―――ただひたすらに、捧げられる無償の愛。
貴方の手を取り、そして包み込み。
指先から零れる哀しみを拭おう。
私が貴方を護るから。全てのものから。
私が貴方を、護ろう。ただひとつのこの愛で。
抱きしめた身体は、細く儚い。こうして俺が力を込めたら壊れてしまうほどの。けれども俺は知っている。お前は何よりも、強いと。何よりも、強いのだと。
俺の心の脆さとは比べ物にならない秘めた強さがお前にはあって。俺はそれを何処かで。何処かで焦がれていたのだろう。どんなものにも立ち向かう、その激しさを。
「…子供みたいですわ…ルトガー……」
背中に手を廻してひとつ微笑うお前はひどく綺麗だった。そんな顔が出来る女だとは思わなかった。こんな瞳をする女だとは…思わなかった。
包み込むように俺を。俺を見つめる薄紫色の瞳。そっと包み込む、慈愛の瞳を。
「…お前がこんな風に俺を救うとは…思わなかった……」
「どうしてですか?」
「お前はただひたすらに無邪気で、自分に正直で…そして前だけを見ていると思っていた」
伸ばされた、手。俺の頬に伸ばされた手がそのまま俺を包み込む。細いしなやかな指が、俺の顔を包み込み、そしてひとつ。ひとつ額に唇を落とす。
「まあ、ひどい。私はそんな女じゃありませんわっ!私は何時でも…何時でも貴方を…見てましたのに……」
落としてからそっと頬を染める所が、耳まで真っ赤になりながら俯く所がひどく。ひどく、愛しかった。愛しくそして。そして愛しているんだと、そう思った。
「クラリーネ、お前が羨ましかった」
「…ルトガー……」
「俺はひたすら過去と復讐に捕らわれ前を見る事が出来ずに、ずっと闇の中にいた。そんな俺にお前はひどく眩しかった」
くるくると良く変わる表情。子供のような素直さ。そして何時も。何時も前だけを見つめ、未来だけを希望だけを見つめている瞳。
「俺にはないものを持っていた。初めは疎ましく思っていたお前の存在も…気付けばかけがえのないものになっていた。俺はお前に惹かれた。どうしようもない程に」
「…私は…ルトガー……」
「お前が俺にとっては…光だった…俺が失った筈の暖かさやぬくもりはお前が…持っていた…」
手を取りそっと指に口付けた。微かに震えるその指先に。誓いと、想いを込めて。
「―――当たり前ですわっ…私はずっと貴方を好きでしたもの」
強くあれと。誰よりも強くあれと。
「…クラリーネ……」
強くそして、美しく。戦場の華になれと。
「だから私が…私が貴方の光ですわっ!」
そして愛する者の勝利の女神になれと。
「泣きながら…言うなクラリーネ…そんなお前の強くて弱いところが…俺は……」
昔言われた言葉が。遠い昔お父様に言われた言葉が、今。
今その意味が私には分かった。本当の意味が分かった。
私は誰よりも強くなる。それは戦いの腕じゃない。それは。
…こうして愛する人を護るための…強さだから……
頬から零れる涙を俺はそっと舌で拭った。そしてその身体をもう一度抱きしめて、そのまま。そのままシーツの波に降ろした。その瞬間怯えるように震えた身体を、そっと。そっと、抱きしめた。
「…あ、ルトガー……」
首筋に唇を這わせ、そのまま服のボタンを指で外す。そのくすぐったさに首を竦めながらも、お前の手はおずおずと俺の背中に廻された。
「――――俺が怖いか?」
「怖くありませんわ。私を誰だと思っているのですか?」
相変わらずの物言いに俺は口許が綻ぶのを抑えきれなかった。けれども背中に廻された手が微かに震えているのを、見逃しはしないけれど。そんな所が多分…俺にとってはどうしようもない程に愛しいと感じるところなのだろう。
「その意気だ…クラリーネ」
「あっ!」
剥き出しになった胸の膨らみを手で掴んだ。その感触にお前は思わず声を上げる。上げてから自分が出した声の思いがけず甘い響きに驚いたようだった。けれども次の瞬間その胸を手のひらで揉んでやれば、口からは止められない喘ぎが零れて来たが。
「…あっ…あぁ…やぁっ…んっ……」
ぴくんぴくんと身体を震わせながら反応するお前を見つめながら、指で乳房が埋もれるくらいに強く揉んだ。その刺激に身体が跳ね、耐えきれずにお前は首を左右に振る。
「…やぁっ…あぁ…ぁ……」
金色の髪がシーツの上で波打った。それがひどく綺麗で俺はその髪を手に取り唇で口付けた。もう一方の手で胸を揉みしだきながら。
「…あぁ…ルトガー…あっ……」
ぱさりと音ともにお前の白い肌に髪を落とすと、そのまま尖った乳首を口に含んだ。ぷくりと立ち上がった形良いソレをわざと音を立てながら吸えば、雪のように白い肌がさぁぁっと朱に染まる。
「…はぁんっ!……」
ちゅぷりと音を立てながら何度も吸い上げ、軽く歯を立ててソレを噛んだ。廻りの膨らみを指で何度も揉みながら、執拗に乳房を攻めたてる。それだけで身体が小刻みに揺れるのが感じられた。
「…クラリーネ……」
「…あっ……」
