小さな花



初めて貴方がくれたのも、こんな小さな花だったね。


「お、おれ…リリーナ…おれ……」
戸惑いながらそっと。そっと私を抱きしめてくれる腕が、好き。不器用だけど一生懸命に私を護ってくれるこの腕が好き。言葉じゃないの。どんな飾り立てた言葉でも、綺麗な言葉でも、この腕の優しさには勝てないから。
「好きよ、ゴンザレス。私貴方が好き」
「おれ…醜い…あんた…綺麗…それでも?」
「好きよ。大好き、だって貴方の心は綺麗だもの」
顔を上げて、真っ直ぐに貴方を見上げた。綺麗な瞳。純粋な瞳。私はこんなに綺麗な瞳を他に知らない。こんなに綺麗なものを他に知らない。貴方以外、知らない。
「何よりも綺麗、だから」
戸惑ってどうしていいのか分からない貴方に私は自分からキスをした。そうしたらそっと。そっと壊れないように私を抱きしめてくれた。


おれは、醜い。おれは、怖い。
みんなおれに怯えて、石投げた。
おれいっぱいいっぱい、いじめられた。
でもそんなおれをあんたは。
あんたはきれいだって、すきだって言ってくれる。

おれ、人間になれた。おれ、ヒトになれた。

あんたがいたから。あんたが教えてくれたから。気持ちを、教えてくれたから。
大切なこと。とても大切なことを、あんたが。あんたが教えてくれた。
それは気持ち。大事な、気持ち。それをあんただけがおれに、くれた。


「…好きよ…ゴンザレス……」
唇を離して、貴方を見上げた。そして抱きしめている手をそっと取って、私の胸へと当てる。その瞬間ぴくんっと貴方の手が震えたが、私はそのまま離さなかった。伝えたかったから。この胸の鼓動を伝えたかったから。
「リ、リリーナ…手、離せ…離さないとおれ…おれ……」
「離さない、ゴンザレス…だから……」
「…リ…リリーナ……」
「だから…ゴンザレス……」
貴方の手を上から包み込むようにしてぎゅっと手を握り締めた。貴方の指先に私の胸の膨らみが、そして鼓動が伝わる。とくんとくんと、高鳴る音が。
「…だめだ…リリーナ…おれ…リリーナ…壊してしまう……」
「ふふ、壊さないように…優しくしてね」
まだ戸惑っている貴方に微笑って、そして。そして私は重ねていた手を離した。それでも貴方の手は…離れなかった。ただ戸惑うようにそれでも乗せられている手に私は胸を押しつけた。
「…リリーナ…柔らかい……」
「…ゴンザレス…いいよ…力入れて…」
「…で、でもおれ…おれ……」
「…いいの…私がそうして欲しいから……」
その言葉に戸惑いながら、それでも。それでも貴方は私の胸をゆっくりと揉み始めた。傷だらけの大きな手で。


「…あっ…ゴンザレ…スっ……」
胸を何度も揉まれながらそのままゆっくりとベッドの上に押し倒された。柔らかいベッドは何だか変な感じがする、と貴方が言っていた事を思い出しながら。
「リリーナ…リリーナ…」
「…ゴンザレス…あっ!ダメっ……」
服を破かれそうになってその手を押し留める。はっと我に返ったように貴方は動きを止めた。そんな貴方がひどく愛しくて私は額にひとつキスをした。そして自分から服を脱ぐ。
父以外の、男の人の前で裸を見せるのは初めてだったからひどく緊張したけれど。けれどもそれを見せるのが貴方だから。他でもない貴方、だったから。
「…そんなじっと…見ないで…それよりもゴンザレスも脱いで…」
「お、おれもか?」
「そうよ。私だけ脱がせるのは…ずるいわ」
「わ、分かったリリーナ。おれも、脱ぐ」
二人で向かい合いながら服を脱ぐのは何だか可笑しかった。まるで子供のような感じだった。それでも私達は子供なんかじゃなくて。子供じゃないから、違うことをする。
「これで一緒、だね」
生まれたままの姿になってもう一度見つめあった。変に照れくさかったけど笑ったら、貴方はびっくりしたような顔で私を見つめていた。
「…どうしたの?ゴンザレス?」
「…あ、うっうっ……」
「ゴンザレス?」
「…き、きれいだ…リリーナ…すごく、すごく、きれいだ…きれいだ、きれいだ……」
「くす、ありがとうゴンザレス」
まだ呆然としたような顔をしている貴方にキスをした、私はぎゅっと抱きついた。裸の胸が貴方に当たって身体がびくんと震える。そんな風に反応してくれるのが私は何よりも嬉しかった。
「あ、リリーナ…さわっても、いいか?…」
「触って、いっぱい触って…そして私を感じて…」
再び手が伸ばされて私の胸に触れる。それは壊れ物を扱うような動きで。それがもどかしくて私は指に胸を強く押しつけた。
「…強く…して…いいよゴンザレス…ね……」
「…リリーナ…リリーナ…」
「…あぁっ…はぁっ…あっ……」
私に答えるように貴方は強く胸を揉んできた。それが私には嬉しかった。遠慮する気持ちよりも、私を求めて来る気持ちが感じられて…それが嬉しかった。
「…ああん…あんっ…ゴンザレ…スっ…はぁっ……」
乳房を揉まれ胸の突起を指で摘まれる。その大きな手が私の胸を鷲掴みにする。痛いようなけれどもふわりと意識が宙に浮くようなそんな。そんな感覚で。
「…ああんっ!」
もう一方の胸が口に含まれる。突起をしゃぶられ、胸を吸われた。それは赤ちゃんが母親の乳首を吸うような動作だった。ちゅうちゅうと今にも音が聴こえてきそうな程に。
「…あぁっ…はぁっ…ゴンザレ…スっ…あぁんっ……」
もしかしたら貴方は母親の顔すら知らないのかもしれない。こうやって母親の胸を吸う事すら、知らないのかもしれない。そう思ったら、強く。強く貴方を抱きしめたくなった。


