Rose



――――胸に宿る、薔薇の香り。


その白い胸に顔を埋めると、何時も薔薇の香りがした。それが君の付けている香水の匂いだと気付いたのは、こうして肌を重ねるようになってから三度目の夜だった。
「…あっ…王子っ……」
月明かりの下白い肌が露わになる。透けるほどの白い肌。それにそっと指を這わせれば、白い肌は薔薇色へと染まってゆく。君の香りと同じ、紅の色へと。
「ベッドの上では王子と言うな…セシリア」
私の言葉に君のエメラルドの瞳が開かれる。夜に滲み始めたその碧の宝石が。
「…王子…いいえ…ミルディン……」
白い腕が伸ばされて、私の髪に絡まる。柔らかい指先が弄ぶように私の髪へと。その指先をしばらく私は眺めながら、ひとつ微笑った。

――――ひどく子供のような事をする君に…微笑った。


気が付けば何時も君がそこにいた。王子である私に唯一対等であろうとした君。
他の全ての人間は皆。皆私を敬い、持ち上げるだけだった。
けれどもそんな私に君だけは。君だけは同じ場所に立とうとしていた。
周りから生意気だと、女の癖にと言われながらも。それでも君は。
君は常に前を見ていた。常に私を、見ていた。そしてそのエメラルドの瞳は何時も。
何時も真実だけを捉え、そして私に言葉として告げてくれた。


『私はどんな事があろうとも、王子とともにいます』


その言葉に私がどれだけ救われたか君には分かるだろうか?
王子と言う身分が常に孤独を伴っていた事に。そしてそれを見せられなかった事に。
けれども君は私と同じ位置に立ち、私の孤独を救い、私のこころを救った。
強くあらねばと言う私の想いを、君だけがその本音に気付いてくれた。


私は、強くはない。私は誰かに言葉を聴いてほしかった、と。


「…あっ…ミルディンっ……」
胸の膨らみに指を這わせ、そのまま尖った乳首を吸った。柔らかく大きな胸は手のひらには納まりきらずに、ぷるんと震える。それを鷲掴みにし強く揉んだ。それだけで君の睫毛が震え、唇からは甘い吐息が零れて来る。
「…はぁっ…あぁぁっ……」
髪が揺れシーツの波に散らばった。それを見つめながら君の胸の突起を舌でしゃぶる。ぺろぺろとわざと音を立てて舐めれば、君の細い腰が淫らに揺れた。そのたびに胸が震え、私を欲情させる。
「…あぁんっ…はぁっ……」
何度も胸を揉みながら、空いた方の手を下腹部へと滑らせた。わき腹のラインを指でなぞり、臍の窪みをひとつ引っかく。その刺激に君の身体がぴくりと跳ねて、また髪を揺らした。
「…あぁ…あ…あっ!!」
茂みを掻き分け脚を開かせ、花びらを指でなぞった。外側の柔らかい肉に人差し指で滑らせ、そのまま秘所へずぷりと指を埋め込む。閉じられた入り口は侵入する指をきつく締め付けた。
「…ああんっ…あんっ……」
その締め付けを掻き分けるように指を根元まで埋め込み、中でくいっと折り曲げる。そうして広げられた媚肉に君は、耐えきれずに両脚をがくがくと震わせた。
「…あんっ…あんっ…ミル…ディンっ……」
鮮魚のように跳ねる君の身体を抱きしめながら、中を掻き乱す指の数を増やしてゆく。人差し指と中指を埋め込み、内壁を押し広げてやれば口からはとろりと唾液を滴らせた。その液体が白いシーツに染み込み、透明な染みを作る。それがひどく目に鮮やかに映った。
「…あぁ…ダメ…そんなっ…掻き廻さないでっ…あぁっ……」
ぐちゅぐちゅと濡れた音だけが室内に響く。中を指で抉れば脚を震わせ、君は反応をした。そのたびに大きな両の胸がぷるんと揺れる。乳首が痛いほどに張り詰め、感じているのを視覚としても伝えていた。
「…ぁぁ…やぁんっ…ダメっ…はっ……」
指先が濡れ君のソコからは蜜が滴った。とろりとした液体が花びらから零れて来る。それを入り口の柔らかい肉に擦り付け、もう一度中を掻き回した。びくんっ、と身体が跳ねる。それを確認して私は指を引きぬくと、君の膝を私の身体で割った。そして。
「…あっ…ミルディン……」
薔薇の香りのする君の胸に口付けて、入り口に膨張した自身をあてがう。その感触にまた君の身体が跳ねるのを確認して、私は君の中へと挿っていった。


君の香り。むせかえるほどの薔薇の香り。
それが私を誘い、誘惑する。私を堕としてゆく。
けれどもその香りに溺れる事が何よりも心地よく。
そして何よりも私にとっての唯一の安息だった。


君だけが知っている。君だけが私の本当を、知っている。


君だけが私を抱きしめ、君だけが私を癒す。
その白い腕で、その薔薇の香りで。


ずぶずぶと音を立てながら君の中に私は挿ってゆく。脚を限界まで広げさせ、繋がってゆく個所が丸見えになる。君の媚肉を私の楔が押し広げてゆく様がありありと眼下に晒された。
「あああっ!!ああああっ!!!」
白い喉が仰け反り、君の口から悲鳴のような喘ぎか零れる。その喉元に私は唇をひとつ落とした。そしてきつく白い肌を吸い上げる。そうして君の喉元に紅い花びらをひとつ植え付けた。
「…ああっ…ああぁ…ミルディンっ…ミルディンっ!…はぁぁ……」
白い君の肌に散らばる紅の花びら。薔薇の香りのする君。むせかえるほどの匂い。雌の、匂い。君がこうして『女』になる時私もただの『男』になる。王子でも何でもない、ただの男に。

そしてそんな私を知っているのは…君だけだ…君だけが…知っている……

腰を引き寄せ、そのままがくがくと身体を揺さぶった。抜き差しを繰り返し、中の肉を擦り合わせる。その摩擦に、その締め付けに私のソレは限界を迎えた。そして。
「――――ああああっ!!!」
ぐちゃんっ!と音ともに強く引きつけて、そのまま君の中に欲望を吐き出した。


匂い、君の匂い。むせかえるほどの薔薇の。
大輪の薔薇の香り。それは君の雌の匂い。


私だけが知っているもの。私だけが…知っている君の真実……



「…ミルディン…愛しているわ……」
抱きしめているのに、抱かれているような。
「…貴方だけを…愛しているわ……」
そんな君の腕の中で。君の胸の中で。
「…愛している……」
私は眠る。ただひとつ安らげるこの場所で。



――――君だけが、私にとっての唯一の…楽園だった……