解放の檻



―――――その手に導かれ、そして生きてゆく事が私の全てになる……


差し伸べられた手が、私をこの檻から連れ出してくれた。
この見えない鎖を千切ってくれて、そして。そしてこの監獄から。
ただひたすらに絶望しか与えられなかった監獄から連れ出してくれた。



『―――おいで、パーシバル…私が今日からお前の主だ』



まだ幼さの残るその顔から覗く表情は、絶対的なカリスマと王者の瞳があった。私を真っ直ぐに見つめ、反らされる事のない強い瞳。それは上に立つ者の持つ、本物の瞳だった。
「…はい…ミルディン王子…私は……」
差し伸べられた手を取り、その甲にひとつ口付けた。その瞬間。その瞬間私と貴方との間で永遠の契約が、結ばれた。
「―――私は…貴方の騎士になります……」
永遠の契約が、私と貴方の間で…結ばれた……。



私の記憶は、深い闇から始まっていた。真っ暗な闇がただ足許から広がっている。それが私の記憶の始まりだった。
「ただ飯食わせてやってるんだから…分かっているだろうな」
私の両親は幼い頃に戦争で亡くなった。そんな私は物心付いた時からこの叔父の手によって育てられていた。いや、飼われていた。
「…はい……」
私に逆らう事は許されなかった。世間で言う『子供』でしかない私は大人の保護を受けなければ生きてはいけない。力もなければ知識も、そして力も何も持っていない無力な子供には。
「そう、それでいい。ハハハ、お前もやっと分かってきたな」
嫌らしい声で笑う叔父から目を反らして、そのまま目の前に剥き出しになった叔父の欲望の証を口に咥えた。まだ成長しきっていない口にはソレは大きすぎて、私は苦しさに涙を零すしか出来なかった。苦痛に顔を歪めながら、それでもグロテスクな叔父のソレを奉仕する。そんな私の苦痛の表情に叔父は悦んだ。幼い少年が自分のシンボルをイヤイヤながらも逆らえずに奉仕する。そのシチュエーションにサディスティックな叔父の欲望に火が付いた。髪を引っ張り強引に自身を押しつけ、私の喉元までソレを突き刺して。
「ほらっもっと咥えるんだ…いいか、そして全部飲み干すんだ。零したらお仕置きだからな」
苦しさに噎せ返りそうになりながら幼かった私は『お仕置き』に怯え、必死になって叔父の出した生臭い欲望を飲み干した。口の中に広がる独特の味と香りに、眩暈を覚えそうになりながらも。それでも私にはソレをこうして飲み尽くす以外、道はなかった。


何時か、誰よりも強くなろうと。
叔父に屈する事ない力を得る為に、強くなると。
…私は誰よりも強く…なると……。


対外的には叔父は私にとって『立派』な育ての親だった。自分の息子として騎士に育て、名門の学校へと入れ、ありとあらゆるものを私に与えた。けれどもその裏でこの子供の身体が弄ばれているなど、周りの人間は誰一人知る由がなかった。
毎晩この叔父の欲望の玩具にされているなど…誰も気付く事はなかった。こうして毎晩この口で白い欲望を飲まされている事など。


それでも私は生きねばらならなかった。
何時しか力を手に入れるために、この叔父の下で。
順応な飼い犬の振りをして、そして。
そして何時しか力をこの手に入れるために。


