本当に大切なものに気付けた私は、何よりもしあわせだと思う。
生きていく中で、長い時を生きてゆく中で。
それでも気付けずに終わる事があって。本当に。
本当に最期の瞬間に、その事に気が付いて。
そして後悔と戻れない時を悔やむくらいならば。
それならば本当に大事な事を、大事なものを。
――――気付く事が出来た私は…何よりもしあわせなのだろう……
こうして貴方を見つめて、貴方を見上げて。その大きな手に指を重ねて、私は気が付いた。私は気付く事が、出来た。
「…ゴンザレス……」
本当に大切なものは失ってから気付くものだと誰かが言った。けれども私は。私は失う前に気付く事が出来たから。本当に大切なものを、見失ってしまう前に。
「…リ、リリーナ……」
そっと手を重ねて、貴方のぬくもりを指先に感じる。大きな手。貴方の大きな、手。ごつごつしてて不器用で、でも。でも何よりも優しい貴方の、手。私はこの手が何よりも好き。何よりも好き、だから。
「手、暖かいね。貴方のこころと一緒だね」
大事なもの。大切なもの。失いたくないもの。本当に自分が望んでいるものが、今ここに。ここに、あるから。今この場所に、存在しているから。
「こころ?俺の、こころ?」
「うん。貴方のこころ。暖かい、貴方のこころ…大事なもの」
指を絡めたまま貴方の手を私の頬に重ねた。その途端びくんっと反応した貴方がひどく。ひどく私には嬉しかった。こんな風に貴方は何時も。何時も私を気にかけていてくれるから。
「一番私の、大切なもの」
目に見えるものよりも、見えないもの。言葉よりも大事な暖かいもの。それを貴方は。貴方は持っている。私にないものを、他の人が見失っているものを、貴方はずっと持っている。
私達は大人になってゆくたび。大人になってゆくたびに。
少しずつ何かを失ってゆく。少しずつ何かを捨ててゆく。
けれどもそれが大人になる事で、それが成長する事だった。
けれども。けれどもその捨ててゆくものの中に、失ってゆくものの中に。
本当に大切なものがあって。本当に大事なものがあって。
それを必死で護りたいと願いながらも、時が何時しかそれを奪ってゆくから。
だから捨てるしかなくて。だから置いてゆくしかなくて。
けれどもそれが大人になることだから。子供の時間に終わりを告げる事だから。
そうして胸の痛みを乗り越えて、綺麗なものを閉じ込めて、私達は成長してゆく。
けれども貴方は失わなかった。貴方はずっと持っていた。
それが私にはひどく羨ましく、そしてひどく眩しいものだった。
私達が置いていってしまうものを、ずっと貴方は持っていた。
綺麗なもの、穢れなきもの、そして何よりも暖かいもの。
子供の頃胸の奥に大事に大事に、そっと暖めてしまっておいたもの。
―――――それを貴方はずっと…ずっとこころに持っていた……
「…ずっと私のそばにいてね……」
気が付くことが出来て良かった。貴方という存在に。
「何もいらないから、ずっと」
他の誰でもない貴方という綺麗な綺麗な存在に。
「―――私のそばにいてね…ゴンザレス」
こうして指を絡めて、存在を感じる事が出来た。
「…お、俺で…俺でいいのか?…リリーナ……」
不器用だけど、優しい人。誰よりも優しい人。こんなに綺麗な瞳を持っている人を私は他に知らない。こんなにも純粋な瞳を持っている人を…知らない。
私ですらもう失ってしまったものを、貴方は持っている。その瞳に、持っている。誰もが子供の頃に持っていて、そして何時しか時とともに置き去りにしてしまうものを…持っている。
それを私は。私は護りたいと思った。この手で貴方のこころを護りたいと。どんなものからも、護りたいと。
私の手は細くて頼りないけれど。
私の脚は遅くて追い付けないけれど。
「…貴方がいい…貴方にそばにいて欲しい……」
それでも護らせて。それでもそばにいさせて。私。
「…ずっと私と一緒にいてね……」
私一生懸命に貴方の事を。何よりも綺麗な貴方のこころを。
「…貴方が…好き…だから……」
私の全てで、護るから。私の全てで、護りたいから。
――――貴方の事が好きだから…私はずっと貴方と一緒にいたいの……
「…リリーナ…リリーナ…俺……」
「…ゴンザレス……」
「…俺ずっと…ずっとあんたと……」
「…うん…ゴンザレス……」
「…あんたと一緒に…一緒に…俺……」
「…一緒に…一緒に…いようね……」
指を絡めて。絡めあって、そして私は教えた。
こうして指を絡めて約束する事を。貴方に、教えた。
やさしい、ひと。だれよりもやさしいひと。
それを気付く事が出来た私はしあわせ。貴方に。
貴方の優しさに気付く事が出来た私はしあわせ。
…失う前に、こうして貴方の存在に…気付けた私は誰よりもしあわせ……
「…リリーナ…俺…ずっと…あんたと…一緒に…いたい……」