入れ物



――――私はただの、入れ物だから。


私の中に竜が眠り、そしてそれを作り出す事。それを作り上げるためだけの器。心を奪われしからっぽの私には、それ以外何もなかった。


何も、ない。何一つ、ない。私はただその声に導かれるだけ。その声に…誘われるだけ。


「――――イドゥン」
その声が私を命じ、導いた。私はその声に従えばいい。その声の命じる通り…生き続ければいい。それ以外に私は何もないのだから。
「…陛下……」
見上げればそこには私の絶対の主がいる。絶対の存在がある。この声に従えばいい。この声に、導かれるままに。この声に命じられるままに。
「こっちへ来い」
「…はい……」
私は入れ物。うちに眠る竜の為の。暗黒竜のための、ただの入れ物なのだから。



光が、見えた。あるはずのない光が。
一瞬だけ、見えた。それは。それは。

――――何処からやってきたものだろうか?



ゼフィールの声に少女は人形のように歩み寄った。その顔は頭から被った黒い布のせいではっきりとは見えなかったが、それでもまるで作り物のような無機質の顔だっただろう。心のない少女の顔は。
「イドゥンよ、戦闘竜が足りなくなってきている。また作り出してくれ」
ゼフィールの前に立ったイドゥンの頭の布が外される。はらりと音と共に床に落ち、そのあどけなさすら残る少女の顔がゼフィールの前に晒された。この支配者以外決して見ることのない素顔を。
「はい、陛下。陛下の望みのままに」
その言葉に頷くとイドゥンはその場に跪く。それを確認してゼフィールはその髪に手を掛けた。指を擦り抜けるほどの細い髪に。そして。
「…あ、陛下……」
そしてそのまま自分へと引き寄せる。それが合図だった。イドゥンはただ黙って目の前の支配者を見上げると、そのまま。そのままゼフィールの間に身体を忍ばせる。椅子に座り開かれた足の間にそのほっそりとした身体を忍ばせて…そして。そしてそのまま膝まである上着の裾を上げ、ズボンのファスナーに手を掛けた。
「…陛下…私は…陛下のものです……」
ファスナーが降ろされゼフィール自身が曝け出される。それをイドゥンの細い指が絡まり、そのまま先端に舌が絡まる。割れ目の部分をなぞり、自身を手のひらで包み込みながら、イドゥンは慣れた仕草で奉仕を始めた。
「…んっ…んんっ……」
それは全てゼフィールから教えられたものだった。その声に導かれ、そして命じられ。世界の解放の為に、目覚めさせられた自分。その声に従う事が全てだった。そう、それが全てだった。他には何もない。何も、なかった。
「…ふっ…はむっ…んん……」
ちゅぷりと音を立てながら口を窄め先端部分を吸い上げる。次第に手のひらのソレが脈打つのを感じながら、イドゥンは唇を開きそのまま口内へとソレを飲み込んだ。
「…んんっ…んんんっ!」
口に飲み込みきれないほどの大きさのソレをそれでも懸命に彼女は口に咥え込むと、必死で舌を動かした。それもそう命じられての事だった。そうするようにと教え込まれた事だった。そしてそうする事が、彼女にとっての唯一の『存在理由』だった。

―――この絶対の主君の命に従う事…ただそれだけが……

何度も舌を動かし、懸命にイドゥンは奉仕をした。けれどもゼフィールの欲望は中々吐き出させる事はなく、彼女の唇も次第に痺れていった。それでも。それでもこの行為が止められる事はない。ゼフィールがそれを止めろと言わない限り、彼女は永遠に奉仕し続けるのしかないのだから。
「…はぁっ…は…んっ…んん……」
ゼフィールは自らを奉仕する少女を見下ろした。普段はほとんど表情の変わらない彼女。いや、表情などひとつもない彼女の唯一の『違う顔』。それがこの瞬間だった。自分を咥え込み、そして苦痛に歪む顔。そして快楽へと溺れてゆく顔。それだけが彼女にとっての唯一の『ヒト』としての顔、だった。
「―――イドゥン、もういい」
髪をひっぱり、そこから顔を外させた。苦痛に歪んでいた眉が元に戻り、そしてゼフィールを見上げる。その顔はやはり何時もの無表情な顔でしかなかった。ただ瞳が潤んでいる以外、何一つ変わらない顔、だった。
「…陛下……」
道具だと思えばそれだけだ。世界を征服するための道具。支配するための竜。それに心などいらない。心など持ってしまえば、自分のように傷つきそして醜いものが支配する今の世界と同じになるだけだ。だから。だから彼女にそんなものなど必要ない。

