綺麗な人



本当に綺麗な人というのは、姿形ではなく。
伝える言葉が綺麗な訳でもなく。
本当に。本当に綺麗な人は、心が。

―――こころが、魂が、綺麗な人なのです。



本当は心の何処かで諦めていた。私は綺麗じゃないから、と。親から貰った大事な顔なのに、人間は造形じゃないって分かっていたけれど。けれども何処かで。何処かで、諦めていたのも本当だった。

―――私は綺麗じゃないから、神父様は見てくれないんだって……。

それでもそばにいたかったから。自分の容姿は仕方ないと胸に蓋をして、貴方が色々な女の人に声を掛けるたびに文句を言っていた。それくらいしか、出来なかったから。それくらいなら気持ちも気付かれずにそばにいられると、思ったから。
でも羨ましかった。貴方に声を掛けられる綺麗な女の人達が。女の人として見てもらえる人達が。
別にこの顔に生まれた事が嫌なわけじゃない。私は自分自身の事が好きだし、大事に思っている。ただ。ただ辛いのは貴方が私を『女の子』として見てくれない事だけだった。



一番大事なのは、こころだから。
外側の飾り立てたものじゃない。本当に。
本当に大事なのは、その。その気持ち。
優しさはこうして染みこんでくるもの。
こうしてそっと、包み込んでくれるもの。


それを貴方が誰よりも持っているから…私はずっと…大事にしたかったのです……。


「泣いては駄目です、ドロシー」
ずっと大切にしてきたものだった。何よりも私が大切にしてきたものだった。こうして色々な女の人を見てきたけれど、本当は。本当は貴方以外に私には必要なかった。
「…神父様…だって…あたしは……」
沢山の女の人に声を掛けてきたのは、そうして誤魔化していたから。貴方への気持ちを誤魔化してきたから。気付かれないようにと。大事に、大事にしたかった想いだから。
「…あたし…綺麗じゃないもん…神父様はあたしなんて……」
「貴方らしくないですよ、ドロシー。貴方はそんな事を気にする人じゃなかった。それに」
護りたかったものは、貴方の心。何よりも綺麗な貴方の心。何時か私が真の意味で本当の『綺麗なもの』を理解できたその時に、貴方に想いを伝えようとそう決めていたから。だから、私は。
「それに貴方は、誰よりも…綺麗ですよ……」
零れ落ちる涙がどんなに綺麗か。その瞳がどんなに…綺麗か。私は知っているから。私が見てきたどんなものよりも貴方が一番綺麗だって、分かっているから。
「…神父様…あたし……」
「…好きですよ、ドロシー……」
そっと髪を撫でて、私は貴方の頬を零れる涙を。涙をそっと指先で拭った。


大切に護ってきたもの。大事にしてきたもの。
それは目には見えない、言葉にならないもの。
でも確かに、ふたりの間に。ふたりの間にあったものだから。
ふざけあいながら、からかいあいながら、少しずつ。
少しずつこうして降り積もらせて、暖めてきたもの。
それはふたりだけが。ふたりだけが、作り上げたもの。


――――大切なものは、一番身近にあるんだと、気付かせてくれたのは貴方です。



何処かで、諦めていたけれど。でも本当は。
「…神父様……」
本当は貴方に見て欲しかった。貴方に、気付いて欲しかった。
「…あたしも…好き……」
ずっと気付いて欲しかった。この気持ちを、ずっと、ずっと。
「…大好き…神父様……」
こんなにも貴方が好きだって。誰よりも好きだって。


綺麗じゃなくても、美人じゃなくても、気持ちだけは負けないってずっと。ずっと思っていた。



そっとサウルの手がドロシーの髪に触れる。それはひどく優しい指だった。優し過ぎる指だった。その指が何度も髪を撫でながら、唇がドロシーのそれに重なる。始めは触れるだけのキスを何度か繰り返し、ゆっくりと唇を開かせる。そこにサウルは舌を忍ばせ、そのまま怯えるドロシーの舌を絡めた。
「…んっ!…んん……」
こんな時どうしていいのか分からずに、ただひたすらにドロシーはサウルの背中に手を廻して、彼のなすがままにされる。口中を舌で蹂躙され、根元をきつく吸われてぴくんっとドロシーの睫毛が、震えた。
「…あっ……」
とろりとした唾液を口許に滴らせながら、ドロシーの唇が解放される。そんな彼女をサウルはひとつ微笑い、そっと指先で唾液を拭ってやった。そして。
「ドロシー、キスをする時はね、鼻で息をするんですよ」
「…あ、…え…あの…そうなのですか?」
「ええ、そうです。でないと息が苦しいでしょう?」
「…はい…そうですね神父様……」
「じゃあ、もう一回」
「え?」
サウルの手がドロシーの顎に掛かると、そのまま上を向かせ再び唇を奪った。その瞬間ぎゅっとドロシーの目が閉じられたが、今度はちゃんと教えられた通りに息をした。そして。そして侵入する舌に懸命に答えようとする。そんな彼女がサウルにはひどく愛しかった。

