Love of Mine



噛み付くような口付けで、全てを奪えたらいいのに。


見下ろす漆黒の瞳がひどく真剣で、カレルはそっと口許に笑みを浮かべた。そのまま長い髪に指を絡めて、その顔を引き寄せた。
「――――ルトガー、君はどうして何時もそうなんだい?」
引き寄せて一つ口付けを奪うと、今度は柔らかく微笑った。この男が普段見せる笑みだ。全てを達観して、そして辿りついたものはただひたすらに穏やかなものだと。穏やかな心だと…以前ルトガーは、そう呟いたのをカレルから聴いた。
その時は単純に羨ましいと、思った。色々な負の感情があって、それから今でも抜け出せないでいる自分に比べてひどく羨ましいと。

復讐に捕らわれ、血に塗れている自分には…そんな彼がひどく羨ましく思えたのだ。

「…何がだ?……」
不機嫌な声が降って来てカレルは苦笑を禁じえない。何時も、彼はこうだ。にこりと笑う事もなければ、愛想を浮かべるわけでもない。何時も不機嫌な顔で、それでもこうして自分を組み敷くのだ。
「そんな不機嫌な顔をされては、私だって…その気になれないよ」
そう言葉で言いながらもカレルは自分が彼の『雄』を求めているのを自覚していた。戦いの後、人を切った後、こうして身体が火照るのを…未だに自分が抑え切れない限り。
この若くて瑞々しい肌のぬくもりを、求めずにはいられない事を。注ぎ込まれる熱さを、求めずにはいられない事を。
「―――あんたがその気にならなくても俺は…その気になっている」
無表情でさらりと言った言葉に思わずカレルは表情を崩した。そんな言葉をこの男が言うとは想像が全く付かなかったからだ。いや、想像どころか…真顔でそんな事を言ってのけるルトガーに正直驚いたのだが。
それでも不機嫌な顔の下にそんな事を考えていたのかと思うと、カレルにはひどく可笑しかった。可笑しくて声を上げて笑って、そしてそのまま。
――――そのままその広い背中に腕を、廻した。


口付けは直ぐに深いものへと変化する。舌を絡めあいながら、口中を弄る。カレルは積極的にルトガーの舌に絡め、自らの欲望を満たした。
「…んっ……」
飲みきれない唾液がカレルの口許を伝い、そのままシーツに染みを作った。けれどもそれすらも気にならずにカレルはルトガーの舌を求めた。
「…はぁっ……」
唇が痺れるくらいになって、やっと互いは口付けを止めた。口許を伝う唾液を無駄だと分かりながらも舌でルトガーは舐めながら、カレルの服を脱がしてゆく。やや乱暴とも思える動作が、その先の行為を性急に求めているようで、カレルには嬉しかった。
普段の表情や態度が全く不機嫌な分、この年下の恋人の気持ちを探るにはこうして身体に教えられるしかなかったから。
「…君は本当に綺麗な顔をしているね……」
自分を見下ろす漆黒の瞳を見つめながら、カレルはその頬にそっと手を重ねた。サカ人なのに明らかに違う容姿を持つルトガーの頬は冷たいほどに白い色をしていた。
「あんたの方が、綺麗だ」
「…今日は…随分と…私を驚かせる事ばかり言うね…」
「何時も思っている事だ」
照れ隠しなのか、それはカレルには分からなかった。けれどもその言葉を告げたルトガーは、性急に指先をカレルの肌に落としてゆく。鍛え上げられた筋肉は若さと言う点ではルトガーにどうしても叶わないが、それでも充分引き締まった美しい肉体だった。それにルトガーの指が触れ、感じる個所を探ってゆく。
「…ふっ…はぁっ……」
指が胸の果実を捉えれば、カレルの口から甘い吐息が零れた。それは明らかに『剣聖』ではない生身のカレルの声だった。それが聴きたくてルトガーは執拗に胸の果実を攻め立てる。
「…あっ…ぁ……」
髪がぱさりとシーツの上で揺れ、微かに肌が紅潮してくる。それを感じながら尚もルトガーは胸の突起を攻めたてた。一方を指で摘みながらもう一方を口に含む。舌で何度も嬲ってやれば、小刻みに睫毛が震え、ひどくカレルを妖艶に見せた。
「あんたは、魔物だな」
「…何故?……」
快楽に潤み始めたカレルの瞳がルトガーを見上げる。その漆黒の瞳は、ひたすらにルトガーを誘っていた。深い闇のようなその瞳が。
「魔物だ、男を食らい尽くす」
ルトガーの言葉にカレルはふ、と微笑った。その顔はどんな娼婦よりも淫らにルトガーには見えた。


