窓から見えた月がゆっくりと雲に隠れてゆく。
何時もそばにいられたらと、思う。何時もそばにいられたならば、不安など何一つないのに。何一つ、気持ちが追い立てられる事もないのに。
「…パーシバル様……」
消えた月から視線を外してクレインは椅子に座るパーシバルへと視線を移す。書類に目を通していたパーシバルの視線がクレインへと向けられる。紫色の瞳が微妙に何時もと違う表情をしているのが気になって、パーシバルは暫く何も言わずにその瞳を見つめていた。
「―――そんな瞳をするな。私はどうしていいのか…分からなくなる」
それでも瞳の表情は変わらなく、諦めたようにパーシバルは溜め息をひとつ付いた。そして椅子から立ち上がると、ベッドの上に座るクレインの前にしゃがんだ。こうする事で、視線が同じ高さになる。
「ごめんなさい、パーシバル様…でも……」
「でも?」
「…その…淋しくて……」
クレインの細い手が伸びてきて、パーシバルの背中へと廻される。そのままぎゅっとしがみ付いて、肩に顔を埋めた。そんな子供染みた行為にパーシバルは苦笑する。仕方ないなと小さく呟きながら、その髪を撫でてやった。
「本当にお前は…何時からそんな子供みたいになったんだ」
「…だって…明日には貴方はいなくなってしまう…」
髪を撫でる大きな手にひどく安心感を憶えながらも、クレインは背中に廻した手を離さなかった。離したくなかった。こうして体温とぬくもりを感じる事が、自分にとって一番安心出来る行為だったから。
「仕方ないだろう、争いがあれば戦うのが騎士の勤めだ。余り我が侭を言うな」
「ごめんなさい。でもやっぱり」
顔を上げて再びクレインはパーシバルを見つめた。真摯ともいえる瞳で自分を見つめるクレインをパーシバルは嬉しくもあり、切なくもあった。自分が戦い続ける以上、彼にこんな想いをさせる事は止められない事に。けれども自分は戦う事を止めるのは、出来ない。軍人である事を、騎士である事を、止められない。
「…やっぱり…不安なんです…貴方がいなくなってしまわないかと……」
ベルンとの戦いの後クレインは軍人の身分から身を引いて文官になった。本来真面目でそして優しい性格の彼にとって戦う事よりも、こうして。こうして外交や事務処理を行う方があっているとパーシバルは思う。戦う事しか生きる道を知らない自分とは違い、もっと別の方法で国の為に生きる方が。
それに自分勝手かもしれないが、彼が戦いに身を置くよりもこうしている方が…自分自身が安心出来るから。
「―――お前を独り置いて死にはしない」
その言葉はただの気休めでしかなかった。けれどもパーシバルは言わずにはいられない。何時死ぬなんて事は誰にも予想は出来ない。何時死ぬかなんて誰にも分からない。ただ戦っている以上その確立が人よりも高くなるだけだ。それでも。それでもパーシバルは言わずにはいられなかった。それが想い、だから。自分の想いだからこそ。
「信じますよ、その言葉。だから…死なないでくださいね……」
そしてそれをクレインも嫌と言う程に分かっている。戦いに身を置いてきた自分だからこそ、死がどれだけ戦場では身近な事なのか。どんなにリアルに自分に迫ってくるのかも。それでも。それでもやっぱり不安にならずには、そして言葉に出さずにはいられない。
――――好きだから。誰よりも、何よりも、好きだから。
「ごめんなさい、仕事の邪魔して」
クレインはそう言うとパーシバルから身体を離した。けれどもパーシバルの手がクレインの背中に廻り、離れようとする身体をそのまま抱き寄せた。
「いい。もうあらかた片付いた。それにせっかくお前が来ているのに仕事も何もないだろう」
「でも僕はそんな貴方を見ているのも、好きです」
再びクレインの腕がパーシバルの背中に廻る。抱き寄せられればそのぬくもりを拒む理由は自分にはない。むしろ自らが欲しいものなのに。
「…でもこうして…僕を見てくれる貴方は…もっと好きです」
ひどく嬉しそうに。嬉しそうにクレインは微笑うと、そのまま自分からパーシバルにキスをした。触れるだけの柔らかいキスを何度か繰り返し、次第に口付けが深いものへと変化してゆく。それを互いは止める事が出来なかった。求める想いがある以上自然と。自然と舌が、吐息が、絡み合ってくる。
