人魚
―――――私にとっての永遠、それはただひとり貴方だから。
何時も微笑っていた。どんな時でも微笑っていた。
貴方が私の笑顔を好きだと、そう言ってくれたから。
だからどんなに辛くても、苦しくても、私は。
私はずっと、微笑っていたの。ずっと、微笑んでいたの。
この貴方のいない世界でも。貴方が、いないこの世界でも。
『アニエス、ここに』
貴方の耳が私のお腹の上に重なる。
『ここに小さな命が』
小さなぬくもりがあるこの場所に。
『俺達の命が…あるんだな』
これから生まれるただひとつの命に。
海に還えろうと。貴方と私とお腹の子供と三人で。三人で、海に還える事が。
ささやかで、そして。そして私達の小さな、けれども大切な夢だった。
何時も、前だけを見ていたひとだった。
『…アニエス……』
けれども私の名前を呼ぶ時は必ず。必ず振り返ってくれた。
『身体の具合は平気か?無理はしてないか?』
どんな時でも、どんな瞬間でも必ず。必ず、貴方は。
『ああ、それなら…安心だ…』
私に振り返ってくれた。誰よりも優しい瞳を向けながら。
海が何よりも好きな貴方。私はそんな貴方が何よりも好きだった。
けれども海は貴方を奪っていってしまった。奪って、いってしまった。
貴方を永遠とも思える時で閉じ込めて。閉じ込めて。
「…シャークアイ……」
貴方に、逢いたい。ただそれだけ。ただ、それだけ。
どんなになってもいい。どんなカタチでもいい。
私はただ貴方に。貴方にもう一度、逢いたいだけ。
この手が氷を砕けるならば。魔王の呪いのあの氷を。
そうしたら、貴方に。貴方にもう一度、逢えるのかしら?
ねえ、どうしたら。どうしたら私。
私は貴方の場所まで辿りつけるの?
「…逢いたい…あなた……」
ただひとりの、ひと。私にとってただひとりの。
ただひとりの愛したひと。貴方だけが私の誇り。
貴方を愛せた事が私の一番の誇り。貴方を、愛した気持ちが。
それだけが、今。今私をこの場所に立たせている。
本当は気が狂いそうなほどに。貴方に逢えない事が、身を切るほどに。
苦しくて、苦しくて、そして。そして壊れそうな程に辛くて。
死んだら一層楽になれると分かっている。それでも私は貴方の妻だから。
貴方の妻だから、それだけは出来ないの。それが私の貴方への愛の証だから。
どんな時でも前だけを見つめている、そんな貴方の妻だから。
それでも、逢いたい。貴方に、逢いたい。
「…シャークアイ……」
氷漬けの船の中に、貴方はいるのに。
「…シャーク…アイ……」
そこに、貴方はいるのに。いるのに。
この指が貴方の髪に絡まる事はない。
この手が貴方の頬に触れる事はない。
…祈り、願い、そして。そして想っても…貴方はただ遠い……
神様お願いです。私をどんなカタチにしてもいい。
どんな姿にしてもいいから。だからどうか。
どうか貴方が再び目覚める瞬間まで、私を。
私をこの世に置いてください。私を貴方のそばに。
貴方のそばに、置いてください。どんなになってもいいから。
――――お願いです神様…私をあのひとのそばまで連れていってください……
そして。そして奇跡が起きる。
ただひとつの女の願いは、祈りは。
静かな海の底で成熟される。
どんな姿になろうとも、どんなカタチになろうとも。
ただひとつの愛だけが。ただひとつの想いだけが。
その穢れなき、純粋な想いだけが。その祈りだけが。
永遠の起こり漬けの船に拠り添う、人魚。
水の中でその船を見つめ続ける、人魚。
しあわせそうに、微笑む。優しげに、愛しげに微笑む。
幾千もの夜と、幾千もの朝と。
その無限とも言える時の中で待ち続ける。
ただひとつの願い、それだけの為に。
――――もう一度…その優しい瞳を…見る為だけに……
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