Time After Time



――――その綺麗な金色の髪にずっと…ずっと、指を絡めていられたならば。


初めはささやかな願いだった。とても小さくて、ただ綺麗なだけの想い。それを大事に心にしまっておけばよかったのに。誰にも見えない場所で、静かに暖めていられれば良かったのに。なのにその想いは何時しか形を変えて、剥き出しになって僕を飲み込んだ。飲み込んで、そのまま。そのまま絡め取られて、逃れなくなった。何処にも行けなくなって、何処にも戻れなくなって、ただ後はもう切り刻まれゆくだけ。ばらばらになるまで、こうして全部を、貴方の中へと。


好きという想いだけでいられれば良かった。ただ貴方を好きなだけでいられれば良かった。


睫毛が触れる距離でその顔を見つめて、拒まない唇に口づける。首筋に腕を廻せば、力強い腕はそっと抱きしめてくれる。この腕の優しさが泣きたくなるほどの幸せと、どうにもならない独占欲を生んだ。
「…パーシバル様……」
触れるだけの口づけを繰り返し、その狭間に名前を呼ぶ。それだけでこんなにも切ない。切なくて、苦しい。
「…クレイン…私はお前にそんな顔をさせたい訳ではないのにな……」
綺麗な蒼い瞳に映っているのは僕だけだという満足感に溺れ、それが永遠でないという事実に理性が呼び戻される。どうして、と。どうして僕はこんなにも欲張りなのか?
「ごめんなさい…でも…これは僕のせいなんです。僕が貴方を好きでいる限りどうしても……」
何時も微笑っていられたらと思う。そうしたらもっと貴方を喜ばす事が出来るのに。もっと貴方の心を満たしてあげられるのに。それなのにどうしても。どうしても僕は、それ以上の想いを貴方に向けてしまう。貴方を望んでしまう。貴方を願ってしまう。
「…どうしても僕は…貴方の『全て』を望んでしまう……」
その先の言葉を聴きたくなくて、唇を重ねて言葉を塞いだ。その先の想いを確かめたくて、舌を絡め合った。絡め合って、意識を拡散させた。強く尖った醜い想いを、閉じ込めるために。


綺麗な想いだけで貴方を見られなくなったのは、何時からだっただろうか?もう、思い出す事すら出来ないほどに、僕は貴方を求めている。貴方だけを、求めている。
「…好きです…パーシバル様…貴方だけが好きです……」
どうして言葉でしか気持ちを伝えられないのか?けれども言葉以外のものでもし僕の想いの全てが伝える事が出来たならば、きっと。きっと僕は貴方を傷つけてしまう。この激しすぎる想いで。このどうにもならない想いで。
「私もお前を…愛している……」
冷たいシーツの感触が頬に伝わった。けれどもそれはすぐに熱い熱へと変化する。その指が、その唇が、僕に触れるから。
「…あっ……」
シャツのボタンを外され大きな手が忍び込んでくる。それだけで、もう心が濡れてくる。じわりと、濡れる。
「…あぁんっ…はぁっ……」
胸の果実を指で摘ままれ、そのまま転がされた。浅ましい僕のソレはその柔らかい愛撫だけで、敏感に反応を寄こしてしまう。痛い程に、ソレを張りつめさせて。
「…パーシバル…さまっ…あぁっ……」
「ココが気持ちいいのか?」
胸の果実を指で弄られながら、もう一方の突起を口に含まれながら言葉を紡がれる。そのたびに歯が当たり、もどかしい刺激を与えてくる。
「…気持ち…いいですっ…気持ち…はぁっ…ぁぁっ……」
恥ずかしいとかそういう気持ちは、もう何処にもなかった。ただ見て欲しかった。貴方の指で乱れる僕を見て欲しかった。こんなにも。こんなにも僕は、貴方を求めているんだと知ってほしかったから。
「…本当にお前は…どんな時でも…私に対しては…正直だな……」
与えられる刺激のせいで貴方がこの科白をどんな表情で告げたのが分からなかった事が、ひどく。ひどく、悔しかった。


この恋を選んだのは、僕で。こんな僕を選んでくれたのは、貴方で。それなのに、どうして。どうして僕はこんなにも。こんなにも、欲張りになってしまうの?