――――この為ならば私はどんな事にも耐えられると思った…あの日までは……



それはパーシバルが十二歳の誕生日を迎えた日だった。十二歳という年はエトルリアでは大切な意味を持っていた。エトルリアの貴族の社交界に、正式に立てる年令だったのだ。まだ少年ではあったがパーシバルの類を見ない美貌と、綺麗な金色の髪は間違えなくエトルリア貴族内でも噂の元になるのは確実だった。現に叔父によって時々宮廷に連れていかれていたパーシバルは、人々の噂になっていたほどだからだ。そして。
「ついにお前も十二歳か…わしがここまで待ったかいがあったな」
そしてその噂がこの叔父の耳にも当然入っていた。入っていたからこそ、今この瞬間にソレを成し得なければならなかった。
「―――何を待ったと言うのですか?」
口を聴くことから嫌だった。けれどもまだ彼の『保護下』にいる以上、パーシバルには逆らう事は出来ない。どんな仕打ちを受けようと、自分はまだ独りでは生きてはゆけない。
「お前をわしの物にするためだ」
「――――っ!」
叔父の手がパーシバルの手首を掴むと、そのまま身体を抱きしめ厚い唇が重なってきた。けれどもそれは繰り返し行われる何時もの儀式でしかない。これから叔父の股間のモノを口に咥えさせられ、そして。そしてそれを飲み干すための。
「…お前が宮廷に出れば男も女もお前を欲しがって、手に入れようとするだろう…その前にわしが…わしがお前を……」
その目が異常にぎらぎらとしていてパーシバルはかつてない恐怖を感じた。それは今までとは明らかに違う瞳だった。
「渡さない…パーシバル……」
「いやだっ!」
その恐怖に逃れようとした身体をベッドの下に組み敷く。そしてビリリと音ともに着ていた衣服が引き裂かれた。破れた布からエトルリア人特有の白い肌が剥き出しになる。まだ幼さを残す身体は瑞々しく木目細かかった。
「ずっと待っていた…お前が十二歳になるまで…そうしたらわしはお前をこうしようと」
「…やっ!…やめろっ!!」
手首を掴まれ、そのまま胸の果実を口に含まれた。そんな事をされたのは初めてだった。叔父は何時もパーシバルに自身を奉仕させてはいたが、身体に触れたり舐めたりする事はなかった。ただ自分を公衆便所のように注ぎ込む器として扱っていただけで。だからこんな風に、こんな風にされた事はなかったのだ。
「…やだっ…やだっ…あ……」
順応にしなければならないと分かっていても、本能的な恐怖がパーシバルの口から拒絶の言葉を零れさせる。それでも叔父の手は、舌は、止まらなかった。
ぴちゃぴちゃと犬のように舌を胸に這わし、もう一方の突起を指で摘む。片手はパーシバルの両腕を掴みながら、ハァハァと荒い息を立てながら。
「…やだっ…止め…気持ち悪いっ…あっ……」
べろべろと舐められる感触から逃れようと身体をずらしても、圧し掛かられる大人の力ではそれは無意味な抵抗でしかなった。唾液で身体が濡れるまでパーシバルはその舌で嬲られて何時しか身体には別の感覚が芽生えてくる。けれどもそれが何なのか、今の自分には分からなくて。
「…パーシバル…わしのパーシバル…誰にも渡さない……」
「―――ああっ!!」
大きな手がパーシバル自身を握り締めた。その刺激に細い身体がぴくんっと大きく跳ねる。それを満足そうに叔父は見下ろすと、パーシバルのソレを手で弄った。それは。それは何時もパーシバルが叔父にしている事だった。自分がさせられていた事を、この叔父は今自分にしている。
「…やぁっ…あぁっ…あ…止め…あぁぁっ……」
じわりと熱が足許から這い上がってきて、身体中を駆け巡る。その感覚にパーシバルは本能的な恐怖を感じた。自分が自分でなくなってしまうような、そんな感覚。
「…お前のココは可愛いなあ…まだ皮も剥けていない…ふふこれもわしのモノだ」
「はぁぁっ!!」
生暖かいものがソレを包み込む。その正体が叔父の口だと分かった瞬間、パーシバルはぞくぞくと身体が震えた。今まで何度となく繰り返されてきた行為、自分がしてきた行為。それが今は自分に与えられている。唇で先端に触れて、割れ目を舌でなぞり、そして。そして限界まで膨れ上がったソレを口に咥えさせられ、流される液体を飲み干す。それが何時も自分に課せられてきた事。それが今はこうして。
「…ああっ…やぁっ…んっ…あんっ……」
目尻から涙が零れて来る。胸の突起が痛いほどに張り詰めている。身体が朱に染まり、熱が前身を駆け巡る。抵抗すら甘い声に遮られ。そう自分のものではないような鼻に掛かった甘い、声に。
「…あぁぁ…あんっ…あんっ……」
「…イイ声だ…ずっとお前のその声が聴きたかったんだ…ずっとずっと、な」
「…あぁ…あぁぁ…もうっ…もうっ……」
何がもうなのかパーシバルには分からなかった。けれどももう限界だった。何もかもが限界だった。けれども寸での所で唇は外され、その代わりに。
「ひぁっ!!」
その代わりに脚を広げさせられ、膝を立たせられる。そして腰を持ち上げられてそのまま後ろの滑らかな丘を手で掴まれた。ぐいっと広げられ一番奥の穴を剥き出しにすると、そのまま叔父の指が忍びこんできた。
「…やあっ…痛っ…やめっ!…」
飛びそうになっていた意識がその痛みで再び引き戻される。けれども指の動きは止まる事無く、パーシバルの中を蠢き、内壁を抉った。
「指ぐらいで痛がってどうする?これからもっと太いモノがココに挿いると言うのに」
「――――!…いやだっ!それだけはっ!!」
熱くねっとりとした吐息とともに耳元に囁かれた言葉に、パーシバルの顔が恐怖で歪む。何を自分の身体に叔父が挿れようとしているか…分かったから。
あれだけ自分を玩具にしていながら叔父はそれだけはした事がなかった。だからこそ。だからこそ、まだ。まだ自分はこんな状況でも耐える事が出来たのに。けれども、もうそれすらも。最期の砦もこうして。こうして今…破られようとしている。
「駄目だ、パーシバル…お前を誰にも渡さない…わしだけのものにするんだ…」
「…い、嫌だっ嫌だっ!!」
「うるさいっ!お前は…お前は誰にも渡さないっ!!」