「…んっ…はぁっ…ん……」
ぴちゃぴちゃと濡れた音が室内に響き渡る。けれどもふたりは夢中になって互いの舌を絡めあった。時々零れる甘い吐息とともに。何度も何度も絡めあい、吐息を奪い合う。
「…んっ…ふぅっ…ん…パーシバル…様……」
背中に廻されていたクレインの手がパーシバルの髪に絡まる。そしてそのまま引き寄せ、より深い口付けをねだった。それに答えるように激しくパーシバルは口中を奪うと、きつく彼の身体を抱き寄せる。
「…パーシバル様…このまま……」
唇が名残惜しげに離れて、クレインはその逞しい胸に身体を預けてきた。そして愛する人の顔を潤んだ瞳で見上げる。夜に濡れた、瞳で。
「―――クレイン?」
クレインの手がパーシバルの服に掛かると、そのままボタンを外した。少しだけもつれ始めた指先で、ボタンをひとつずつ外してゆく。
「…このままで……」
前を全てはだけさせるとクレインはパーシバルの首筋にひとつ唇を落とした。そしてきつく吸い上げ痕を作る。消えないようにと。消えないようにと、きつく。
「…この痕が消えないうちに…帰ってきてくださいね」
首筋に付けられた紅い痕にパーシバルは苦笑する。そんな所に付けたら誰かに見られるだろう、と。けれども。
「ああ、帰ってくる」
けれどもそんな些細な我が侭ですら、自分は。自分は彼がする事ならば幾らでも受け入れる事が出来る。いや受け入れてやりたいと、そう。そう思っているから。
「…約束ですよ……」
ひとつ微笑ってクレインはパーシバルに触れるだけのキスをすると、そのまま指を彼の肌に落としていった。逞しい筋肉に指が触れる。無駄な肉の一切ない、均整の取れたその身体に。
「…はっ…んん……」
指に続くようにクレインはパーシバルの肌に舌を這わした。首筋のラインからゆっくりと鎖骨に落ち、そのまま肌蹴た胸元を舐めた。
「…今日は…僕がさせてください……」
クレインはそのまま椅子の下にしゃがみ込むと、パーシバルのズボンのベルトを外した。そのままファスナーを下ろしまだ形を変化させていないパーシバル自身を取り出すと、おずおずと指を絡め始めた。感じる個所を必死で探り当て、しなやかな指で愛撫を繰り返す。そしてそのままゆっくりと口に含んだ。
「…んっ…は…ぁ…ん……」
ぎこちない舌遣いでクレインはパーシバル自身を舐める。形を辿り先端の窪みに舌を這わせ、何度も何度もソコを舐めた。そうする事で次第にクレインの、手の中のソレが形を変化させてゆく。その事が何よりもクレインには嬉しかった。
自分がする事で、彼が変化してくれる事に。感じてくれている事に。
「…んっ…んん……」
先端を舐めていた舌を一端外すと、そのまま自身を口に含んだ。根元までソレを含めば、口の中で圧倒的な存在感を主張する。それを感じながらクレインは必死でそれを頬張った。
「…んんん…んんっ……」
眉を詰まらせながら苦しげに自身に奉仕するクレインにパーシバルは感じた。口の中いっはいに広がり苦しいはずなのに、それでも懸命に奉仕するその姿に。
「…クレイン……」
生暖かい口中に包まれてパーシバルは微かに掠れた声で名前を呼んだ。その声にクレインは背筋がぞくぞくするのを抑えきれなかった。自分以外聴く事が出来ないこの声で名前を呼ばれて、背筋が震える程に感じた。
「…はぁっ…ん…んん……」
髪を撫でられそのまま引き寄せられて、クレインはより深くパーシバルを飲み込んだ。喉につかえるほどにソレが口の中で存在感を主張している。舌にとろりとした先走りの雫を感じて、クレインはゆっくりと口を離した。そして。
「――――っ!」
そして一気に先端を扱いて、パーシバルのソレを解放させる。その瞬間弾けるような音ともにクレインの顔に吐き出された欲望が一面に飛んだ。
「…パーシバル様…あっ…」
ぽたりと鼻筋から顎に伝う精液をパーシバルは指で掬ってやった。そしてそのままクレインの口の中に指を含ませる。その指をクレインはぴちゃぴちゃと音を立てながら舐めた。
「…はぁっ…んん……」
ざらついた舌がパーシバルの指に絡む。その間にも髪先から、頬から、浴びせた白い液体がぽたりぽたりと伝って零れていった。
「クレイン、おいで」
「…パーシバル…様……」