―――不器用で、でも懸命な彼女が、何よりも愛しかった。

ぱさりと音とともにドロシーの身体がシーツの波に埋もれてゆく。サウルはそんな彼女を見下ろしながら、再びその髪を撫でてやる。そして。
「ドロシー、嫌なら今言って下さい。後からでは男という生き物は、抑えが効かなくなるものです」
「…し、神父様……」
「無理強いはしません。私は貴方ならずっと。ずっと待てます」
ドロシーは微かに頬を染めながら、サウルを見上げた。その顔に何時ものからかうような笑顔も、ふざけた調子も何もなかった。ただひたすらに痛いほどの真剣な瞳が…真っ直ぐな瞳がドロシーを見つめた、から。
「…責任…取ってくれますか?…」
「聖職者たる私がそれに反する行為をしてまで欲しいと思うのは、貴方だけですよ」
「その言葉、本当ですか?神父様怪しいです」
「む、疑ってますね、ドロシー。本当ですよ、信じないならその身体に教えてあげます」
「…もう神父様ったら…でも…信じます…だから……」

「…優しくして…くださいね……」

ぷいっと顔を横に反らしながら、言った言葉に。耳まで真っ赤になりながら言った言葉に。サウルは何よりも嬉しそうに微笑った。それは顔を背けていたドロシーには見る事が叶わなかったけれど。けれどもこれからは。これからは幾らでもそんな彼の顔を、見ることは出来るから。
「―――承知しました、ドロシー」
首筋に落ちてくる唇の感触に肩を竦めながらも、ドロシーはサウルの背中に手を廻す事で…それに答えた。


生まれたままの姿になったドロシーは、ひどく綺麗だった。普段鎧に隠されていたプロポーョンは均整が取れていて、胸の膨らみなどは男心をそそるには充分なほど大きかった。
「…あっ…んっ!」
サウルの手がドロシーの乳房を鷲掴みにする。それは手のひらに収まりきらない程の大きさを持っていた。潰すように強く揉んでも、弾力のある胸はその圧力を押し返す。その抵抗感を楽しむように何度も何度もサウルは胸を揉んだ。
「…あぁっ…あ…そんな強く…あ……」
両の胸を揉まれている間に尖った乳首をサウルの口に含まれる。それを舌で転がされて、耐えきれずにドロシーは身体を揺らした。けれどもサウルの下に組敷かれた身体は、思うように身動きは取れなくて。
「…ああんっ…あっ…神父…様っ…はぁぁっ……」
ちゅぷちゅぷとサウルはわざと音を立てながらドロシーの胸の果実を舐めた。そのまま乳首に貪るように吸い付きながら、廻りの子房を手で揉む。それだけでドロシーの肌は羞恥と快楽の為に朱に染まっていった。
「…あぁっ…ダメ…神父様…そんな…ぁぁ……」
「何がダメなのですか?ドロシー?」
口に含まれながらしゃべるせいで、サウルの歯がドロシーの胸に当たる。その刺激だけでびくびくと彼女の身体が痙攣した。それでもサウルの愛撫は止まる事がない。ドロシーの性感帯を激しく刺激し、彼女を追い詰めてゆく。
「…ダメ…あたし…変に…なっちゃ…ひゃっ!!」
唇で乳房を甚振りながら、サウルの手がドロシーの下腹部へと忍びこむ。そしてそのまま茂みを掻き分け彼女の割れ目に触れた。それは微かに湿っていて、彼女が感じている事をサウルに伝えた。
「…ひゃんっ!…あぁっ!」
くちゅりと濡れた音ともにサウルの指がドロシーの中に入ってくる。外側の花びらをなぞり、そのまま奥の秘孔へと。侵入を拒む媚肉を掻き分けながら、指を深くへと進める。
「…くふっ…はぁっ…やぁ…んっ……」
とろりと蜜が指先に滴るのを感じ、その液体をドロシーの内壁に擦り付けた。そのたびに腕の中の身体が痙攣して、肩が小刻みに揺れる。その姿を楽しみながら、サウルは彼女の一番感じる個所を探り当てた。
「…ひぁっ!……」
びくんっ!と身体が跳ね、咥えていた乳房が大きく揺れた。サウルの指がドロシーのクリトリスを探り当て、そのままぎゅっと摘んだ為だった。それは痛いほどに膨れ上がり、感じている事を示している。サウルは集中的にソレを攻めながら、胸の谷間に顔を埋め、そこを何度も舌で辿った。
「…ぁぁっ…ああぁ…ダメ…あぁっ…ソコは……」
「どうして、ダメなのですか?」
ぺろりと胸の谷間の白い肌を舐めながら、サウルは尋ねた。息が肌に掛かり、それすらもドロシーは反応した。口から零れる息は荒く、そして甘い。
「…だって…変に…あたし…変に…あっ……」
「いいのです、変になってください。私はそんな貴方が見たいのです」
「…やぁんっ…ダメ…ダメぇ…あたし…あたし……」
ぎゅっと剥き出しになったクリトリスをサウルは指で摘みながら、その廻りを何度もなぞる。そこからは蜜が溢れだし、ドロシーの思考を奪わせた。もう、何も考えられないほどに。
「…あたし…もう…ああっ…あああ!!」
そして。そしてびくんっ!!と大きく身体が跳ねて、ドロシーの意識は真っ白になった。


