曖昧な僕等の関係に何時しか答えが出るのを、心の何処かで怖がっている自分がいる。
背後から抱き寄せて、そのまま髪に顔を埋めた。微かに汗の匂いが鼻孔をくすぐり、その薫りがひどく自分を欲情させた。
「…ラ、ランス様っ……」
抱き寄せられて驚いたようにウォルトは声を上げた。けれどもそのまま服の裾から忍びこんできたランスの指の感触に、一瞬声を詰まらせる。直に素肌に触れた指が、服の下から胸の突起を摘んだせいで。
「…やめっ…ランス様…っ…あっ……」
口では否定の言葉を上げながらも慣らされた身体は何時しか反応を寄越した。服の下でランスの指が淫らに動き、ウォルトの性感帯を刺激している。布に覆われて今は見えないけれども、その中では痛いほどに胸の果実は張り詰めていた。
「…あぁっ…ランス…様っ……」
「―――ウォルト……」
後から耳たぶを噛まれた。息を吹きかけられるように囁かれて、ぴくぴくとウォルトの肩が震える。その身体を引き寄せて、うなじに顔を埋める。舌で首筋をなぞってやれば、耐えきれずにウォルトの口からは甘い吐息が、零れた。
「…はぁっ…あぁ……」
ウォルトの睫毛が震え、ランスの膝の上に乗っている華奢な身体がびくびくと跳ねた。脚が小刻みに震え、耐えきれずに椅子をぎゅっと握り締める。
「このまましてもいいか?」
ランスの空いた方の手がウォルトのズボンのベルトに掛かると、今更ながらにそう尋ねた。その言葉にウォルトは返事が…出来なかった。胸を弄られ息を乱している自分に、言葉を紡ぐことは難しかったから。だから。だから小さく頷く事しか、出来なかった。
憧れの人だった。ずっと僕にとって憧れの人だった。
新参者と言われ、外様だと言われながらも、誰よりも。
誰よりも努力をして、そして誰よりもフェレ家に忠誠を誓っている人。
そんな貴方に僕はずっと、憧れていた。
ロイ様を護りたくて、誰よりも僕は護りたくて。
その為にならばどんな事だって出来るって。出来るんだって。
けれども僕は剣を持つ事は出来ない。けれども僕は戦術をちゃんと知らない。
何時も何時も足手まといで、こんなんじゃ全然ロイ様を護る事が出来なくて。
だから憧れていた。ずっと憧れていた。こんな風にロイ様を護れる貴方を。
僕が努力しても全然叶わない事をあっさりとやってのける貴方を。そんな貴方に。
そんな貴方に追いつきたくて、必死になっていた。僕は必死に追いかけた。
貴方と並ぶくらいになれたならば、僕はロイ様を護る事が出来るようになるって。
貴方と同じ位置に立てたならば、きっと。きっとロイ様を護れるって。
――――ロイ様を護る事が…出来るって……
「…はぁっ…あぁんっ……」
ベルトを外されウォルトの下半身が剥き出しにされる。ストンと音ともにズボンが床に落とされ、下に身に着けているものは何もなくなった。けれども上着だけは脱がされずに、胸元まで捲り上げられて、胸の果実を突き出す格好にされている。痛いほどに張り詰めている胸の突起を。
「…ランス…様…ソコは…っああっ!」
脚を広げさせられ、微かに形を変化させた自身にランスの指が絡まった。小さく震えながらたち上がるソレを、ランスは巧みな指遣いで追い詰める。形を指が辿りながら、付け根の部分を撫でる。それだけでウォルトの目尻からは快楽の涙がぽろぽろと零れた。
「こんなになっている、ウォルト。感じているのか?」
「…そ、そんな事…言わないで…ください…あっ…」
囁かれた言葉にウォルトは耳まで真っ赤になった。ランスの抱きしめている身体にも一気に熱が灯る。そんな所が愛しいと、思った。そんな所が、誰にも渡したくないと思った。そう、誰にも渡したくないのだ、と。
「…あぁっ…あぁぁ…もうっ…僕っ……」
先端からは先走りの雫が零れ始めている。それを指で掬ってランスは先端の割れ目に擦りつけた。それだけでどくどくとウォルトのソレは脈を打ち、限界である事を知らせる。
「…僕…イッ…ちゃっ…あっ!」
「駄目だ、ウォルト。少し我慢するんだ」
「…やぁんっ…ランス様…っ…くっ……」
無情にもランスは解放を求めるウォルトの先端を指で摘むと、そのままもう一方の手を彼の最奥へと忍ばせた。男を受け入れる事を知っているソコは刺激を求めてひくひくと淫らに蠢いている。その入り口にずぷりと指を埋め込んだ。
