深い海



君だけが好きだから。だから独りいじめしたいんだ。

誰にも渡さないよ。絶対に渡さない。
その為ならば、僕は何でも出来るんだ。
どんな事だって、出来るんだ。


―――だから僕のものでいて。僕だけのものでいて。



後ろから抱きしめて、そのまま。そのまま被さるようにキスをした。少しだけ身長の高いその身体を閉じ込めるように、抱きしめて。
「やめっ…ルゥ…っ…」
チャドの言葉は最後まで声にする事は出来なかった。その言葉はルゥの無邪気な唇によって、奪われてしまったので。無邪気で、けれども。けれども逃れられないその唇に。
「…んっ…んん…」
生き物のように割り込んで来た舌が、チャドのそれを絡め取る。根元から吸い上げると、耐えきれずにチャドは背後から抱き付いてくるルゥに身体を預けた。
「…ふっ…うんっ……」
がくがくと震える脚を必死で堪えながら、チャドはルゥの口付けに答えた。本当は自分が彼を拒む事なんて…出来ないのだ。ずっと、一緒に育ってきた彼に。
「…はぁっ…ぁ……」
独りだった自分。孤児院でも人付き合いが下手な自分は、誰にも馴染めなかった。誰にも馴染めずにただ溝だけを作っていた自分に。そんな自分に差し出された、手。
優しい手だった。暖かい手だった。不器用で口下手で、孤立している自分に。そんな自分におくびもせずに出された、手。そしてあっさりと自分が作っていた壁を壊して、真っ直ぐに向けられた瞳。
「…あっ…止め…くすぐったい……っ……」
身体を反転させられて、そのまま口許から零れた唾液をルゥは舌で拭った。そのざらざらとした感触にチャドの身体がぴくんっと跳ねる。それを楽しそうに見つめながら尚もルゥは口許から顎にかけてのラインを何度も何度も辿った。
「くすくす、チャド可愛いよ」
そしてそのまま。そのまま少しだけぼうっとしたような顔で自分を見つめるチャドを、ゆっくりとその場に押し倒した。


素直過ぎる心で、真っ直ぐ過ぎる心で。
俺の中にお前が入ってくる。入って、くる。
それはひどく暖かく、そして心地よく。
何時しか俺にとって、かけがえのないものになっていた。


お前といれば、孤独じゃなかったから。お前と一緒なら…淋しくなかったから。



マントを剥がされ、浮き上がった首筋に唇を落とされた。そこをきつく口付けられてチャドは思わず甘い息を零す。
「…あっ…」
「好きだよ、チャド。僕達ずっと一緒だよね」
その言葉にチャドはこくりと頷く。呪文のようなこの囁きに何時も。何時もチャドは溶かされてゆく。こうしてこんな風に身体に触れられるたびに囁かれるこの言葉に。
「…ぁっ…はぁっ……」
服を脱がされまだ幼さが残る指が、チャドの敏感な個所に触れる。その暖かい指の感触にチャドはびくびくと身体を震わせた。こんな風にそれる事に何時から抵抗が無くなったのかは…もう思い出せないほどに。
「…あぁ…ルゥっ……」
きっかけは、未だに覚えている。あの日、から。先生がいなかったあの日。子供たちだけが孤児院にいた日。突然現れたならず者達が…ルゥに襲いかかったあの日、から。


子供たちを庇って、俺を庇って。独りで大人達の欲望を受け入れて。
ぼろぼろになってお前がそこにいて。そして。
そしてそんなお前を助けられなかった俺。庇われるだけだった俺。


『…チャドが無事なら…それでいいんだ…』


そう微笑って、俺の唇を塞いだお前。そしてそのまま。そのまま男たちにされたことを、俺にした。俺の身体に、刻み込んだ。けれども俺は逃げなかった。逃げられるはずが無かった。本当ならあの男たちにそうされていたのは俺の方だったかもしれないから。そして。そして何よりも。何よりもお前の一言が。


『…チャドは…僕だけのものだから……』


その言葉に俺は。俺はひどく喜んでいる自分に気が付いて。
お前がこんなになっているのにも、俺は。俺は何処かで。
何処かで、嬉しかったから。嬉しかった、から。



「…あっ…んっ…はぁっ……」
ルゥは胸の果実に口を含むと、それを舌先で転がした。敏感なチャドのそこは、その刺激だけで痛い程にぴんっと張り詰めてしまう。それに軽く歯を立てながら、何度も舌で嬲った。
「…やっ…そこ…あぁっ……」
チャドは首を左右に振っていやいやの仕種をするが、決して解放される事はなかった。堪えきれない喘ぎが口から零れ、何時しか胸の果実は、紅く色づいていた。
「…あぁ…ん……」
最後に長い吐息が零れて、チャドは胸の愛撫から開放される。けれどもほっとするのも束の間で、次の瞬間にはルゥの小さな唇がチャド自身を口に含んでいたのだ。
「…やぁっ…あぁっ!」
生暖かい口中に含まれ、耐えきれずにチャドは腰を揺らした。けれどもルゥは構わずに自身への愛撫を繰り返す。舌で側面を舐め上げ、先端を吸い上げる。その刺激に若いチャドの身体は耐えきれずに。
「――――ああっ!!」
びくんっと大きく身体を痙攣させながら、ルゥの口中に白い液体を吐き出した。


こんな風に、熱を感じる事で。熱さを感じる事で。
馬鹿みたいだけど…独りじゃないと気付く。独りではないと。
こんな風に、抱きしめられて。そして。


…そしてあの男たちのように…身体を貫かれても……



「くっあああっ!!」
指とは比べ物にならない大きさに、チャドの眉が苦痛で歪む。まだ幼さを残す性器だったが、それでもチャドにとっては今だ慣れない大きさだった。けれどもルゥが受けた痛みを思えば、こんな痛みなど何でもない事だった。
「…あっ…ああ…」
苦痛と快楽の狭間で、チャドは身悶えた。それをルゥは見下ろしながらくすりとひとつ、微笑う。それはひどく無邪気で…そしてひどく淫らだった。
「可愛い、チャド。僕だけのチャド」
「…ああ…あ……」
縋るように伸ばされたチャドの腕をルゥは自らの背中へと廻させる。そしてぎゅっと身体を抱きしめ、奥へと自身を進めた。
「―――僕だけのチャド…誰にも渡さない……」
「…あぁ…あ…ん……」
呪文のように囁かれる言葉。こうしている時にだけ、囁かれる言葉。それを何時しか。何時しか自分にとって何よりも欲しい言葉になっていて。何よりも欲しいものに…なっていて。そして。
「あああんっ!!」
ぐいっと腰を引き寄せられ最奥まで貫かれ…中に注がれた液体にひどい満足感を自分は覚えていた。



深い海の中に沈んでゆくようだった。
こころが、からだが、たましいが。
ゆっくりと。ゆっくりと。沈んでゆくようで。



「…好きだよ…チャド…大好きだよ……」



俺もだ。俺も好きだ。そう言おうとして、唇が塞がれた。
その甘やかな口付けに、俺は意識を溶かされていった。
ゆっくりと溶かされ、そして。そして沈んでいった。