優しい嘘



目を閉じたままで、貴方の声を聴いていられたならば。


綺麗な想いだけで生きられれば、きっと。きっと同じだけ世界も綺麗で。
そして全てのものが優しく映るのでしょう。どんなものにでも、優しくなれるのでしょう。
けれども私にはそれが出来なかった。そんな事が、出来なかった。

子供だから出来なかったのか?自分が未熟だったから出来なかったのか?
ううん、きっと。きっと全部違ってて、全部正しいのでしょう。
それは私がただの恋する少女で、そして。そしてただのちっぽけな女だったから。
そのことに気付いた瞬間に、私は。
私は多分、一番純粋で一番嫌なこころを持ったのでしょう。


―――貴方が好きだと、気が付いた瞬間に……



見ていればすぐに気が付いたこと。私でなくても気が付いたこと。貴方が誰を見て、そして誰を想っているかを。その瞳を見ればすぐに分かったこと。
「姫様っ!大丈夫ですかっ?!」
どんな時でも真っ先に駆け出して、ほんの少しの怪我すら見逃さず。見逃さずに何時も。何時もどんな時でも貴方は、彼女を見ている。
「大丈夫よ、クリフトは心配性ね」
大きな瞳が彼を見上げて、子供のように微笑う。その顔はまるでひまわりのように眩しくて。眩しくてひどく、羨ましかった。私はあんな風に無防備に微笑う事が出来ないから。あんな風に、真っ直ぐに微笑う事が出来ないから。
「でも姫様にもしもの事があったら…私は……」
「大丈夫よ、私強いもん。それに、怪我してもクリフトがちゃんと治してくれるでしょう?」
屈託のない笑顔。無防備で強い瞳。何時でも真っ直ぐ前だけを見ている視線。私はそれが何よりも何時しか羨ましいと…思っていた。


真っ直ぐに見つめたいと、思った。貴方の瞳を、真っ直ぐに。
けれどもどうしても。どうしても少しだけ。少しだけ俯いてしまうのは。
少しだけ貴方から視線を反らしてしまうのは。
可笑しいですね、後ろからだったらちゃんと見れるのに。貴方を見つめられるのに。
それなのに真正面に立つと、どうしても。どうしても私は。

…その視線を少しだけ…反らしてしまうのです……。


「…クリフトさん…あの……」
心の綺麗な人だと、思いました。誰よりも心の綺麗な人だと。
「どうしました?」
神に仕える身だからじゃない。それだけじゃない。
「いえ…その私……」
もっと違う心の本質が綺麗な人だから。とても綺麗な人、だから。
「…貴方の手の怪我を……」
だから私はどうしても、その心に。心に、触れたくて。
「あ、気が付きませんでした。つい姫様の方に気を取られて…」
貴方のこころにそっと、触れたくて。


「…何時も…アリーナさんの事ばかりなんですね…自分のことは二の次で」


分かっていたことだった。分かっていることなのに。
こうして言葉にするとひどく胸が痛む。ひどくこころが、痛む。
苦しくて、切なくて、そして。そしてひどく。
ひどく泣きたくなって。それでも、今泣いてしまったら。

―――貴方に迷惑がかかってしまうから……


「あ、いえそれは…私は姫様に仕える身分ですから」
少しだけ頬を染めながら、精一杯のいい訳をする貴方。そんな貴方が私は。私は好き、です。貴方が好きです。初めて逢ったその瞬間から、私は。私は貴方が好きなんです。
「それでも何時も一生懸命…この怪我を忘れてしまうくらいに」
私の世界に今までいなかったひと。父と姉と占いと、そして。そして復讐しかなかった私に。それしかなかった私に。突然現れた眩しい人。眩しくて、綺麗な人。
「私は男ですから…このくらい平気です」
そう言って微笑う貴方を真っ直ぐに見られない自分が嫌い。真っ直ぐに見つめられない自分が嫌い。ほんの少しの勇気さえあれば、もしかしたら何かが変わるかもしれないのに。ほんの少しの勇気さえあれば。
「―――でも……」
俯いた視線の先に、貴方の手。爪の跡のような傷が皮膚を引き裂き、捲れ上がってしばらく放置されていたらしく、血が固まっている。それでも微かに見える肉が痛々しかった。
「私が、直します。クリフトさん」
そっと、触れた。その手に、その傷に触れた。その間私は必死だった。微かに震える手を貴方に気付かれないように。気付かれないように必死に。必死に貴方の手に、触れる。
見かけよりもずっと、傷だらけで荒れている手。でも知っている。その傷も手荒れも貴方にとっては勲章である事を。彼女を護るために、出来たものだから。ただ独りの彼女を、護るために。

―――それでも私にとっては、かけがえのない貴方の手。


このまま時が止まってしまえたらと。このままこうして。こうして触れたまま。
この手が重なり合ったままで、止まってしまえたらと。そんな事を考えて。
考えて自分に苦笑した。本当に私は子供なんだと。ただの恋する少女なんだと。
未熟なまでに、恋をする少女。バカみたいに純粋に恋をする、何も知らない子供。
でも。でも私。私そんな恋しか出来ないんです。そんな恋しか知らないんです。



「―――ありがとう……」



微笑う、貴方。優しく微笑む貴方。
その笑顔をずっと。ずっと見ていたい。
ずっとずっと貴方を、見ていたい。


それが叶わない夢でも。それがただの願いでしかなくても。


優しい嘘をください。私にひとつだけ、優しい嘘を。
その嘘を真っ直ぐに。真っ直ぐに貴方に言えるように。
ただひとつの、嘘を。たったひとつの、嘘を。

―――私にひとつ、嘘をください。


「…いいえ…クリフトさんは…」
言葉にして。ちゃんと言葉にして、そして。
「…私の大切な…」
そして、こころにちゃんと刻めるように。優しい嘘を。
「…大切な…『仲間』ですから……」
ただひとつの、やさしい、うそを。


ほら大丈夫、ちゃんと言えた。言えた、から。
だからね、何時か。何時か本当のことになるの。
この嘘が何時か。何時か私にとって本当の事に。
本当の事にきっと、なるから。


―――そうしたら、きっと私貴方を真っ直ぐに見つめられるから……




だからその日まで。その瞬間まで。
もう少しだけ、許してください。
もう、少しだけ。少しだけ、私に。



――――貴方を好きで…いさせてください………




 

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