―――貴方をこの腕で、包み込みたいと…思った。


可笑しいね、私の腕貴方よりずっと細いのに。
貴方の腕の半分くらいの細さしかないのに。
貴方よりもずっと。ずっと力もないのに。でも。
でもね、護りたいって。でもね、抱きしめたいって。
そう思ったの。貴方にそう、思ったの。


「―――ひゃっ!」
胸を弄っていた指がゆっくりと下腹部に滑り、そのまま私の秘所に触れた。初めて触れられたその場所はまるで電流が走ったようにビクンっと感じた。
「ご、こめん…リリーナ…おれ…その……」
「…違う…平気…平気だから…いいよ…もっと…そこに……」
「でもリリーナのここ、狭い。おれの指太い…きっと痛い」
「大丈夫…だって指よりも…もっと……」
そこまで言って私は耐えきれずに顔をシーツに埋めた。流石にそれよりも先の言葉を言うには私には恥ずかしくて堪らなかった。
「…リ、リリーナ?……」
「いいからっ続けて…」
真剣に困った顔で私を見下ろす貴方にそれ以上は言えなくて、それだけを告げた。そんな私にまた困ったような顔をして、それでもこくりと頷いて指が中へと入ってくる。
「…くっ!…あっ……」
まだ乾いているソコは指を中々受け入れてはくれなかった。下腹部に鋭い痛みが断続的に続いてゆく。それでも貴方の手を止めてほしくなくて、私は必死に我慢をした。
「…はっ…はぁっ…あっ!」
何度か指が中で蠢き、そしてある一点に触れた途端私の身体がビクンと跳ねた。それに気付いた貴方がソコを執拗に攻めたてる。何時しか私の秘所はしっとりと濡れてきた。
「…ああっ…ああんっ…あんっ!」
指が、触れる。柔らかく触れるだけで、びくびくと身体が感じる。そこに指が触れるだけで、私は。私は。
「…ああぁ…あ…もうっ…私…私っ!……」
「リ、リリーナ…リリーナ…おれ……」
「――――ああんっ!!!」
びくびくと身体が痙攣すると同時に私は貴方の指に大量の蜜を零していた。


「…リリーナ…その……」
まだ何処か意識がぼんやりとしている。それでも。
「…うん…いいよ……」
それでももっとその先のことが。その先のことが知りたいから。
「…いいよ…ゴンザレス…私……」
貴方と一緒に、知りたいから。
「…来て…ね…ゴンザレス……」


脚を自ら開いて腰を浮かせた。そして貴方が挿入しやすい態勢を取ると、そのまま背中に手を廻す。そんな私に一度ぺこりと頭を下げて、そして。そして貴方が私の中へと挿ってくる……。



「ひっ!あああああっ!!!」



痛みで意識が跳びそうになる。それでも必死で私は耐えた。貫く痛みを必死で耐えて、貴方の背中に手を廻した。傷がいっぱいあって、そして。そして大きな背中に。
「ご、ごめん…リリーナ…痛いか?痛いか?」
「…だ…大丈夫…私は平気…だから…だから止めないで…あっ……」
労わるように髪を撫でてくれた。それだけで。それだけで私は大丈夫だから。大丈夫、だから。だからひとつに。貴方と、ひとつに。
「リリーナ…好きだ…好きだ……」
「…私もよ…ゴンザレス…好きよ…大好きよ……」
「リリーナ…リリーナ…」
「あああっ!!…あああん!!」
ぐいっと腰を引き寄せられ貴方がより深く挿ってくる。初めての挿入に出血した個所からどろりと血が滴った。その血が潤滑油となって、楔が奥へと埋められてゆく。血と肉の擦れ合う音がぐちゅぐちゅと響いていた。
「…リリーナ…リリーナ…リリーナ……」
「…ああっ…あああっ…ゴンザレ…スっ!あああんっ!!」
「…おれ…おれ…もお・…おれ……」
「…私も…私も…もうっ…ああああっ!!!」
どくんっと弾けるような音ともに私の中に熱い液体が、注がれた……。



小さな白い花。貴方が初めてくれたもの。
その時教えた言葉があるよね。私が教えた言葉。
今ね。今それを貴方に言いたい。私、貴方に言いたい。



――――ありがとう…って……



「…リリーナ…おれ……」
ありがとう、ゴンザレス。ありがとう。
「…痛くないか?痛くなかったか?」
貴方がいてくれて。貴方がそばにいてくれて。
「…痛いのかっ?!リリーナっ泣いてるのは痛いのか?」
貴方がこうして私のそばにいてくれて。


「…違う…ゴンザレス…これはありがとうの涙よ……」


「…ありが…とう…リリーナ…ありがとう…」
「ふふふ、そうね。そうねゴンザレス」
「…おれ…嬉しい…リリーナありがとう」
「…私も嬉しい…ありがとう…ありがとう……」



貴方は私にくれました。小さな花を、くれました。
そしてそれはそっと。そっと今でも私の胸に咲いているのです。
ずっと、私の胸に咲いているのです。




「…ありがとう…ゴンザレス…貴方がいてくれて……」