忠誠と欲望



――――生涯私の剣は、貴方だけに捧げるから。


私の全ては貴方に捧げている。この身体も心も、命すらも。
全て全て、捧げているから。だからもう二度と。

―――もう二度と…何処にも行かないでください……



見掛けよりも力強い腕が、その手首を掴み、そのまま腕の中に閉じ込められる。その感触はパーシバルの記憶しているそれと何一つ変わらなかった。あの頃のままの感触だった。
「…パーシバル……」
「…ミルディン…王子……」
その声に導かれるように顔を上げれば唇が強引に塞がれる。それもあの頃のまま、だった。あの頃のまま、自分の気持ちも状態も何一つ確認する事無くこの身体を組み敷くその人。
けれどもそれが。それこそが自分の知っている…自分だけが知っている王子だった。
「―――逃亡生活の間…お前の感触を忘れた日は一日もなかった」
耳元に囁かれた言葉にパーシバルの背筋はぞくりと震えた。何時も。そう、何時も。この声に捕らえられ、その腕に抱きしめられ…そして。そして堕ちてゆく自分を止められないでいる。
「…王子…んっ…」
もう一度口付けられ、そのまま舌を絡め取られる。眩暈のするほどの長く深い口付けに、パーシバルの意識は次第に溶かされていった。


貴方が死んだと聴かされた日。その日以来私は何もかもが分からなくなっていた。
自分が何の為に生きているのか、自分が何の為に戦っているのか。何も。
何も分からなくなっていた。何一つ見えなくなっていた。貴方がいなくなったその日から。

でも貴方は、生きている。こうして、今私に触れている。

ただ独り、私が剣を捧げた人。ただ独り私が全てを捧げた人。
貴方のために生き、貴方のために死にゆく事が私にとって。
私にとっての何よりもの、しあわせなことだから。


「…はぁっ…ぁ…」
長い口付けから解放され、パーシバルはその場にくみ敷かれた。性急とも思える動作で衣服を脱がされ冷たいエルフィンの手が肌に触れる。それだけで身体が震えるのを、抑えきれなかった。
「パーシバル…私だけのものだ」
「…ぁっ…ぁぁ……」
胸の果実を指で嬲られ、そのまま口に含まれる。舌先でぴちゃぴちゃと舐められれば、パーシバルの長い睫毛が震えた。
「…あぁ…ミルディン…王子……」
「―――この身体も心も全て、私だけのものだ」
貴方だけのものですと、パーシバルは告げようとしたが息が乱れて言葉にならなかった。ただ口から零れるのは甘い吐息だけで。甘い、喘ぎだけで。
「…あ…ぁ……」
指先が触れるだけで肌が熱く火照る。もう二度とこの指が自分を触れることは無いと思っていた。もう二度と、触れられることはないと。けれども確かに今。今この指は自分だけを求めてくれている。
「ああっ!!」
脚を割られ欲望に指が添えられた。既に熱を帯び始めたソレに長く綺麗な指が淫らに絡まる。パーシバルの両脚はがくがくと震え耐えきれずに閉じようと動かされるが、エルフィンは決してそれを許さなかった。―――それすらも…あの頃のままだった。
「…ああっ…王子…っ…くっ……」
初めて肌を重ねた時から何一つ変わってはいない。自分が彼のものだという事を確認する為に、強引に。強引にそして、思いのままに。けれどもそれこそ、自分が望んでいたもの。

自分が彼だけのものだと、そう示すための契約。

「私がいない間…誰かにこの身体を触れさせたか?」
指が一番深い場所へと滑り込む。そしてひくひくと蠢く秘所を何度も指がくちゃりと捏ね繰り回した。
「…私は…王子だけのものです…その時は舌を噛み切って死にます…」
「ああ、そうだ。お前は私だけのものだ。誰にも渡さない」
「…王子…く…んっ……」
はいと言う返事も中に増やされた指の動きのせいで言葉にならなかった。久々に与えられた刺激だった。エルフィンがいなくなってからパーシバルはそれこそ前よりももっと。もっと他人と接触する事を馴れ合う事を避けてきたのだから。
「…くふっ…は……」
元々性欲には淡白な方だった。自分から衝動的になることもない。けれどもエルフィンの手によってだけは。この手によってだけは自分がどうしようもない程に乱される事を知っている。どうにも出来ないほどに乱れ、そして求めてしまう事を。
何時しかパーシバルの腰が揺れ、エルフィンの愛撫を深く求めるようになっていた。そんな乱れた姿にエルフィンは欲情した。普段のストイックさのギャップが。そしてここまで彼を乱す事が出来るのが自分だけだと言う事に。
「パーシバル。私の、パーシバル」
ずぷりと濡れた音ともに指が引きぬかれ、次の瞬間にエルフィンの欲望が入り口に当てられた。あの熱さと硬さにパーシバルの口からほっとしたような甘い吐息が…零れた。


貴方が生きている。貴方が私に触れている。
貴方の生を確認する為にこうして重ねる肌でも。
私が貴方のものだけだと言う印を刻む行為でも。
それでも私にとって、必要なもので。そして。

―――そしてそれが何時しか忠誠と欲望が交じり合った結果になっていたから。


「――――ああっ!」
指とは比べ物にならない圧迫感に、パーシバルの目尻から雫が伝う。けれどもエルフィンはとめる事はしなかったし、パーシバルも決してそんな事を望まなかった。
「…あっ…あああ……」
こうして身勝手に蹂躙される事が。こうして思いのままに犯される事こそが、パーシバルにとっての望みだった。自分が認めたただひとりの仕えるべき相手。王者の瞳を持つこの人に、躊躇いや戸惑いやまして優しさなど…臣下の自分にとって与えられるべきものではないから。
「…パーシバル…相変わらずお前の中はきついね…」
「…あぁ…王子っ……」
耐えきれずにパーシバルは彼の白い背中に爪を立てる。そこからは薔薇のように紅い血が滴り落ちた。ぽたりと、落ちた。
「―――熱くて、溶けそうだよ」
「…はぁぁっ…あぁぁ……」
「愛しているよ、私だけのパーシバル」
「ああああっ!!」
ぐいっと腰を強く引かれ、中に熱い液体が注がれる。パーシバルの内壁よりも熱い、液体が…。



捧げた剣。捧げた想い。
「…王子……」
貴方だけが私を突き動かす。
「…もう何処にも…」
貴方だけが私を生かし、活かす。
「…何処にも行かないでください……」
ただひとり、支配者たる貴方だけが。



「―――ああ、もう独りにはしない。お前は永遠に私の剣だ」



口付けられその思いがけない激しさにパーシバルはそっと目を閉じた。睫毛を震わせながら。