――――ただ願う事は、お前のしあわせだと。
ずっと、忘れないから。ずっと忘れはしない。
俺がただひとりの『男』でそして。そして俺が。
俺が唯一手に入れた、夢のような優しい時間を。
お前の髪の匂い、お前の肌のぬくもり。決して、忘れはしない。
指に刻む。永遠に残るように。全てが消え去っても、全てが夢になっても。この指が覚えているように。この肌の感触を、柔らかい髪の匂いを、その全てを。
「…ああっ!……」
褐色の肌に唇を落とし、柔らかい胸に指を這わす。弾力と貼りのある乳房は、強く揉んでも俺の指に極上の抵抗感を示した。
「…あなた…もっと…あぁんっ……」
「…イグレーヌ……」
唾液でねっとりと濡れるほどにその乳首を吸い上げ、何度も胸を鷲掴みにした。このままこの身体の全てを、奪えるならば奪いたかった。このまま。このままずっと…。
「…あぁ…はぁ…んっ!……」
俺の髪に指を絡め、刺激を求め引き寄せる仕草も。俺の顔に掛かる金色の髪も、その全てが。その全てが何よりも愛しいもの。何よりも代え難いもの。何よりも俺にとっては…。
「…愛している…イグレーヌ…お前だけを…」
「…私も…私も…あなただけを…はぁ…んっ!」
胸から唇を離し、そのまま唇を塞いだ。濡れて紅い艶やかなその唇に。激しく吸い上げ、舌を絡め取る。震える睫毛すら、俺には何よりもかけがえのないものだった。
―――お前と言う存在が…俺にとって……
願いはただひとつ。想いはただひとつ。
しあわせになってくれ、と。しあわせになってほしい、と。
何もいらない。何も望まない。俺は俺すら要らない。
だからどうか。どうかこの愛する女を、ただひとりの女を。
…どうか、どうか…護ってくれ……
少しずつ取り戻された記憶が。少しずつ戻ってきた記憶が。
俺を在るべき場所へと引き戻してゆく。その場所にお前を。
お前を決して連れてはゆけない。連れては、いけない。
どんなに愛しても、どんなにお前だけを望んでも。
願うものはただ一つ、ただひとつだけだから。
記憶のない俺に、何もない俺にお前は与えてくれた。
ただひとつの優しいものを。ただひとつのかけがえのないものを。
それは俺が生きてきた中で、俺の失われていた記憶の中で。
永遠に手に入れることが、赦されないものだった。
――――ただひとつ俺のこころに咲く、綺麗な華
ちっぽけな俺の人生にお前と言うただひとつの綺麗な華が。
そっと。そっと咲き続けるようにと。どんなになろうとも、お前が。
お前がこの地上で生き、そして咲き続けるようにと。
「…あなた…もう私…私……」
目尻から快楽の涙を零し、震える指が俺自身に絡みつく。既に充分な存在感を示し、息づくそれに。
「…あなたのコレが…欲しい……」
震える唇が俺の先端にひとつキスをして、そのまま生暖かい口中へと含まれた。ぬめるような舌の感触に自身は激しく脈を打ち始めた。巧みな舌遣いが俺を追い上げ、熱を擡げさせた。
「…んっ…んん…ふぅっ…んっ……」
「―――イグレーヌ……」
「…あなたのコレ…欲しい…はぁっ…ふっ……」
金色の髪が俺の脚の合間で揺れる。それはまるで波のようだった。その髪を撫で、奉仕する姿を眺めながら、俺は下半身に集中する熱を感じていた。
「…このままだと…口に出すぞ……」
「…いいです…このまま…このまま私の中に……」
もう一度生暖かい口が俺自身を全て包み込む。尖らせた舌が先端の割れ目を舐め、窪みに歯を軽く立てられた。その刺激に、俺は―――。
「―――――っ!」
「はああああっ!!!」
イク瞬間に顔が離れ、俺はお前の褐色の肌に白い液体をぶちまけた。
綺麗な女だ。優しい女だ。強い、女だ。
俺には眩しすぎるほどの、綺麗な華。
そんなお前を、どうして俺は。俺は。
――――哀しませることしか…出来ないのか……
愛しただけだ。ただ、愛しただけだ。
記憶のない俺が、記憶を戻した俺が。
それでも変わらないものが、変えられないものが。
俺の中にある限り。俺が俺である限り。
お前を俺の手で、しあわせにする事だけが、出来ない。
顔から首筋に、そして鎖骨から胸の膨らみへと、ぽたりぽたりと白い液体が流れてゆく。お前の褐色の肌に、俺の白い液体が零れてゆく。
それがまるで俺が犯した罪のようで、ひどく胸が痛んだ。
「…イグレーヌ……」
「ああんっ!」
脚を開かせ茂みを掻き分け蕾へと指を突き入れた。とろりと指先に感じる蜜を掬い上げながら、蠢く膣に指を埋めてゆく。
「…あぁんっ…あんっ…ああん……」
何度も何度も指を掻き乱し、乱れゆくお前を見下ろした。このまま、意識すらも奪って溺れてくれ。最後の瞬間にお前の哀しい顔を見たくないからと。
―――せめて最後の瞬間くらい…お前を微笑わせて…やりたいから。
俺に出来る事が。俺に今出来る事が。
それしか。それしか、ないのならば。
「…愛している…イグレーヌ……」
嘘じゃない。嘘じゃない。俺か本気で愛した女はお前だけだ。今までもこれからも、ずっと。ずっと俺の命がある限り、お前だけを俺は。
「―――ああああんっ!!!」
指を引き抜き再び拡張した俺自身をお前の濡れぼそった蕾へと埋めた。熱い媚肉がねっとりと俺自身に絡みつく。その熱さに溶けたいと願った。このまま溶かされ、俺という存在がこの世から全ての記憶から消えてくれと願った。
そうしたらお前が哀しむ事も、お前が危険な目に合う事も、何もないのだから。
「…あああっ…あああんっ…あなた…あなたっ!……」
「…愛している…お前だけを…お前だけを…」
「…私も…私も…あなただけを…あなた、だけを……」
「―――ずっと…愛している……」
「あああああっ!!」
限界まで貫き、その子宮に届くようにと俺は想いの丈を吐き出した。これが最後ならば、せめて何かをお前に残してやりたかった。
二度と、逢う事がなくても。
もう二度と、逢えなくても。
俺の妻はお前だけだ。お前だけが。
お前だけが、俺の永遠の妻だ。
――――だからどうか、どうかしあわせになってくれ……
忘れてくれ、俺を。俺を忘れてくれ。
お前の事は俺が覚えているから。
俺の全てでお前を刻んであるから。だから。
だから、忘れてくれ何もかも。
これが夢だと。これが、夢だと。
そう思って、全てを忘れてくれ。
「…しあわせです…私…あなたの妻で……」
その笑顔を俺はどんな瞬間も、忘れない。
だから俺が死ぬその瞬間、その笑顔を俺の中に浮かばせてくれ。