慣れない言葉を言ったせいで、思いっきり舌を噛んでしまった。せっかく一世一代の大勝負に出た筈なのにこんなザマで。バッチリ決める筈だったのに大笑いされて。何だかもうどうしようもない敗北感に襲われる。これだから。これだから恋というヤツは…。
「もうどうしてあんたはそうなのよ」
腹を抱えるほど大笑いされて、正直この場から消えてしまいたいと思った。けれどもそんな事相手が許すわけもなく、一通り笑った後大きな瞳で自分をじっと見てきた。
「な、何だよ、シャニー」
悔しい程に動揺しているのが自分でも分かる。ああもうっ!もうどうして俺はこんな肝心な時にちゃんと決められないもだろうか。
「何だよはないでしょ?あんたから言ってきたんだから」
「…い、いや…そうなんだが…その……」
「だったらもう一回ちゃんと言って。今度は舌を噛まないようにね」
畜生あんな恥ずかしい事をもう一回言わせるつもりか…でも言わないわけにはいかねーよな。こういう事はちゃんとしないといけないし…だけど…その…。
「言ってくれないと、一生許さないからね。ワード」
そう宣言されれば俺にはもう拒否権はなかった。どんなに恥ずかしくとも情けなくとも目の前の相手にもう一度告げなければいけない。今度はちゃんと舌を噛まずに。
大真面目な顔をして自分の元へとやってきて、それなのにあたしが分かるくらいに、手が震えていて動揺していて。それでも真剣な顔であたしを見つめてくるから。だからちゃんと聴こうと決めたら、あんたは思いっきり舌を噛んで。肝心な言葉なのに、あたしは思いっきり笑ってしまった。とても大事な言葉なのに。
「…だから…シャニー俺は……」
うん、聴かせて。もう一度あんたから聴かせて。だってその言葉は。その言葉はあたし、ずっと聴きたかった言葉だから。あんたから聴きたかった言葉だから。
「…俺はその…お前の事が……」
また舌を噛まないように言葉を止めて息を吸って、呼吸を整えて。可笑しいね、あたしも物凄くどきどきしている筈なのに、あんたの緊張が手に取るように分かるよ。凄く、伝わるよ。全部、伝わってくるよ。
「…その…き…なんだ……だから…その…好きなんだっ!お前の事がっ!!」
言った途端、身体の力が抜けるような気がした。けれども今度はちゃんと舌を噛まないで言えたから。言えたからお前をちゃんと見たら、やっぱり笑っていて。
「…って何で笑うんだよっ!!今度は俺ちゃんと言えただろうっ!!」
「違うよ、ワード。これはね。これは嬉しかったから」
「…シャニー……」
「嬉しかったから、笑ったんだよ」
とびっきりの笑顔。こんな顔されたら、俺はもう全てがどうでも良くなってしまう。お前のそんな笑顔が見られたならば。
「嬉しいよ、ワード。あたしもね」
大きな瞳。好奇心いっぱいで、すぐに色々なものを映し出す瞳。危なっかしくて目が離せなくて。離せないからずっと見ていたら。気付けば何時も追いかけるようになっていた。ずっとお前の事だけを、追いかけるようになっていた。お前だけを。
「あたしもね、大好き」
我慢出来なくてその大きな身体に飛びついた。太陽の匂いのするその身体に。暖かい匂いのするその身体に。ぎゅっと抱きついたらおずおずと背中に腕を廻してくれた。それがまた不器用でぎこちなかったから、あたしは微笑わずにはいられなかった。嬉しくて、嬉しくて堪らなかったから。
「へへへ、大好きワード。大好き」
見上げればあたしと同じように耳まで真っ赤にしたあんたがいて。それが可笑しくてふたりして笑いあった。声を上げて笑ったら――――何時ものふたりになって。
「俺ら何かロマンチックじゃねーな」
「いいじゃん、らしくて。それともあんたはあたしに涙ぐんで喜んで欲しかったの?」
「いや、いい。そんな事されたら俺が困る」
「何よ、それっ!あたしだってそのくらいしおらしくなれるわよっ!!」
「ちげーよ、そんな事されたら俺がどうしていいのか分からなくて困るって意味だよ」
「ふーん、そんなら今度泣いて見ようかなー?困ったあんたの顔見たいし」
「…ってお前なー…何なんだよそれは…」
「へへ、だって。だって、あたし」
「困ったあんたも全部一人いじめしたいんだもん」
そう言ってお前は不意打ちとでも言うように俺にキスしてきた。心の準備すらしていなかったから全然カッコ良く決められなくて。けれども何だか凄くそれが俺達らしかったから。唇が離れた瞬間も、見つめあって笑った。照れながらふたりで笑った。こんな風に俺たちはずっと。ずっと、一緒にいようと思いながら…。
これだから恋というヤツは堪らない。他のどんな事よりもスリル満点で、そして何物にも代えられない嬉しいものだから。
お題提供サイト様 確かに恋だった