Joy



貴方とともに在ることの、よろこび。


ただこうして。こうしてそばにいられるだけで。
こうして貴方の隣にいられるだけで。それだけで、しあわせだから。
溢れるほどの想いが、そっと。そっと零れて、こうして注がれる瞬間が。


―――何よりも、しあわせだから……



「どうした?クレイン」
自分を見つめる視線にパーシバルが振り返れば、ひどく嬉しそうな顔でクレインが微笑っていた。恋人のそんな顔を見るのは嫌ではなかったが、思い当たる理由がなかったので尋ねてみた。
「あ、いえ…その……」
真顔で尋ねられてクレインは少しだけ困ったような表情をした。けれども次の瞬間にはやっぱりひどく嬉しそうな笑顔を浮かべて。
「幸せ、だなって」
嬉しそうな顔のまま、パーシバルの前に立つとそのままぎゅっと抱き付いてきた。そんな子供のような仕草に、パーシバルは苦笑する。普段は遊撃軍を率いる将軍として年よりも大人びた…いや立派な軍人として活躍しているのに。それなのに二人きりになると、ひどく。ひどく子供のようになる事がある。

…そんな所がパーシバルにはひどく…ひどく愛しいものに感じて……

頭一つ分低いクレインの髪を、パーシバルはそっと撫でてやった。金色のさらさらの髪。指を擦り抜けるほどに細い、その髪。
「子供みたいだな…お前は……」
飽きれたように言われて、クレインは少しだけ拗ねた表情を浮かべる。普段の彼からは余り想像の出来ない表情だった。けれどもパーシバルの前ではそんな顔を、幾らでも見せてくる。幾らでも色々な顔を、見せてくる。
「貴方の前では…子供になってしまうんです」
「何だ、それは」
クレインはひょいっと顔を上げて、パーシバルを見上げた。綺麗な紫色の瞳が真っ直ぐに自分を見上げてくる。揺るぎ無い視線で、迷う事無く自分だけに。
「そして我が侭になってしまうんです」
軽く爪先立ちになって。そうやってクレインは自分からパーシバルに触れるだけのキスをした。それはひどく甘い。甘い、キスだった。
「貴方が好きだから、子供になって…そして甘えるんです」
唇が離れて自らの胸に飛びこんでくるクレインを、パーシバルはそっと抱き止めた。本当に気付いた時には彼は我が侭で、そして子供のようになっていた。けれどもそんな彼を受け入れている自分がいる。こんな彼を愛しいと思う、自分がいる。
「―――全く…お前は……」
知能犯だと言おうとして、パーシバルは言うのを止めた。言った所でクレインは変わるわけはないし、むしろ自分の方が変わって欲しいとは思わなかった。他人には見せない、見ることの出来ない彼をこうして見ていることは…決して嫌な事ではないから。
「…仕方ないな……」
もう一度クレインの髪を撫でて、そのまま頬に手を滑らせる。滑らかな頬の感触を楽しみながら、顔を自分へと向かせるとそのままひとつ。ひとつ、パーシバルはクレインにキスをした。


こうして、貴方がここにいて。貴方がそばにいて。
貴方の声が聴けて、貴方の顔が見れて。貴方に触れられて。
それがこうして毎日続くならば。毎日こんな日々が続くなら。


―――僕はきっと世界で一番、しあわせだから。


「好きです。大好き」
言葉で告げても全然気持ちには足りないけれど。
「貴方だけが…好き……」
でも言いたいから。でも告げたいから。この想いを。
「…大好きです…パーシバル様……」
貴方だけに、告げたいから。



「…本当に…お前は…私を喜ばせるのが上手いな……」



見上げた先の瞳が、そっと。そっと優しく微笑っていて。優しく微笑っていたから。だからずっと。ずっと見ていたいなって思った。ずっとずっと、見つめていたいなって。
「嬉しいって思ってくれますか?」
穏やかに流れる時が。そっと流れる時が、何よりも大切で。何よりも大事で。こんな時間の流れが一番。一番願っていたもので。
「何がだ?」
「…僕と一緒に…いる事が……」
こうやってふたりでいられて。そして静かにそっと。そっと時間が流れてゆく事が。穏やかな時間が、流れてゆく事が。
「―――ああ……」
額を重ねあって、瞳を見つめ合わせて。そして。そしてふたりで微笑った。そっとひとつ、微笑った。



殺伐とした日々の中で。戦いの中でしか生きられないようになっていた私に。
そんな私にお前だけが教えてくれた。お前だけが、気付かせてくれた。

何気ない日常がどんなに大事なのかをと。
当たり前の日々が、どれだけ変えがたいものかを。


お前がいたから気が付けた。お前がいるから…気が付ける。




「お前がいるから…私はこうして微笑う事が出来るから……」