「ひあああっ!!!」


指が引き抜かれ、その代わりに叔父のモノがパーシバルの中に突き刺された。けれどもまだ幼い器官はそれを受け入れる事が出来ず、先端の傘の部分を埋め込む事しか出来なかった。
「いやあああっ!抜いてっ抜いてっ!!痛いっ!!」
あまりの激痛に、パーシバルの綺麗な顔が涙と汗でぐちゃぐちゃになる。けれども欲望が暴走した叔父はその動きを止める事がなかった。
ぴきぴきと引き裂かれる音とともに無理矢理、楔を埋めこんでゆく。そのたびにソコからどろりとした血が流れ、真っ白なシーツを汚した。
「…いやぁっ…あぁぁっ…痛いっ…いたい……」
「ふふふやっと…やっとお前をものに出来た…ほら分かるか?お前の中にわしが挿っているんだぞ。ほらほらっ!」
「あああっ!!ああああっ!!」
ぐいぐいと腰を引き寄せられ中へ中へと楔は埋められてゆく。痛みは限界で引き裂かれた個所も限界なのに、それでも叔父の欲望は止まる事無く。
「渡さない…お前はわしのものだ…わしだけのものだ」
「…あああっ…痛い…痛いよぉ…あああ……」
止まる事はなかった。欲望がその中に注ぎ込まれても、再び腰を揺さぶられ中を抉られて。そして。そして、またその中に液体が注がれて……。


力が、欲しい。強い力が。何者にも屈しない力が。
けれども私は無力な子供でしかなく、そして。
そしてこの手の中には何も。何も持ってはいなかった。



「…パーシバル…これでお前はわしだけのものだ…わしだけのものだ…ハハハハ」



それから地獄の日々が始まった。傷口が癒えた頃再び身体を犯され、また傷口が広げられ。それの繰り返し。繰り返しの日々だった。叔父の私に対する執着は益々異常なものになって、ついには私を屋敷に閉じ込めるようになった。鎖で手首を繋ぎ服も着せてもらえず、叔父の欲望を上と下の穴に咥えさせられる日々。
死ぬ事も、許されなかった。繋がれた鎖は私を動かしてはくれず、舌を噛み切られたら困るからと口には猿轡を咥えさせられた。そうして私は叔父の欲望の捌け口にされていた。あの日までは。そう、あの日までは。