とろりとした唾液の筋を胸に落としながら、そこから唇を離した。そして腰を浮かさせると、下腹部を纏っていた衣類を脱がす。剥き出しになった薄い茂みに指をそっと這わし、そのまま脚を開かせた。
「ひゃあんっ!」
薄く色付いた花びらの外側を指でなぞるだけで、悲鳴じみた声が漏れた。自分ですら触れた事のない場所に、まして他人の手が触れる刺激に思考が追いついてこないのだろう。
「…ひゃあっ…あぁ…あ…ん……」
普段はあれだけ強気に口うるさいほどに言ってくるお前が、こうして俺の指によって溶かされてゆく。口から零れるのは甘い悲鳴と、潤んだ瞳から零れるのは快楽の涙だけだった。
「…あぁ…やぁ…あぁん……」
指を中へと侵入させながら内壁を捏ね繰り回し、一番感じる個所を探り当てる。ぷくりと剥き出しになったクリトリスに指が辿り着くと、それをそのままきゅっと摘んでやった。
「あああんっ!!!」
喉を仰け反らせて、両の胸を震わせながら、お前は喘いだ。目尻からはぽろぽろと涙を零しながら、未知の感覚に思考が追いつかない。ただひたすらに俺が与える刺激に、涙を流しながら喘ぐだけで。
「…ああっ…あぁんっ…あんっあんっ!」
細い両脚ががくがくと震え、その振動で胸の膨らみも揺れる。広げられた秘所からはとろりとした蜜が零れ始め、指で摘んだクリトリスは痛いほどに張り詰めていた。そんな様子をしばらく見下ろして、俺は摘んでいた手を離した。
「…あぁ……」
ほっとしたような、けれども名残惜しそうな声がお前の口から零れる。離した瞬間に無意識に腰を押し付けてくるのが、ひどく可愛かった。そんな風に自分に素直な、所が。けれども本人がそれを全く自覚していない所が。
「―――痛かったら背中に爪立てろよ」
「…ルトガー……」
耳元に囁いた言葉に。その言葉にお前は快楽で滲む紫色の瞳を開いて、そして。そして微笑った。その顔を俺はずっと。ずっと、忘れはしないだろう。忘れない、だろう。
「…痛かったら…責任とってくださいね」
「―――分かった」
お前は多分、俺が思っているよりもずっと。ずっと強い女で、そして。そして心の広い女だ。
私が貴方の剣になり、そして盾になろう。
武器など要らない。私には愛がある。それで。
それで貴方を、護ろう。私の全てで護ろう。
―――その哀しみを、傷を。私がこの手で掬い上げ、そして癒すから。
貴方は強い人、貴方は弱い人。でもそれがひとだから。
完璧な人間など何処にもいない。それを教えてくれたのは貴方。
貴方の存在が私にそれを教えてくれた。だからこそ。
だからこそ、私は不完全である貴方を愛したから。
強い娘になる。誰よりも強い娘に。それは武器を持つ強さじゃない、心の強さだから。
引き裂くような痛みに、繋がった個所から、唇から、悲鳴が零れた。貫かれた処女膜が破れ、とこからどろりとした血が太腿に伝う。それでも決して。決して、停止の声だけは聴こえなかった。
「ひああっ…ああああっ!!」
苦痛に歪む額に唇を落としながら、ルトガーはその身を進めた。脚を広げさせ、自らの肉を埋めてゆく。シーツに血が散らばったが、行為は止められなかった。ずぶずぶと濡れた音ともに欲望が奥へ奥へと捻じ込まれてゆく。
「…あああっ…あぁぁぁっ!……」
白いシーツに涙と唾液の染みが出来た。ぽたりぽたりと零れ、広がってゆく染みの上をクラリーネの髪が落ちてくる。ルトガーが中へと進むたびに無意識にずり上がる身体から揺れる、髪が。
「―――クラリーネ」
「…ああ…あああ…ルト…ガーっ……」
全てを埋め込むと一端ルトガーは動きを止め、組み敷いた少女を見下ろした。いや少女じゃない、女だ。自分の、女だ。
「…愛して…いる……」
汗でべとつく前髪を掻き上げて、その額に誓いの証として口付けただひとつの事を告げる。ずっと言いたくて、そして言えなかった言葉を。ただひとつの、想いを。
「…お前だけが…俺の光だ……」
「あああっ!!」
その言葉の意味を彼女が理解する前に深く突き上げ、ルトガーは腰を振った。抜き差しを繰り返し、擦れあう肉の感触を楽しんだ。きつく締め付ける抵抗感に酔い痴れた。そして。
「――――ああああっ!!!」
そして子宮に届くほど奥まで貫くと、その中に熱い液体を注ぎ込んだ。
――――ルトガー……
白い両腕が、俺を包み込む。
――――私がずっと……貴方を護ります……
まるで母親のように、俺を。
――――全てのものから……
おれを、そっと、だきしめる。
ああこんな安らぎは。こんな安堵感は、俺に誰も与えてくれなかった。
「不思議な女だお前は…子供のようで…それでいて時々驚くように全てを悟った顔をする」
「…当たり前ですわ。だって私は子供じゃない……」
「…だって私は…女ですもの……」
母親の腕よりも広く、少女の手よりも暖かく、子供の指先よりも優しい。
それをお前は全て持っている。全てを持っている、女だった。
――――ただ独りの俺の、女だった。