長くしなやかな指先が伸びてきて、ルトガー自身に絡まった。そしてそのままソレをカレルは口に咥える。
「…んっ…ふっ……」
ぴちゃぴちゃと音を立てながら、カレルはルトガーのソレを舐めた。先端の割れ目を舌で辿りながら、側面を指で撫で上げる。その巧みな愛撫にルトガー自身は直ぐに勃ち上がり、どくどくと熱く脈を打った。
「…そうやって…あんたはどれだけの男に奉仕してきたんだ?……」
生暖かい舌がルトガーの感じる個所を行き来し、巧みな指が竿の部分を追い立てる。それは実に慣れていて、男の性感帯を知り尽くしたものだった。
「…君よりは長く生きているからね…それなりだよ……」
濡れた唇から覗く紅い舌がひどく扇情的だった。瞳に鮮やかに焼き付いてルトガーの脳裏から離れない。強い刺激を与えられ思わず目を閉じても、瞼の裏の残像として消えなかった。
「…くっ……」
先端を歯で軽く噛まれて耐えきれずにルトガーはカレルの口中に自らの欲望を吐き出した。それをカレルは美味しそうに飲み干す。喉を上下させ、雄の吐き出した精液を。

…まるで男の性を全て飲み尽くそうかとでも…言うように……

口許に飲み切れなかった精液を伝わせながら、カレルはルトガーの身体をベッドの上に押し倒した。そしてそのままルトガーの身体の上を跨ぐ。こうして見下ろす形になって改めてカレルは自らの恋人を見下ろした。
若く美しい、恋人だった。不器用で無表情で他人と関わりを持ちたがらない…だからこそ逆に。逆に欲しいと思った。欲しいと、思った。
「…やっぱり君は…惚れ惚れするくらい…イイ男だ……」
何時しか年令と言うものが自分を衰えさせ、この剣の腕すらも過去のものになるだろう。その時に自分のこの剣の腕を与える相手は彼でなくてはならない。いや…彼がよかった。他の誰にも与えたくないと、そう思った。
「…君が、好きだよ……」
一度果てたはずのルトガー自身は再び震えながらも立ち上がろうとしていた。若い身体の回復力にカレルは悦びながら、それを指で捕らえ自らの入り口にあてがった。
「それは俺の身体が好きなのか?それとも……」
「…両方、だよ……」
くすりとひとつカレルは微笑うと、そのままルトガーの楔を自らの肉体で飲みこんだ。ずぶずぶと濡れた音を立てながら、腰を降ろしてゆく。そのたびにきつく熱い媚肉がルトガー自身を締め付け、それが彼の拡張を手伝った。
「…はっ!…あああっ!!」
ぐちゃんと濡れた音ともにカレルの中にルトガーの楔が全て埋め込まれる。その圧倒的な充実感を感じながら、カレルはルトガーを見下ろした。髪からぽたりと、雫を零しながら。
「…君の身体も…心も…好きなんだよ……」
「―――俺も、だ」
その言葉だけでカレルはイケるような気がした。そんな言葉をこの男が言う事自体が想像出来なかったから。けれども次の瞬間、それを証明するかのようにルトガーの手がカレルの腰を掴むとそのまま揺さぶり始めた。
「…はぁぁっ…ああっ!!」
がくがくと揺さぶられ、媚肉を楔が激しく抉る。繋がった個所が擦れ合い摩擦と熱を生み、激しくカレルは感じた。胸の果実は痛いほどに張り詰め、自身は限界まで勃ち上がっている。それでもイクのを必死に耐えて、カレルは待った。

――――自分の中に注がれる熱い液体を……


欲しかった、から。君が、欲しかったから。
私が求めると同じだけ。同じだけ、君に。君から。
君から私を求めて欲しかったから。



「――――あああっ!!」



身体の中で弾ける音がして、どくどくとカレルの中に望んでいた液体が注ぎ込まれる。その熱さを感じながら満足したようにカレルは、ルトガーの腹の上に自らの欲望を吐き出した。



口付け、た。繋がったまま覆い被さるようにキスをする。
「…んっ…んん……」
舌を絡めながら腰を揺すった。身体の奥が擦れて。
「…んんっ…ふっ…んんん……」
擦れて、そして。そして繋がった舌が濡れた音を立てる。


――――上も下も繋がって、ぐちゃぐちゃに溶けたいと思った。



噛み付くような口付けを交わし、身も心も奪い合う。
「…ルトガー……」
何度も何度も、奪い合う。全てを搾り取るまで。
「…私の方が…君に捕らわれているのかも…しれない…」
互いの全てを搾り取り、そして。そしてぐちゃぐちゃになるまで。




「…それでもいいと…思うのは…私が君を…好きだからだろうね……」