さっきまで自分を犯していた叔父が、肉の塊になって倒れていた。頭から血を流し、醜い断末魔の叫びを上げて。そしてごろりと転がり、肉の塊になった。


「――――パーシバル…やっと見つけた……」


呆然としている私にその白い手が差し伸べられる。私よりも幼いであろうその白い腕が。私に、差し伸べられる。
「…ミ…ミルディン…王子……」
犯されている時だけは猿轡は外された。その声が聴きたいからだと、言って。その悲鳴が聴きたいのだと言って。
「お前を捜していた。屋敷に監禁されている事をもっと早く気付いていれば」
「…どうして王子が…私を捜すのですか?……」
ともに連れてきた部下が叔父だったモノを処理し始める。それに一瞥を加えて王子は、部下を全て下がらせた。そして。
「…私はずっとお前を捜していた…初めて宮殿でお前を見た日から……」
そして鎖で繋がれて動けない私を、そっと。そっと抱きしめる。身体中精液塗れで汚れている私に。穢たない、私に。
「…お前だけが…私の騎士だとそう決めていた……」
「…王子…私は…私はこんなにも穢れ…っ!」
そっと唇が、塞がれる。それは叔父が嬲るようにする口付けではなかった。ただひたすらに触れるだけの優しい口付けで。けれども。けれどもその瞳は。
「私はお前がいいんだ。お前が……」
その瞳は、王者の瞳だった。強い光を放つ、絶対的な支配者の瞳、だった。


「―――おいで、パーシバル…私が今日からお前の主だ」


もう一度差し出された手を私は取った。そして手の甲に口付けて。
「―――私は…貴方の騎士になります……」
そして、誓う。私を解放してくれた腕に。穢れた私に触れてくれた腕に。
「…身も心も全て…貴方に捧げます……」
この檻から解放してくれた、貴方に絶対の忠誠を。



――――貴方だけが、私にとっての永遠の主君だった……





そして再び私は見えない檻に閉じ込められている。見えない鎖に繋がれ、自由を奪われている。けれどもそれは。それは自分自身が望んだ事だった。望んだ筈の事、だった。
「…クレイン…すまない……」
あれから私は名実ともに王子の騎士になるべく日々を過ごした。それだけが私の全てになった。何もかも奪われた私が必死になって手に入れたものが、それだった。それだったから。
「…私は王子を…裏切れない……」
自然に求められた身体も王子の為に開いた。自分の忠誠を王子に示すために。他人に触れられることには激しいトラウマがあった。恐怖があった。だから王子以外との人間との接触は避けて来た。いや王子以外にこの身体を開く事は出来ないと…そう思っていた。けれども。


一途とも言える紫色の瞳。真っ直ぐに自分に向けられる瞳。
その想いが何よりも私にとって心地よく、そして。そして私自身が。

―――何時しかお前を求めていたから…お前のその瞳を……

初めてお前に抱かれた時、私は。私はこの行為の本当の意味を知った。
お前の腕に抱かれて、そして身体を貫かれた時。今まで知らなかった痛みと。
そして。そして苦しいほどの想いが私を埋めて。


…私のこころと、身体と、そして魂を…満たしてくれた……。


「…クレイン……」
私がお前を受け入れなければこんな事にはならなかった。私がお前を拒否さえすれば。けれども。けれども、私は自分の気持ちを抑える事が出来なくて。
「…私は…それでもお前が……」
王子に関係がバレて、そしてこうして引き離されても。こうしてお前と引き離されても。それでも。
「…お前を…愛して…いる……」
それでも、こころが止められない。想いが、止められない。



あの時に本当に死にたいと思った。
王子の前でお前に抱かれている瞬間に。
あの瞬間に、死ねたならば。
そうしたら私は。私は誰よりもしあわせだった。


――――お前の腕に抱かれながら…死ねるならば……



けれども死ねない。お前を護るために、私は死ねないから。
だから今度は。今度は自ら檻に捕らわれる。
王子の作り出す檻の中に閉じ込められる。そして私は王子だけのものになる。


それしか…私にはもう…お前に何も出来ないから……




…それでも愛している。私はお前だけを…愛しているんだ……