――――俺の還える場所は、あの蒼い海だけだ。
こうして大地に脚を降ろしていても、それでもやっぱり何処か物足りなさを感じて。感じた理由が、俺の居るべき場所がここじゃないと気付いたから。
俺が居るべき場所。俺が俺らしくいられる場所。それはあの蒼い海の上だから。あそこが俺にとって一番自分らしくいられる場所だから。
「あんたは本当に海の話になると、目の色が変わるな」
目の前の男に言われて、確かにそうだと自分でも思った。自覚は、ある。分かっている、俺はやっぱり何よりもあの海が好きなんだ。あの海が、好きなんだ。
「そりゃーね、俺はずっと海とともに育ってきた」
船乗りで生活できなくなって、海賊になるのを選んだのも…海とともにいたかったから。真っ当な仕事について大地に根を降ろすことよりも、あの海にいたかったから。
結局俺はどんな理由であろうとも、海とともに在りたかったんだ。
今はこうして土の在る場所にいるけれど。あの蒼い海は俺からは一番遠い場所にあるけれど。でも心は、ずっと。俺の心はずっとあの蒼へと繋がっているから。
「だから俺にとっての故郷は、あそこなんだよ」
隣に座る男の顔を改めて見つめて、俺はそう言った。少し飽きれたような顔で俺を見つめるのは、きっと。きっと俺がどうしようもない程に楽しそうな顔をしているからだろう。
「―――本当にあんたって奴は……」
予想通りの深い溜め息。呆れかえったような声。それでも俺は自分の気持ちには何時も正直でいたいから。馬鹿だと言われても…海を追い続けていたから。
「妬けるな」
「え?」
不意に顔が近づいてくると思ったら、腕を掴まれた。そして。そして俺が疑問の言葉を投げかける前に…唇を塞がれた。
綺麗だと、思っている。海のことを語るお前の瞳を。
子供のような無邪気な顔で、本当に楽しそうに。楽し、そうに。
そんなあんたを見ているのは好きだった。
あんたが嬉しそうにしているのは俺は好きだ。けれども。
けれども同時に思っている事がある。あんたにとって。
あんたにとって俺は『海』以上の存在にはなれねーんだと。
どんなに近付いたって、越えられねーんだと。
そう思ったら無性に。無性に腹立たしくなってきた。
「…んっ…止めっ…んん……」
髪に指を絡め、強引に唇を貪った。唇を抉じ開け舌を絡め取る。ぴちゃぴちゃと音を立てながら逃げ惑う舌に自らのそれを巻き付ける。
「…はぁっ…んっ……」
唇が離れた瞬間に零れる甘い吐息に欲情しながらも、何度も何度も角度を変えてその唇を奪った。抵抗する気力すら無くなるほどに、激しくそして。そして熱く。
「…ガレッ…ト……」
やっとの事で唇を解放すれば、潤んだような瞳で俺を見上げてきた。その瞳に映っているのは俺だった。今は遠い海ではなく、一番近くにいる俺だった。
「…お前…突然なんだよ…いきなり欲情すんなよ」
「あんたが悪りーんだよ」
「…何で、だよ?……」
不貞腐れたよな顔で俺を見つめてくるあんたが。そんなあんたがどうしようもない程に愛しい。こんなに俺があんたに惚れているのに、それに気付かない所ですら。
「あんたが…俺と一緒にいんのに…別な所見てるから」
俺の言葉に一瞬。一瞬あんたは呆けたような顔をした。そして次の瞬間にはひどく。ひどく楽しそうに微笑って。よしよしと俺の頭を撫でた。スキンヘッドの俺の、頭を。そして。
「ハハハ、何だお前嫉妬してんのか?そうかそうか、可愛い奴め」
「………」
「馬鹿だなーお前、海に嫉妬したって…海とはこんな事、出来ねーだろ?」
そして俺の首筋に腕を廻して、そのまま。そのままあんたの方から…キスをしてきた。
俺の還える場所は、俺がいるべき場所は海だけだ。
けれども。けれどもそれには何時しか条件が出来ていて。
それはお前がいないと、意味がないんだ。お前がいなければ。
俺が一番好きな景色を、一番好きな場所を。
―――お前と一緒に…見たいんだから……
焼けた肌に口付ければ、そこからは海の匂いがした。潮の、匂いがした。これがあんたの香りなんだと気付いた時、ひどく俺は嬉しかった事を憶えている。
「…はぁっ…あ……」
薄く色付いた胸の果実を口に含み、舌で転がした。それだけで腕の中の肢体がぴくんぴくんっと跳ねる。まるで鮮魚のように。
「…あぁ…ガレット……」
海から跳ねる魚のように。あんたの好きな海と同じだけ…それ以上に俺の腕の中で泳がせたいと思った。この腕の中で、あの蒼の中にいるように。
「ギース、こっち向け」
「…んっ…ふっ……」
唇を塞ぎながら胸の飾りを指で弄った。人差し指と中指でぎゅっと摘みながら、何度も何度も甚振り痛いほどにソレを張り詰めさせる。かりりと爪で引っかいたら耐えきれずにびくんっと身体が痙攣をした。
「…んんっ…ガレット…あんま……」
「ん?」
「…あんまひどく…すんなよ…優しく…しろよ…」
俺の首筋に抱きつきながら、息が掛かる距離で言われれば。そう言われればハイと言わずにはいられない。惚れた弱みとはこの事だろう。
「―――本当にあんたは」
「…うん?…」
「悔しいくらいに…可愛いね」
「ああっ!」
脚を開かせ形を変化させた自身に触れた。俺の言葉など耳に残らないようにと性急にソレを追い立てる。どくんどくんと熱く脈打つ程に。
「…ああっ…あぁ……」
紅い髪が、揺れる。長い紅い髪、が。海はあんなにも蒼いのにあんたの髪は血の色をしていた。けれどもそれが。それこそが、きっと。きっと何よりも綺麗なものなんだろう。何よりもあの蒼に映える色なんだろう。
「あああっ!!」
先端を激しく扱いてやれば、どくんっと音ともに俺の手に白い欲望を吐き出した。
「―――あああっ!!」
濡れたソコに自らの楔を貫いた。その瞬間喉が仰け反り、苦痛を帯びた表情をする。それでも俺は自らの欲望にしたがって、激しく中を貫いた。
「…ああっ…あぁぁ……」
揺さぶるたびに髪が、揺れる。揺さぶるたびに、目尻から涙が零れて来る。それがひどく。ひどく綺麗だった。こんな不埒な行為をしていながらも、そこだけがまるで別のもののように綺麗だった。
「…ガレット…ガレット……」
ぎゅっと背中に腕が廻されて、深く爪を立てられた。バリバリと言う音ともに、背中の皮膚が引っかかれているのが分かる。それでも俺はその身体を貫き続けた。腰を振り続けた。
「…ああぁ…もうっ…限界だっ…あっ……」
「俺もだ、ギース…出すぜ…」
「あああ―――っ!!!」
締め付ける媚肉を抉じ開け、一番深い場所に俺は自らの欲望を注ぎ込んだ。
「…一緒に……」
あの蒼い海が俺を待っている。
「…一緒に…行こうぜ……」
一番俺が俺らしくいられる場所。
「…ギース?……」
その場所にお前とともに。お前と、ともに。
「…お前と行きたいんだ……」
「…お前と一緒に…還えりたいんだ…あの海へ……」
俺が俺らしく居られる場所だから。だから一番大事な奴と。
一番大事な奴と…俺は一緒に行きたいんだ。還えりたいんだ。
「…ああ、ギース…連れてくれよ…お前の故郷に、な」