片恋
僕はずっと。ずっと貴方のそばに、いたかった。
ずっと人間になりたいと思っていた。人間になって二本の脚で歩いて、そして。そして普通に街に暮らして、日の当たる場所で駆け回りたいなって。そんな事に憧れていた。
そんな夢みたいなことをずっと。ずっと想っていて、そして。そしてその願いが叶えられた時。
…僕は、貴方のそばには…いられなくなった……
月の光だけが照らす部屋で、僕はずっと貴方の寝顔を見つめていた。普段は精悍で少し怖いと思えるような表情も、こうして目を閉じ眠っていればひどく優しく見えた。
「…ライアンさん……」
名前を呼んだら胸が苦しく、切なくなった。ずっと呼んでいた名前。ずっと呼び続けていた名前。
僕の世界には貴方しかなかった。人間になりたいと願い憧れていた僕を、一緒に外へと連れ出してくれた人。モンスターだった僕を、他の人間達の怯えや恐怖の視線をものともせず、僕を連れていってくれた人。
「…やっと僕…人間になれたんです……」
憧れていた人間。こうして今の僕には手も脚も指もちゃんとある。こうして五本の指を伸ばせば、貴方に触れることが出来る。貴方に、触れられる。
「―――貴方と同じに…なれたんです……」
けれども、触れられなかった。モンスターだった時にはあんなにも簡単に貴方に触れていたのに、今こうして。こうして、自らの指が形になってしまった瞬間に、僕は貴方に触れることが出来なくなっていた。
ずっと貴方といたかった。
貴方が捜し求めるものを一緒に。
一緒に見つけたかった。
貴方とともに、いたかった。
貴方が嬉しいと想う瞬間を、分け合いたかった。
貴方が苦しいときに、そばにいたかった。
貴方の仕草を、貴方のこころを、貴方の笑顔を。
僕はずっと。ずっと見ていきたかった。貴方の全てを。
「…ライアンさん…好きです……」
人間になりたかった。ずっと、そう願っていたはずなのに。
なのに今この姿が何よりも辛い。この姿が、辛い。僕は。
僕は気付いてしまったから。僕は、気付いてしまった、から。
人間の、女の子に、なりたかった。
そうすればもしかしたら。
もしかしたら貴方は僕を見てくれたかもしれない。
貴方に好きになってもらえたかもしれない。
貴方に抱きしめてもらえたかもしれない。
貴方を独りいじめ、出来たかもしれない。
貴方の腕に抱かれたい。貴方に抱きしめて欲しい。
貴方に口付けられて、そして。そして貴方に。
僕は貴方だけのものに、なりたい。
「…ごめんなさい…ライアンさん……」
震える手でそっと。そっと貴方に触れた。暖かい頬。優しいぬくもり。
「…僕は…貴方をこんな気持ちで…想っている……」
指先から伝わるもの。そっと、伝わるもの。それがこんなにも。
「…こんな穢たない気持ちで…想っている……」
こんなにも苦しく、そしてこんなにも哀しいものならば。
「…貴方を…僕は……」
どうしてそれを分かっていながらも、僕は貴方に触れてしまったの?
ずっと、そばにいたかった。
ずっと貴方にそばにいたかった。
貴方の役に立てるなら僕は。
僕はどんなことでも出来ると思っていた。
けれども僕は今。今自らの想いで、貴方を穢してしまっている。
「…ライアン…さん……」
ぽたりと、ひとつ。貴方の頬に、ひとつ。
熱い雫が零れ落ちる。けれども僕は。
僕はそれを指で拭うことが、どうしても出来なかった。
貴方が望むものが。貴方が願うものが。
貴方の未来が、貴方の想いが。
全て、全て、叶いますように。
貴方が、傷つくことがありませんように。
貴方がこれ以上、傷つくことがありませんように。
「…さようなら…ライアンさん……」
最期だから、と。淡い月に照らされる貴方の顔を見つめながら、そっと。
そっと意識のない唇に口付けた。触れるだけのキス。最初で最期の、キス。
ただそれだけが。それだけが、僕の想いを伝えるただひとつのものだった。
最初で最期の口付け。ただひとつの、想い。
それを見ているのは月だけで。夜空に浮かぶ月だけで。
僕の永遠に閉じ込めなければならないただひとつの想いを。
――――その月だけが、そっと見ていた。
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