何もないまっさらなままで、世界を解放してくれればいい。


それでもふと、思う。それでも思う時がある。
この少女の笑顔を。この少女の別の表情を。ふと。
…ふと見てみたいと…思う時が……


――――こんな時無性に…それを…見てみたいと……


「…あっ!」
腕を引かれ、そのままゼフィールの膝の上にイドゥンは跨がされた。細いしなやかな身体がすっぽりと逞しい腕に包まれる。そうして胸を肌蹴させられて剥き出しになった乳房を、その大きな手が鷲掴みにした。
「…ああっ…あ……陛…下っ……」
ぎゅっと強く揉まれ、たちまちに桜色の乳首がぴんっと張り詰める。それをゼフィールは指の腹で転がしながら、空いた方の手で彼女の腰を撫でた。
「…陛下っ…あぁっ…んっ……」
腰を撫でながらゆっくりと下腹部へと手を滑らせてゆく。なだらかな双丘のラインを辿り、そのまま脚を開かせゆっくりと指を秘所へと埋めていった。ずぷりと音と共に。
「ああん!」
その瞬間にイドゥンの身体がぴくんっと跳ねる。それを確認するとゼフィールは中に入れた指を掻き回した。ひくひくと淫らに蠢く媚肉の抵抗を感じながら、指を奥へと埋めてゆく。そのたびに細い彼女の身体が、ぴくんぴくんと跳ねた。それと同時に剥き出しになった両の胸が、ぶるんと揺れる。白い乳房が微かに朱に染まりながら。
「…あぁん…はぁっん……陛下…はぁぁっ……」
何時しかイドゥンの腰が指の動きに合わせるように淫らに揺れていた。ゼフィールによって開発された身体は快楽に忠実に、そして淫らに反応をする。そう命じられたから。そうするように仕込まれたから。
「…ああんっ…陛下っ…陛下っ…」
命じられたままに動く人形。心のない入れ物。存在意義はただひとつ。ただひとつ主に対して絶対に従う事だけ。命じられた事に従うだけ。それだけが、生きている意味。そして生かされている意味だから。
「欲しいか?イドゥン」
腰を揺さぶり刺激を求める彼女にゼフィールは敢えてそう聴いた。そんな事を聴く理由は何処にもないのに。何時ものように己の望むままに欲望を推し進めればいいのに。それなのに、今は。

今は、聴きたいと思った。聴きたいと、思ったから。

自分の命令通りに動く人形。命じられたままに従う人形。けれども今はこうして。こうして腰を振り、自らの欲望を求めているから。例えそれが自分が教え込んだものであろうとも。それでも今は。今は。
「…陛下…私は…私は……」
必要のないものだ。必要のないもののはずだ。こころがないから世界を解放出来ると。こころがないからこそ、この世界を導けるのだとそう思っていたはずなのに。いや今でもそう思っている。そう思っているのに。

――――それなのにわしは…今お前の本当の顔が見たいと…思っている……


「言え、欲しいなら」
お前の言葉を聴きたいと。
「…陛下…私は……」
お前の本当の言葉を聴きたいと。
「…言え…イドゥン……」
…お前の本当の顔が…見たいと……。


「…欲しい…です…陛下……」


溜め息のように呟かれた言葉を確認してゼフィールは欲望に拡張したソレをイドゥンの蕾へと捻じ込んだ。濡れぼそったソコは男の拡張をたやすく受け入れ、そのまま全てを飲み込んだ。
「…あああっ…ああああっ!!」
与えられた刺激に満足したように彼女の喉が綺麗に仰け反り、口許から悲鳴のような喘ぎが零れる。その間もきつく膣はゼフィールの雄を締め付け、淫らに媚肉は絡みついた。
「…あああ…陛下…陛下っ!」
自ら腰を激しく揺さぶり抜き差しを繰り返す。腰を動かすたびに乳房が揺れ、胸の突起が痛いほどに張り詰める。それをゼフィールは口に含み舌で転がした。そのたびにイドゥンの口からは甘い息が零れてゆく。
「…ああ…あああ…もうっ…あああ……」
「―――出すぞ、イドゥン」
「…陛下…陛下……」
「―――っ!」
「あああああああっ!!!」
腰を掴まれ子宮に届きそうなほど深く貫かれ、その中に白い欲望が注がれる。その精液の熱さを感じながら、イドゥンは満足したように喘いだ。



私は入れ物。私は人形。ただ命じられた事をこなすだけ。
私は声に導かれ、そして。そして陛下の為に生きているだけ。
それ以外に何もない。それ以外何も、分からない。


―――ただそれだけだった。それだけだった。

一瞬だけまた。また光が見えた。闇しかない私に光が見えた。
それは本当に一瞬で確認する前に消えてしまったものだけど。


確かに、私に注がれた。



「…イドゥン……」
私は陛下のために生きている。
「…はい陛下……」
貴方のために、生きている。
「…お前がいればいい…お前だけが世界を解放する」
それ以外に何も。何も知らないのだから。
「―――だから生きろ。そしてこの世界の支配者となれ」
何も知らなくていい。何も分からなくていい。





微かに見えた光の意味など…分からなくていい。私は『入れ物』なのだから。