―――――零れる雫が、そっと頬を濡らした。
何処にも行かないで、と。言葉に出来たならば…良かった。子供みたいに我が侭を言って、貴方を困らせても引き止める事が出来れば良かった。
「…パーシバル様……」
雨は、好き。雨の雫は、好き。僕の涙を隠してくれるから。空から注ぐ雫が、僕の気持ちをそっと隠してくれるから。
「―――こっちへ来い…風邪を引く」
手を引っ張られて、貴方の腕に抱き止められる。濡れた肌のまま貴方に触れるのは躊躇われたけれど、伝わる熱の心地よさに思わず背中に腕を廻した。
「どうしてお前は時々…こんな無茶をする?」
溜め息混じりに言われた言葉に答えようとして顔を上げて、その言葉を飲み込んだ。貴方の髪に雫が当たり、それがぽたりと僕の頬に零れたから。綺麗な貴方の金色の、髪に。
「…クレイン?…」
頬に掛かった雫を自らの指で掬い、そのまま口に含んだ。ぺろりと舐めて、もう一度。もう一度指を貴方の背中へと廻す。
「貴方の味がする」
「―――全くお前は何を言っている…それよりも身体が冷えている、早く戻ろう」
マントを外し僕に掛けようとしてくれた貴方の手を、そのまま押し止めた。そして首筋に手を廻して、触れるだけのキスをひとつして。
「…冷えているなら、暖めてください……」
冷たい身体を、貴方へと押しつけた。身体とは裏腹に熱い想いを…抱えながら。
戦いが、貴方を連れ去ってゆく。貴方を王子の元へと連れ去ってゆく。
貴方は騎士だから、王子だけの騎士だから。だから、戦い続ける。王子の為に。
幾らこうして僕を抱きしめてくれても、愛していると告げてくれても。
それでも貴方が戦いに出るたびに、戦場に立つたびに、王子は。
―――僕から貴方を奪っていってしまうから……
「クレイン、ならば屋敷に戻ろう」
引き剥がそうとする身体にきつくしがみ付いた。今ここで。今この場所で僕は貴方に抱かれたかったから。
「…ここで…パーシバル様……」
この宮殿の中にある森で、もしかしたら王子が通るかもしれない場所で。そう…王子が通るかもしれないから。
「幾ら雨とはいえ、誰が来るとも限らない…クレイン?」
僕は背中に廻していた手を解いて、そのまま貴方の股間に指を這わした。まだ変化の兆しすら見せていないソレに布越しから触れる。そうしながら首筋に顔を埋め、きつく吸い上げた。
「…パーシバル様…僕…我慢出来ないんです…だから……」
首筋を舌で舐めながら、下半身を弄った。何度も指を這わしてゆくうちに貴方のソレが次第に変化してゆく。それを感じ取りながら、僕は自らの身体を押し付けた。もう既に貴方を欲しがって変化をさせている自身を。
「…ね…パーシバル様…僕…もうこんなです……」
「――――クレイン……」
少しだけ戸惑った表情を浮かべ、そして諦めたようにひとつ苦笑して。貴方は僕を抱き寄せ、そのまま木に身体を押しつけた。
時々お前がひどく衝動的になるのは、気付いていた。それは何時も決まって…決まって私が戦場へと旅立ちが決まった時。普段のお前からは考えられないほどに淫らな生き物になる。そしてその誘惑を、私は拒みきる事が…出来ない。
「…あっ……」
細い肩が、揺れる。そのたびに髪から雫がぽたぽたと零れた。雨のせいで濡れて張り付いたシャツから白い肌が微かに透けている。それがひどくお前を淫靡に見せた。
「…あぁっ…パーシバル様っ……」
シャツの上から胸を弄った。濡れて張り付いたソレは直ぐにぷくりと立ち上がり、白いシルクのシャツから紅い色が透けて見えた。それを布越しから指でぎゅっと摘んでやる。それだけで身体がびくびくと跳ねた。
「…はぁっ…あ…もっと…パーシバル様っ……」
胸を指に押しつけ、媚びるように紫色の瞳が私を見上げてくる。うっすらと濡れた瞳は、ただひたすらに私を誘う魔性の瞳だった。この瞳に何時も溺れ、狂われてゆく。それを止める事が出来ず私は、この身体に溺れてゆくだけだった。
――――何よりも愛しい、お前の中へと。
「はぁんっ!」
指で摘んだまま、胸の果実を舌で嬲った。シルクのシャツの感触が舌に伝わる。けれども構わずに私は布越しにソレをしゃぶり続けた。唾液が布に染みてぽたりと伝うまで。
「…あぁっ…あんっ…ああんっ!……」
じわりと唾液が染みこみ胸に直接伝った。その感触にお前の声からは甘い悲鳴が零れる。私はそのまま布ごとそれを歯で、噛んだ。
「…パーシバル様っ…あぁ…もっと…もっと……」
私の髪に指を入れ、お前は自分の方へと私を引き寄せる。刺激が欲しく胸を突き出し、歯の感触を感じたく身体を揺らした。それに答えるようにきつく噛んでやれば、白いシャツがうっすらと血で滲んだ。
「…ひぁっ…あぁ…っ……」
けれどもそんな痛みですら今のお前の身体は欲しがっていた。胸を揺すりもっともっとと、痛みをねだる。私は答える代わりに指できつく摘んで、尖ったソレに舌で突ついた。
ちゅぷちゅぷと、布ごと胸を嬲る。染みこむ血を吸い上げながら、手をお前の下腹部へと滑らせた。
「…あっ!…ああんっ!!」
