And I know


 


――――このまま、と。このままでと願った。このまま全ての世界が閉じられればと。


夢を見るのは簡単だった。目を閉じれば浮かぶものは、ただひとつの笑顔しかなかったから。だからとても簡単な事だった。こうして目をつぶって真っ先に浮かんだ笑顔を思い浮かべて眠ればいい。それだけで、いい。
「…エルフィン……」
笑顔。優しい、笑顔。穏やかで何処か春の日差しを思わせる、暖かい笑顔。けれども少しだけ何処か淋しかった笑顔。それはずっと変わらないもので。ずっと、ずっと変わることなく瞼の裏に鮮やかに浮かんでくるもので。
瞼を開く。そこにある景色は無機質で冷たいものだった。それを打ち消すように言葉を紡ぐ。大事な、言葉を。
「…だいすき…エルフィン……」
おまじないのような言葉だった。『大好き』とその言葉を告げるだけで世界はとても色鮮やかに染まってゆく。眩しい程の光に包まれて、泣きたくなるほどの切なさが溢れて来て。そして。そしてまた目を閉じる。その言葉の答えはこうしなければ耳に届かないから。声は降ってはこないから。だから目を閉じる。そっと世界を閉じた。


『私も大好きですよ、小さなお嬢さん』
繋ぎ合った手のひらは、何時まで結べていたのだろうか?幼い私の小さな手のひらを包み込んで、そして冷たくないようにそっと暖めてくれたその指先は。
『大好きですよ、貴方の目に映る私がきっと…きっと一番私らしくいられるから』
何時しか指先が同じ大きさになって、そして指を絡めた時。初めて対等に貴方と向き合った時、私が子供じゃなくなった時。この恋は始まって、そして終わった。終わる貴方と始まる私はどうやっても同じ位置に立つ事は出来なくて。
『綺麗になってゆく貴方をずっと見ていきたかったけれど…それは叶わないからせめて…』
うん、ずっと。ずっと見て欲しかった。私をずっと見ていて欲しかった。けれどもエルフィン、ひとつだけ。ひとつだけ貴方にしか見られないものがあるよ。

――――それは恋をする私の姿。恋をしている私自身…それはエルフィンしか知らないんだよ……

冷たくなった指先をずっと握り締めていた。幼かった私の手を暖めてくれた時のように、ずっと。ずっと、ぬくもりを与えた。もう伝わる事のない、分け合える事のないぬくもりを。


生まれてきた事の意味を考える前に私は恋を知った。自分の存在意義よりも先に恋をしてしまった。それがしあわせな事なのかそうでないのかは、私には答える事が出来ない。それでもただひとつだけ言える事がある。――-私は貴方に出逢う為に生まれてきた、と。
「…エルフィン…だいすき……」
それが正しいとか間違っているのか、それを知る前に私は自ら答えを出した。ただひとつ自分自身で答えを出した。だから私にはそれしかなかった。
「…だい…すき…っ……」
触れて欲しかった。どんな指先でも良かった。枯れ木のようなあの指先でも。それが貴方のものならば、私はきっとどうしようもない程に感じるだろう。淫らになるだろう。
「…ふっ…はっ…ぁっ……」
やっと膨らみを持つ胸になった。こうして指で掴めば弾き返す程弾力のある胸に。その胸を鷲掴みにして強い刺激を与えれば、胸の突起がぷくりと立ち上がる。それはもう子供の身体じゃない。
「…ぁぁっ…はぁんっ…あぁんっ……」
尖った乳首を指の腹で転がしながら、もう一方の胸を強く揉む。そうすれば身体の芯が火照り、足許からじわりと快楽が這い上がってくる。
「…エルフィンっ…エルフィ…ンっ…あっ…ぁぁっ…」
触れて、ほしい。他の誰でもない貴方に。私の全てに触れて欲しい。耳も髪も唇も胸も背中も鎖骨も臍も、そして。
「―――ああんっ!!」
そして、ココにも。貴方を求めてひくひくと蠢くこの蕾にも。じっとりと淫らな蜜に濡れて、溢れてくるココにも。
「…あぁんっ……イイっ…イイよぉっ…もっと…もっとシテぇっ!」
くちゅくちゅと指で中を掻き回す。そのたびに貪欲な内壁がぎゅっと指を締め付けてくる。もっと、もっと、と。飽きることなく刺激を求め蠢き締め付ける。
「…もっとぉっ…もっとココを…ココを…イジめてぇっ……」
指の数を増やしてより深い刺激を求める。押し広げ掻き乱し、中を蕩けるほどぐちゃぐちゃに。その動きに合わせて無意識に腰を振っていた。自然と身体が動いてゆく。それを止める事が出来なくて。
「…イジって…エルフィンっ…ファのココをっ…ココをいっぱい…っ!」
目を閉じれば浮かんでくるものはただひとつ。ただひとつ、その笑顔だけ。誰よりも優しくて、何処か淋しいその笑顔。それをずっと。ずっと、見てきた。貴方と出逢ってから、ずっと。大人の笑顔を、子供のような笑顔を、そして。そして年老い皺でしわくちゃになった笑顔を。全部。全部私は見てきた。この瞳で、見てきた。ずっと、ずっと。
「――――エルフィンっ…エルフィンっ!!ああああっ!!!!」
ずっと、あなただけ。あなただけ、みてきたの。見上げて、見つめて、見下ろして。そうやって、ずっと……。


―――触れ合った指先。触れ合ったぬくもり。暖かいね。暖かい、ね。泣きたくなるくらい…暖かいよ……。


ずっと、という願いは叶わないと知った瞬間、私は子供ではなくなった。子供ではなくただひとりの恋する『女』になった。恋の意味を知り、叶わない願いがあると知り、それでも。それでもこの手を離さなかったのは私の意思だ。私が決めた事だ。その先に在る未来の意味に気付いても、それでもこの手を離さなかったのは他でもない私だから。
「…すき…エルフィン…だいすき……」
身体中から全ての熱と劣情を放出してからっぽになった私が、真っ先に告げる言葉は貴方の名前だけで。からっぽになった私の中に入ってくるのは貴方の笑顔だけで。貴方、だけで。
「…ずっと…ずっと…だいすき……」
それしか、知らない。それしか、知らなくていい。それ以外、いらない。それがしあわせな事でも、不幸な事でも、正しい事でも、間違った事でも。どうでもいい。どうでもいい、だから。だから――――
「…だいすき……エルフィン……あいた…い…よ……」
その手のひらを、そのぬくもりを。ただひとつの笑顔を。たったひとつの、ほほえみを。


――――貴方に逢いたい。逢いたい、あいたい。ただそれだけで。


瞼を閉じてその笑顔を思い浮かべる。優しい笑顔を。優しすぎる笑顔を。それしか出来なかった。それしか出来ない。それ以外、何も出来ないから。