伝えたい事



――――ずっとお前に伝えたかった事がある。ずっと、伝えたかった事が。


何時もそばにいるから。当たり前のようにそばにいるから。
だからあえて言葉にしなかった。本当はちゃんと言葉にしなければいけないのに。
幾らそばにいても、心が通じ合っていても。それでも。
それでも伝えなければならない事は。伝えたい事は、ちゃんと。


…ちゃんと言葉にしなければ…いけないから……



「…ランス…俺……」
唇が離れた後、戸惑うようにアレンはランスに言った。何時も真っ直ぐ物事を言ってくるアレンにはそれはひどく珍しい事だった。気持ちのいいくらい自分の正直な想いを述べる彼にしては。
「―――どうした?アレン」
ランスはそっとアレンの頬に手を添えて、自分の方へと顔を向かせる。今彼がどんな顔をしているのか知りたくて。どんな表情でその言葉を告げているのか、知りたくて。
「…俺…何時もお前からもらってばかりだ…」
「アレン?」
言葉の意味が分からなくて尋ねるランスに、アレンはふと視線をそらした。本当に彼にしては珍しい仕草だった。何時も真っ直ぐに反らす事無く大きな瞳が自分を見つめていると言うのに。
こんな風に視線を反らして、そして。そしてほんのりと頬を紅く染めている彼は。
「…いやその…何時もお前ばかりが…俺に…」
そこまで言ってアレンはいったん言葉を止めて、大きく息を吸いこんだ。そして意を決したようにぎゅっと目を閉じて、そして。そしてランスに告げる。それは…ランスの口許を綻ばせずにはいられない…言葉だった。


「…俺に好きだって言ってくれてるから…その俺も…お前が好きだから……」


最期の方は消え入りそうな声だった。それが何よりも嬉しくてランスはそっと微笑う。そしてそのままアレンをきつく、抱きしめた。
「―――お前からそんな風に言われるなんて…夢みたいだ、アレン」
「…あ、いや…その俺…俺は……」
抱きしめられてどうしていいのか分からずに戸惑っているアレンにランスはひとつキスをした。触れるだけのキスだけど充分にそれは甘いもので。
「嬉しいよ、アレン」
甘いキスに意識を溶かされながら、アレンはそっとランスの腕によってベッドに押し倒された。


「…あっ…はぁっ……」
冷たいランスの指先がアレンの肌に触れるたびに、そっと熱を帯びてくる。褐色の日に焼けたアレンの身体は、ひどく太陽の匂いがした。その匂いが何よりもランスは好きだった。
「…やぁっ…ぁ…んんっ」
「…アレン……」
角度を変えて何度も何度もその唇を塞ぐ。飲みきれなくなった唾液が、アレンの口元を伝いぽたりとシーツに零れた。
「…んっ…ふぅっ……」
まるで全てを奪おうかと思う程、ランスは激しくアレンの口内を貪る。舌を深く絡めあい、息が出来なくなる程、抱きしめて。
「…あっ!…」
ビクンッとアレンの身体が跳ねる。ランスの指先が胸の突起を捕らえ、そのまま指できつく摘まれた。その刺激にアレンは反応し、身体を小刻みに痙攣させる。
「…あっ…あぁ……」
指の腹で転がされ、円を描くように形をなぞられる。そのまま軽く爪で抉れば、悲鳴のような声がアレンの口から零れた。
「…あぁ…あっ…はぁっ……」
空いた方の胸もランスの生暖かい舌に包まれ、ぷくりと立ち上がる。柔らかく歯で噛まれながら、尖った舌が胸の果実を突ついた。唾液にねっとりと濡れ、紅く照らされたソレはひどくランスの瞳に鮮やかに映る。
「――――好きだよ、アレン」
「ああっ!!」
不意にランスの指がアレン自身を捕らえた。そこは既に与えられた愛撫によって、微妙に形を変えていた。それをランスの手が包み込み、指を這わし始める。
「…ああっ…ランスっ…はぁぁっ……」
指先が形をなぞり、先端を抉るように爪を立てる。その刺激にアレンの身体が魚のようにぴくりと、跳ねた。それを感じながらランスは一端ソコから手を離すと、脚を開かせその間に自らの頭を忍び込ませた。
「…ランス…っ…ああっ……」
生暖かい口の中にアレンのソレが包み込まれる。ぴちゃぴちゃとわざと音を立てながら、ランスはアレンのソレを舐めた。先端の割れ目に口付けながら、袋の部分を指で揉みしだく。側面のラインをなぞるように舌を這わせれば、アレンの目尻から堪えきれずに快楽の涙が零れて来た。
「…ラン…スっ…ランっ……」
アレンの指がランスの碧色の髪に絡まった。それをきつく引っ張る。けれどもそれが顔を剥がす為なのか、もっと行為を求めているのか判断は付かなかったが。


ただ。ただアレンが今縋るものが、ランスの髪以外…これ以外ないと言うだけで……。


「―――あああっ!!」
浸入した楔にアレンは耐えきれずに、悲鳴に似た声を上げる。しかしそれは最初だけで、最後には何も考えられない程の快楽が襲ってくるのをこの身体は知っている。
「…あっ…ああっ…あぁぁ……」
ぐちゅりと音ともに埋め込まれてゆく楔が、アレンの意識を真っ白にさせる。理性も羞恥も消えうせただ。ただその感覚を求める事しか分からなくなって。分からなくなって何時しかランスの動きに合わせるように腰を振っていた。
「…ああんっ…あぁっ…あっ…ランス…ランス……」
シーツが雛を作り、そこにアレンの汗が飛び散る。口許から伝う唾液が染みを作り、ぽたりと流れる雫がランスの頬に飛んだ。
「…アレン…好きだよ……」
汗ばむ額を撫でながら、ランスは身を進めた。深くアレンを貫き、締め付ける肉を押し広げる。激しく中を貫き、抜き差しを繰り返し、アレンの奥を征服してゆく。
「…あああっ…ランスっ…もう…俺は……」
「―――好きだよ、アレン…お前だけが……」
「…あぁぁっ…ああ…もうっ……」
アレンの目尻から快楽の涙が止めど無溢れてゆく。それを舌で拭いながら、ランスは彼の身体を最奥まで抉り、そのまま。そのまま熱い中に欲望を吐き出した。



伝えたい事は、ただひとつ。ただひとつ、だけ。
俺もお前が好きだと。お前が俺を好きでいてくれるように。
俺も好きだって。好きだって、それだけを。


――――それだけを…言いたかったんだ……



「…ランス…俺……」
「うん?」
「…ちゃんとお前…好きだから…」
「ああ」
「…好き…だからな……」




「――――分かっている…アレン……お前の事は俺が一番知っているんだから……」