欲しかった。貴方だけが、欲しかった。他には何も、いらなかった。

「…指…よりも……」
貴方だけが、欲しい。貴方だけが。
「…ピサロ様の……を……」
他に何もいらないから。何も欲しくないから。
「…ロザリーの中に……」
何も何も、いらないから。貴方以外。

「…ロザリー…の中に…ピサロ…様……」

溶けて、溶かされて。どろどろになって。全てが交じり合えたら、こんなにも。こんなにも不安になることなんてないのに。
「――――ああああっ！！！」
腰を掴まれ一気に挿入された。強く硬い貴方の楔がずぶずぶと私の中へと埋められてゆく。媚肉が引き裂かれ、深く貫かれる。
「…あああっ…あああっ！！……」
擦れ合う肉の感触が、粘膜を伝わる鼓動が。ぐちゅぐちゅと中で乱れる液体が。身体の芯をじんじんと痺れさせ、意識を真っ白にさせる。
「…あああ…あぁぁ…ピサロ…さ…まっ…ああんっ！」
髪に指を強く絡めた。貴方が私を揺さぶるたびに、シーツと背中が擦れて痛かった。けれども今はそれよりも。それよりも貫かれる熱さのほうが私にっては。私にとっては、必要なもので。
「…あぁ…あぁぁ…もぉっ…もぉっ…ピサロ…さまぁっ！……」
「出すぞ、ロザリー」
「…出して…いっぱい…っいっぱい…ロザリーの中にっ…ああ……」
ぐいっと強く腰を引き寄せられ最奥まで貫かれる。どくんっと弾けた音ともに熱い液体が大呂に私の膣の中に流し込まれた。その本流を感じながら、私の視界は一瞬真っ白になった……。

胸に突き刺さる薔薇の棘。貴方が突き刺した、薔薇の棘。
それが食い込み、広がり、そしてこころに。こころに消えない傷を作る。
貴方だけが私に『痕』を作る。紅く染まった、痕を。

消えない不安。消せない不安。
貴方が何処かへと消えてしまわないかと。
私が貴方から消えてしまうことがないかと。

だから、抱きしめて。だから、抱いて。そんな事すら考えられないようにと。

「…ピサロ様…私の……」
ずっと、絡めていて。この指を。
「…私のそばに…いてください……」
この指を永遠に絡めていて。
「…ずっと…ずっと……」
そうしたら何も、怖くないから。

…貴方が突き刺した薔薇の棘が、私の全身を引き千切る前に…抱きしめて……。