「…くふっ…はっ…あぁ……」
くちゅくちゅと濡れた音を響かせながら、ランスはウォルトの中を掻き乱す。きつく締め付ける媚肉の抵抗を遮りながら、奥へ奥へと指を侵入させた。
「はぁんっ!!」
ランスノ指がウォルトの一番感じる個所を探り当てると、ソコを集中的に攻めたてる。その刺激にウォルト自身は限界だった。けれども入り口を指で塞がれイク事は許されず、何時しか限界を超えた快楽は苦痛として彼の身体を蝕んでいた。
「…はぁっ…あぁぁ…もぉっ…もぉっ…ランス様…許しっ……」
目尻からは快楽とも苦痛とも付かない涙が零れ、口からはだらしなく唾液が零れ落ちた。胸の突起は痛いほどに紅く熟れ、ウォルトはイケないもどかしさに腰を揺らす。その姿はひどく彼を淫乱な生き物に見せた。普段は無邪気とすら言えるほどに純粋な、まるで子供のように見える少年が。
「…許し…てっ…あっ……」
指が、中から引き抜かれる。その感触にすら敏感になっているウォルトの秘所は反応を寄越した。そして先端を握っていた指が外され、そのままウォルトの細い腰を掴んだ。
「―――挿れるぞ…ウォルト」
入り口に当たる硬く熱い感触にウォルトは無意識に身体を震わせた。けれども囁かれた言葉に抗う事など出来ずに、頷くだけだった。押し寄せる快楽に勝てずにこくこくと頷くだけだった。
――――何時もその先を、曖昧に濁している。
お前が私に憧れるのはロイ様を護りたいと言う想いから。
私から戦術を学ぶのも、こうして私のそばにいるのも、ただ。
ただひとつロイ様を護りたいという想いから。その想いから。
こうして私の、そばにいる。私の腕に、抱かれている。
その答えを私自身が出す事に怯え、そして。
そして曖昧に全てを濁している。お前を失いたくなくて。
お前をこの腕から失いたくなくて、私は。
…私はその先の答えを…こうして曖昧に…ぼかしている……
一瞬身体を真っ二つに引き裂くような痛みとともに、ウォルトの中にランスの楔が埋め込まれる。入り口を広げ、奥へと捻じ込まれてゆく。
「…あああっ!…あああんっ!!」
最初の痛みはすぐに快楽へと摩り替わった。一瞬萎えた自身も直ぐに回復し、中にソレを飲み込んだだけで先端からは白濁した液体がドクンッと溢れた。それを背後から見つめてランスはひとつ、微笑った。
「もうイッたのか?まだこれからなのに」
「…だって…ランス様…もう…僕…我慢出来なくて…ああっ!」
どくどくと精液を流しながら射精の余韻の残る身体を、ランスは容赦なく貫いた。腰を掴みそれを上下に揺さぶる。そのたびにウォルトの中のランス自身の硬度が増し、媚肉を押し広げてゆく。その感触に、ウォルトの身体に再び火が付いた。
「…ああっ…あああっ…あああ……」
前には一切触れていないのに、再びウォルトのソレは立ち上がり痛いほどに反り返っている。それを確認しながら、ランスはより一層ウォルトを突き上げた。きつく締め付ける媚肉を掻き分け、奥へと楔を埋め込んで。
「――――出すぞ、ウォルト」
「…ラ…ランス様…待っ…僕…あっ…ああああっ!!!」
ぐいっと深く腰を引き寄せられ、中が一瞬収縮する。その刺激に耐え切れずにランスはウォルトの中に自らの欲望を注ぎ込んだ。その熱さが敏感な個所を埋めた頃、耐えきれずにウォルトは今日二度目の射精を自らの腹の上に吐き出した。
「…ランス様……」
僕はきっとこの人が好き。きっと好き。
「…ウォルト……」
こうして抱かれる事も嫌じゃない。けれども。
「…ランス様…その……」
けれども、もしも。もしも僕が誰か一人を選べと言われたら。
「…その…キス…してください……」
迷わずに僕はロイ様を、選んでしまうから。
――――曖昧にして逃げている。全てのものから僕は…逃げている……
降りてくる唇にウォルトは睫毛を震わせながら受け入れた。この甘くて切ない口付けを何時しか自分がどうしようもない程に願っている事が。どうしようもない程に手放せないと思っている事が。
それが自分を追い詰め苦しめてゆくのも、分かっていても。分かっていても、欲しいから。
…その先の答えをまた。また曖昧にして…そしてこの関係に、溺れてゆく……