背中



――――私は何時も前だけを見つめていたいから。

何時でもどんな時でも、前だけを見ていたいの。
真っ直ぐに前だけを見つめていたいの。振り返らず。
後ろを振り返ることなく、真っ直ぐに。

何時も前だけを、見つめていたいの。



「クリフト、お父様は生きているわよね…サントマイムの皆、生きているよね」
後ろを振り返った瞬間に、きっと。きっと私は怖くなる。必死で心の奥底に閉じ込めていたものが、溢れてきてしまう。だから。だから私。私前だけを見つめていたいの。
「当たり前です、姫様を残して…皆は何処にも行きませんっ!」
考えたらダメ。立ち止まったらダメ。そうしたら気付いてしまうから。気が付いてしまうから。だから私は。私は進み続けるしかない。自分を信じてこの脚で歩き続けるしかない。それしか、ないのに。なのに、私は。私、は。
「…行かないよね…皆…何処にも…」
今俯いてしまったら、きっと。きっと瞳から、涙が零れるのを止められない。


強くなりたかった。誰よりも強くなりたかった。
どんな時でも笑っていられるように。どんな時でも真っ直ぐに。
真っ直ぐに正しいものだけを見つめられるように。
誰よりも強くなって、そして。そして皆の笑顔が見たかった。
いっぱい、いっぱい、強くなって。強くなって、私。

私は大切なものを、この手で護りたかったの。

大切なもの。大切な人。その全てをこの手で。
私はこの手で護りたかったの。もう誰も苦しまないように。
もう誰も傷ついたりしないように。その為に、私。
私は誰よりも強くなりたかったから。


でもどうして。どうして私は今こんなにも…泣きそうな自分を…押さえきれないの?



肩が、震えている。細い肩が、小刻みに震えている。それでも勝気な瞳は真っ直ぐに前だけを見つめようとしている。何時も、そう。何時も姫様はそうやって。そうやって、未来だけを必死に見つめようとしている。でも。

…でも私は知っています…その細い身体から零れてくる哀しみを……

貴方にとって大切な人を護ることが。それが貴方の強さだと、私は知っている。貴方はそうやって自分を強くすることで、大切な人を護ろうと…大事な人達の笑顔を護ろうとしている。
それは何よりも立派な『姫』である証なのに。誰よりも貴方はサントマイムのお姫様なのに。それに気付いている人間が…一体どれだけいるのだろうか?そして。そしてそんな健気とも言える想いを抱えながら、必死で生きている貴方が。そんな貴方を、私はずっと。


「…姫様……」
だって瞳が泣いている。必死に堪えながらも。
「…私はずっと貴方とともにいます。だから……」
必死に堪えながらも貴方の瞳は泣いている。涙を零さず泣いている。
「…だから姫様…私にだけは…強がらないでください」
だって貴方は。貴方は姫である前にただ独りの小さな女の子だ。



そうだね、何時も。何時もそばにいてくれたね。
クリフトは何時も。何時も、私のそばにいてくれたね。
だから私。私ね、前だけを見られたの。貴方がいたから。
貴方が私の背中を護ってくれていると知っているから。
だから私安心して、前だけを見つめられたの。


―――前だけを、見つめていられるの……


本当は怖かった。本当は不安でたまらなかった。でもそれを考えてしまうと。それを想ってしまうと…後ろを振り返ってしまうと…。
私は弱くなってしまうから。私は不安と恐怖に押しつぶされてしまいそうになるから。だから、必死で。必死でそれに気付かない振りをしていた。それを、閉じ込めていた。

だって気付いてしまったら…前に進めないでしょう?

前に進まなければ、進み続けなければ。希望も未来も手に入らない。
私が信じ続けなければ何も。何も世界は変わらない。何一つ変わらない。
だから。だから、ね。私は涙なんて零している暇はないの。


でもこころは、傷ついて。内側から少しずつ、壊れてゆく。



「泣いていいですよ、姫様。私だけの秘密にしますから」
傷ついてるの。本当は壊れそうなの。叫びたくて、心の底から叫びたくて。
「…クリフト……」
不安で、怖くて。足許から全てが崩れてゆきそうで。
「…そうでないと…私の方が…ダメになります……貴方のことばかり考えて……」
今まで信じてきたものが、当たり前にあったものが全て。全て奪われてゆきそうで。



貴方が、微笑ったから。ひどく優しく微笑ったから。
私は堪えきれずに、堪えきれなくて。何時しか大きな声を上げて泣いていた。
まるで生まれたての子供のように、泣きじゃくった。
そんな私を貴方は何も言わず、ずっと。ずっと抱きしめて、そして。
そして何度も背中を撫でてくれた。何も言わずに、けれども飽きることなく。


――――その何よりも優しい、手のひらで。



強く、なる。誰よりも、強くなる。強くなって、私は。私は皆を護れるように。
「…クリフト……」
もう誰も傷つかないように。もう誰も哀しんだりしないように。もう誰も…誰も泣かないように。
「…ずっと一緒にいてね…」
その為だけに私は前だけを見つめるから。もう二度と後ろを振り返らないから。だから。
「はい、姫様。ずっと、私は貴方のそばにいます」
だから、ずっと。ずっと、私のそばに、いてね。私が後ろを振り返らないように。




…ずっと私の背中を、護っていてね……




 

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