ぬくもり



ずっと、暖かいものに、包まれていたのでござる。

それが本当に。本当に暖かくて、そしてひどく優しくて。
…優しかったから…拙者は…その優しさを、感じたのでござる……


言葉にはならないものを。言葉ではないものを。
ただひたすらに伝わる、言葉にならないものを。


拙者は、そのぬくもりから、感じたのでござる。



「…何だ…お前は……」
目の前に現れた男にホンダラの細い瞳が大きく見開かれる。見知らぬ男が、突然自分の家に現れ、そして。そして頭をぺこりと下げたのだ。
「拙者メルビンでござる。貴殿には…大変お世話になったでござる」
「世話って??悪いが俺様はお前なんぞ知らん。大体ナンなんだっ?!勝手に人の家に上がりこんできてっ!!」
全く見覚えも何もないホンダラはただひたすらに捲くし立てた。けれどもそんなホンダラをメルビンは真面目な顔で見つめて。見つめて、そして。
「―――っ!!」
ホンダラが自らの意識を整理する前に、いきなり抱きしめてきたのだった。



忘れもしないぬくもり。
忘れられないぬくもり。
ずっと石の中に閉じ込められて。
ずっとあの中で眠り続け。
そんな自分に、与えられた、ぬくもり。


そっと、やさしいぬくもり。



「わっ、わっ、わっ、わーーっ!!な、何をするっ!!!離せーーっ!!」
腕の中でじたばたと暴れる身体が。その見掛けよりもずっと華奢な身体が。
「…このぬくもりで、ござる……」
そこから伝わるぬくもりが。そこから伝わる優しさが。
「…間違えない…このぬくもりを拙者…忘れないでござる……」
伝わる。手のひらに、頬に、身体に、指先に。伝わる、から。
「―――やっと、見つけたでござる……」
言葉よりも確かなものが、伝わるから。


街の評判ではこの男にはロクな噂が立っていなかった。
ひどい噂ばかりを耳にしていた。けれども。けれども、拙者は。
拙者はそれを心の何処かで否定していた。否定、していた。
石になっている間。あの石に閉じ込められている間。
拙者が唯一、感じたものが。唯一感じた、ぬくもりが。


この男から与えられるものならば、その噂を否定せずにはいられなかったから。


あたたかかった。やさしかった。
そっと。そっと染みこんでくるぬくもり。
そっと伝わってくるぬくもり。
それが何よりも、何よりも穏やかで心地よく。
そして何よりも暖かかったから。



「…拙者には分かるでござる…本当は貴殿が綺麗な心を持っていることに…」



メルビンの言葉にホンダラは耳までかああっと真っ赤になった。今までそんな風に他人から言われたことがなかったから。だからそんな風に何の下心もなく真っ直ぐに。真っ直ぐに誉められることに自分は…慣れていなかったから。だから…。
「…な、何を…言って…お、お前は…突然……」
しどろもどろになりながら言うホンダラに、メルビンは笑みを堪えきれなかった。けれどもそれは決して馬鹿にしている笑みではなくて。それはひどく優しい笑み、で。
「本当のことでござる。その優しさにどれだけの人が気付くか…拙者はそのうちの一人であることを誇りに思うでござる」
真っ直ぐに告げられる言葉。嘘偽りない言葉。それは。それは決して自分には与えられることがなくて。決して自分には。


何時も嘘をついて生きてきた。
何時も道化になって生きてきた。
何もかもを諦めてから、自分は。
自分は、自らを陥れるように卑怯に。
卑怯に偏屈に、そしてどうしようもないくらいに。
どうしようもない男として生きてきたから。


…だからそんな風に真っ直ぐに誉められることに…慣れてなくて……


顔が、真っ赤になっている。耳まで真っ赤になっている。腕の中の身体も、火照るほどに熱くなっている。ぞれが、ひどく。ひどく……。
「…お、俺様…は…そのその……」
ひどく愛しいものに感じて。ひどく、大切なものに感じて。
「拙者は貴殿に会えてよかったでござる」
つい無意識にその身体を、力を込めて、抱きしめていた。




その愛しいぬくもりを、もっと。もっと感じたかったから。


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