指を口から引き抜き、パーシバルは腕を広げてクレインを誘う。その言葉にのろのろとクレインは立ち上がると、そのままパーシバルの膝の上に座った。まだ服を脱がされていなかったクレインだが、布越しでも自身が変化しているのがパーシバルには分かった。それを上から指でなぞってやるだけで、肩が小刻みに揺れる。それを確認してからパーシバルはクレインの上着を脱がした。
「…あぁっ……」
微かに熱を帯びた肌にパーシバルの手が触れる。待ちわびていた愛撫にクレインの身体は素直に反応を寄越した。大きな手が感じる個所を撫でるたびにクレインの口からは甘い吐息が零れ、白い肌は朱に染まってゆく。
「…あぁんっ…あ……」
与えられる愛撫に腰が自然に浮いた。そんな彼を解放させるためにパーシバルはクレインのスボンを降ろしてやる。ぱさりと音とともに余計な布は床に落とされ、クレインの下腹部は剥き出しにされた。既に中心部分は与えられた快楽で限界まで膨れ上がり解放を待ちわびていた。
「…パーシバル様…僕…もう……」
腰を淫らに揺らし、解放をねだる姿はひどくパーシバルを欲情させた。一度吐き出した自身も再び硬さを取り戻し、クレインを求めて熱く脈打っている。どくん、どくん、と。
「…もう…僕は…我慢出来なっ……」
そんな自身にクレインの細い指が絡まる。そして探り当てるようにパーシバル自身を自らの入り口にあてがった。
「―――クレイン、待て。そっちはまだ……」
パーシバルの手がクレインの行為を制止する為に伸ばされるが、それをクレイン自身が拒否をした。まだほぐしてもいない乾いた蕾に、楔を貫こうとする行為に。
「…大丈夫です…だから…パーシバル様を僕にください…いっぱい…」
「…クレイン…」
クレインの手がパーシバルの肩を掴むと、そのまま彼は腰を落とした。先端部分がクレインの中へと埋められると、そのまま一気に中へと埋め込んだ。
「―――あっ…ああああっ!!」
ずぶずぶという音ともにパーシバル自身がクレインの中へと挿ってゆく。乾いた肉を引き裂くように硬く熱い楔が。慣らされていない蕾は何時もよりも狭く感じられた。けれどもそれを押し広げてゆく感触に、自身をきつく締め付ける感触に、パーシバルの雄の部分が激しく感じた。
「…あぁぁっ…ああっ……」
無理に侵入させた痛みにクレイン自身が、一瞬萎える。けれども腰を落とし肉を受け入れている間に。その間にソレはすぐに回復をした。そして。
「…パーシバル…様っ…あぁぁ……」
腰を揺らし擦れ合う粘膜の刺激を感じている間に、クレイン自身が限界まで膨れ上がる。それをパーシバルの腹に擦り付けながら、何度も何度もクレインは腰を振って中の楔の熱さと硬さを感じた。
「…あああっ…あぁぁ…あぁんっ…」
「―――クレイン……」
「…あぁ…あ…パーシバル様…僕…あぁ……」
「…出すぞ、いいか?……」
耳元に囁かれる言葉にクレインはこくこくと何度も頷いた。自身も既に限界が来ていて、先端からは先走りの雫を零している。それでも。それでもクレインは一緒に、イキたかったから。パーシバルと一緒に。
「…出して…ください…僕の中に…あっ…ああああっ!!」
こんな些細な事でも、大事だった。クレインには、何よりも大事だったから……。
指が、舌が、そっと。そっと顔を辿る。
「…パーシバル…様…あ……」
欲望は吐き出したけれど、繋がったまま。
「…クレイン……」
繋がったままで。顔に残る精液を舌と指が辿る。
「…あ…ダメです…また僕……」
その感触に、睫毛が、吐息が、震える。
「―――いい…私も……」
繋がっている個所から熱が広がって再び身体が火照った。
「…パーシバル様……」
そしてそれを抑える術をふたりは、持っていなかった。
唇が重なり、再び濡れた音が室内を埋める。繋がった個所が擦れ、欲望が広がってゆく。
息を乱し鼓動を重ね合わせながら、互いの抑えられない肉欲に溺れた。
「…生きて…帰ってきてくださいね…そして僕を…またこうして抱いて…ください……」
クレインの言葉にパーシバルは無言で頷いた。
今の自分にはそれしかしてやれる事が、なかったから。
それしか、答えてやれることはなかったから。
…それでも何時も想っている。私はお前の事だけを、想っているから……