ズボンのボタンを外し、そのまま膝まで引き降ろす。剥き出しになったお前自身は既に限界まで膨れ上がり先端から先走りの雫を零していた。それをそっと指で撫でてやるだけで、お前の身体は鮮魚のようにぴくんっと跳ねた。
「…パーシバル…様…僕…もぉっ…あ……」
がくがくと脚が震え独りでは立っていられなくなったお前が、必死に私にしがみ付く。肩に顔を埋め、背中にきつく抱き付いて。
「―――少し我慢しろ」
「…あ……」
脚を浮かせて、膝に絡みついていたズボンを地面に落とした。シャツだけを上に羽織った格好で、剥き出しになった下半身がひどく淫らだった。その姿に私は欲情した。
「…はぁっ…あっ……」
前を触れていた指先を後ろへと廻して、入り口をなぞった。それだけで敏感なお前のソコは刺激を求めてひくひくと蠢く。ソコにゆっくりと指を埋めた。ずぷりと、濡れた音と共に。
「…くふっ…んっ…はぁぁっ……」
中を、掻き乱す。収縮を繰り返す媚肉を押し広げながら。逃さないようにと締め付ける肉を掻き分け、奥の一番感じる個所を探り当てる。ソコを集中的に攻めながら、限界まで膨れ上がったお前の入り口を塞いだ。
「…ひっ…あぁっ…やぁっ…ん……」
前立腺を激しく甚振られながら、先端を塞がれる。限界まで追い詰められた快楽は逆に苦痛となったお前を支配した。現状から逃れたくて首を振るお前の首筋に口付けながら、身体を木に押しつける。擦れた音がして、お前のシャツをビリリと破いた。
「…ああっ…もぉっ…もぉ…許して…パーシバル…様…僕っ……」
目尻から涙を零しながら訴えるお前にひとつ口付ける。そして私は自らのズボンの前だけを外し、限界まで膨れ上がった自身を取り出した。
「…パーシバル様…ソレ…ソレが…僕は……」
潤んだ瞳でお前は私の誇張したものを見つめる。その瞳は欲情し、妖艶に濡れていた。まるで盛のついた雌猫のような、瞳だった。
「…僕は…ソレが…欲しい…ですっ……」
その瞳を見つめながら、私はお前の脚を持ち上げた。そのまま肩に担ぎ、ひくひくと蠢く入り口に自身を突き入れた。
「――――ああああっ!!!」
ずぷりと音ともに埋め込まれるパーシバル自身がクレインの瞳に映った。狭い肉を掻き分け、深く突き入れられる楔が。
「…あああっ…ああぁっ……」
その羞恥心に肌を火照らせながらも、快楽が沸き上がってくるのを止められない。繋がった個所からぐちゅぐちゅと淫らな音を立て、擦れ合う肉が眼下に暴かれて。
「この姿勢だと…流石にキツいな」
「…はぁぁっ…ああんっ!…あんっあんっ!!」
擦れ合う背中が痛かった。樹木とシャツが擦れて布が破れ、肌が痛めつけられる。それでもクレインはパーシバルの背中をきつく抱き寄せ、肉を求めた。激しく、求めた。
「…ああっ…あぁぁ…パーシバル様っ…パーシバル様っ!!」
口許からだらしなく唾液が零れ、目尻から快楽の涙が零れ落ちる。髪先からは汗と雨の雫がぽたぽたと、飛び散った。
「――――出すぞ、クレイン…いいか?」
その言葉にクレインは夢中でこくこくと頷いた。そして最奥までパーシバルが貫くのを感じて、クレインはきつくソレを締め付けて、そして。
「ああああんっ!!!」
ドクンっ!と音ともに注がれた熱い液体に、満足したように喘いだ。
「…パーシバル様…いかないで……」
足許にどろりと伝う熱い液体が。貴方の、想いが。
「…クレイン?……」
消えないでくれればいいのに。ずっと僕の中に注がれればいいのに。
「…何処にも…行かないで……」
そうしたら僕はこんな想いをしなくても、いいのに。
「―――我が侭を言うなんて…どうしたんだ?……」
こつんと頬を重ねられて、貴方を深く受け入れる事になる。でも。
「…行かないで…僕のパーシバル様で…いて……」
でも、今は離したくない。貴方を離したくない。このまま。このまま。
「…王子の…騎士にならないで……」
このままずっと。ずっと、貴方と繋がっていたい。
「…クレイン…お前……」
「…ごめんなさい…パーシバル様…でも僕は……」
「そんな顔するな…私はお前のその顔に弱いんだ」
「…パーシバル様……」
「駄目だ昔から私はお前には弱いんだ」
「…だからそんな顔、しないでくれ………」
そっと降りてくる唇が、降り注ぐキスが、優しいから。優しかったから。
だから僕はひどく苦しくなって。切なくて、そして泣きたくなって。
「…じゃあもう一度…ここで抱いてください…そうしたら僕……」
僕の言葉に答える代わりに貴方はそのまま腰を揺すって僕を突き上げた。僕が余計なことを考えられないように、と。考える暇すら与えないように激しく、僕を貫いて。そして。
「――――愛しているのは…お前だけだ…クレイン……」
そして想いを注がれるのと同時に囁かれた言葉に、僕は。
僕は快楽以外の涙を零す事しか、出来なかった。
貴方を好きでいる限り、この胸の痛みは消える事はないだろう。それでも痛みよりも貴方を想う気持ちの方が勝っていて、それを止める事が出来ない限り。
僕は永遠にこの切なさと痛みを伴いながら、貴方に恋をし続けるのだろう。