愛しているという言葉に嘘は一つもない。僕に向けてくれる想いに翳りは何もない。けれども。どうしても僕は貴方の全てを手に入れる事は出来ない。どうやっても、貴方の全てを。
「…パーシバル様…来て…もう僕……」
貴方の手を取り、そのまま自らの秘所へと導いた。ソコは貴方を求めてひくひくと浅ましく蠢いている。貴方の硬さと熱を、求めて。
「―――あっ…ソレじゃなっ……」
けれども僕の望んでいるモノは与えられず、ずぷりと指が埋められるだけだった。優しくほぐされる刺激は、逆に火照った僕の身体にはもどかしかった。もっと深く、もっと激しい刺激が欲しくかったから。
「でもこうしておかないと、お前が辛いだろう?」
濡れた音が室内を埋める。くちゅくちゅと。音ですら刺激になって僕の身体を襲う。どんな些細な刺激ですら逃したくない、僕の浅ましい身体が。
「…もう大丈夫です…っだから…だから…っ……」
広い背中に抱きついて、限界まで膨れ上がった自身を押し付けた。こんなにも貴方が欲しいんだと、貴方だけが欲しいんだと、それを見せつけたくて。――――貴方だけが、どうしようもないほどに…欲しいのだと……。
「…分かった…クレイン……」
汗でべとつく前髪をそっと掻きあげられて、そのまま額に口づけられた。そこから広がる熱が、身体の芯を痺れさせた…。


貴方の綺麗な金色の髪に指を絡めて、このまま。このままずっと繋がっていられたならば。貴方の存在と熱だけで、僕が埋められたならば。隙間すらないほどに貴方が注がれたならば。そうすれば僕は、満たされるの?


―――――この喉の渇きにも似た、どうしようもないほどの渇望は……


貴方だけが好き。貴方だけを愛している。僕の全ては貴方だけを刻んでいるけれど、貴方の全ては僕のものじゃない。どうやっても、どうしても、僕が届かない場所が貴方にはある。それを僕はどうする事も出来なくて、そして。そして、それこそが貴方の存在意義である限り、僕が奪う事が出来ない。
「…あああっ…あああっ!!!」
望んだモノが僕の中に埋められる。熱くて硬い、楔が。貫かれる刺激に髪を乱し、中を掻き乱される摩擦に喉をのけ反らせた。
「…パーシバル様っ…パーシバル様っ…あああっ!!」
名前を呼べばそっと唇の感触が答えてくれる。激しく貫かれても、触れてくる唇は優しい。優しすぎて、泣きたくなる。快楽に溺れながら、その先の想いで切なくなる。しあわせすぎて、苦しい。哀しすぎて、嬉しい。
「…クレイン…お前を愛している…それだけは本当の事なんだ…私にとって……」
僕もです。僕も貴方を愛しているんです。貴方だけを愛しているんです。王子から貴方を奪いたいと思うほど…王子の騎士である貴方を奪いたいと…願うほどに……


―――――僕は貴方の『全て』が欲しいんです……


注がれる熱い液体に、喉をのけ反らせて喘いだ。このままでと。このままで、と。叶わない願いと、どうしようもない独占欲を混じり合わせながら。ただ必死に、願った。


初めはただ。たただ見ていられれば良かった。そばにいられるだけで良かった。けれども何時しか内側から目覚めた想いは僕を飲み込み、どうにもならない場所へと僕を連れていった。貴方が欲しいと、貴方の全てが欲しいのだと。目眩すら覚えるほどの激しい想いと、どうにもならない独占欲が、僕の中で駆け巡る。それを止める事も、抑える事も、もう出来なくなっていた。



「…愛している…クレイン…お前だけを……」



言葉に何一つ嘘はなく、注がれる愛に歪みは何処にもない。それでも満たされない僕は、きっと。きっと永遠に貴方を求め続けるのだろう。それはまるで潤う事のない砂漠のようだった。