「…あっ…ダメ…神父様…そんな…汚っ……」
ドロシーの脚を割りそこに身体を忍び込ませると、サウルは溢れた愛液を舐めた。ぴちゃぴちゃと音を立てながら。
「どうして?貴方の出したものに汚いものなんてありませんよ」
「…あぁ…ん…ダメです…そんな…神父…様っ……」
ざらついた舌がドロシーの敏感な個所を攻めたてる。一度溢れた蜜も再び濡らされる唾液と交じり合い、とろりとした液体が太腿に伝った。
「…ああん…あ…はっ……」
「そろそろいいですか?」
充分に湿らせた事を確認してサウルはソコから顔を離した。そして再びドロシーの上に覆い被さると、充分に膨れあがった自身を取り出した。
「…神父…様……」
初めて見る男のソレに少しだけ恐怖を覚えながらも、ドロシーはこくりと頷いた。恐怖もあったけど、それ以上に。それ以上に…。
「―――好きですよ、ドロシー…責任はちゃんと取りますからね」
背中に廻した手に力を込めて、ドロシーはぎゅっと目を瞑った。その瞬間に引き裂かれるような痛みと同時に、自分の中にソレが入ってきた事が分かった。
「ひっ!ああああっ!!!」
あまりの痛みにドロシーの顔が苦痛に歪み、目尻から大量の涙が零れて来る。そんな彼女の髪を撫でてやりながら、サウルはゆっくりと侵入をした。
「痛いなら、爪を立てて構いません。だからドロシー」
「…あああっ…痛っ…痛…あぁぁ……」
言葉通りにドロシーはサウルの背中に爪を立てた。そこからバリバリと音がして血が滴る。その痛みにサウルは口許に苦笑を浮かべたが、身体を進める事を止めなかった。
「…ああ…あっ…神父…様っ…あぁ……」
柔らかく熱い媚肉がサウルをきつく締め付けてくる。その抵抗を遮るように奥に進める感触が堪らない程に、イイ。処女を犯す背徳感と、愛する者を手に入れた悦びが同時にサウルの身体と脳裏を駆け巡り、かつてない悦びを自らの身体に与えた。
「ドロシー、好きですよ。私だけの」
「…ああっ…あああっ…んっ!」
深く身体を繋ぎ合わせ、サウルはドロシーの唇を奪った。くちゅくちゅと舌を絡めながら、腰を揺らし彼女の身体を奪う。抵抗する内壁を掻き分けながら、奥へ奥へと求めてゆく。
「…んんんっ…んんんんっ!!」
その蕩けるほどの熱さに眩暈を憶えながら、サウルはドロシーの身体の中に自らの欲望を吐き出した。



「…ずっと貴方だけが…欲しかった……」
綺麗な人。誰よりも綺麗な、人。それに他人が。
「…誰にも渡したくなかった…ドロシー……」
気付かない事を願いながら、祈りながら、ずっと。
「…誰にも渡したくなかったのです……」
ずっとこうして、大切に。大切に護ってきたものだから。


馬鹿みたいにふざけ合う日常が。
毎日の些細な積み重ねが。どんなに。
どんなにかけがえのないもので、そして。
そして大切なものなのか。それは。


それは私と貴方だけが、知っているはずだから。



「…神父様……」
諦めていた。私は貴方の視界に入らないと。
「…本当にあたしで…いいんですか?」
貴方の『女の人』の中には入らないと。
「…あたしで…いいんですか?……」
だからそんな扱いでもそばにいられる道を選んだ。


「貴方がいいんです。貴方でないと、駄目なんです」


でも貴方は私を必要としてくれた。私を、選んでくれた。
私は皆みたいに綺麗じゃないけど。でもこころは。貴方を思う心だけは。
絶対に負けないから。負けない自信があるから。だから。
私を一緒に。ずっと一緒に、連れていってください。




「――――愛していますよ…ドロシー……」