頭上から零れ落ちてゆく花びらを飽きることなく、眺めていた。ひらひらと零れ落ちる花びらの雨を。綺麗だと、思ったから。とても綺麗だと、そう思ったから。
「―――ここにいたんだね、イドゥン」
背後から聴こえてくる声は、何時から自分の耳に馴染んでいたのだろうか?何時からその声が自分にとっての一部になっていたのだろうか?
「…ロイ様……」
振り返りその名を呼べば、口中に広がる響きがひどく甘い。その甘さに気付いた時には、戸惑うことよりも自然と受け入れている自分がいた。ごく自然に。
「花を、見ていました。花は、綺麗ですね」
「うん、綺麗だね。イドゥン…君の方が…綺麗だけれど……」
最期の方の言葉は小さくなってきちんと聞き取れなかったけれど、何を伝えてくれているのかは分かった。分かったから、自然と笑みが零れてくる。口許に、笑みが。
「ありがとうございます…ロイ様……」
見上げた先にある瞳が、前よりもずっと大人になっている。自分が追いかけるよりも前に目の前の少年は大人になって自分を追い越してゆくのだろう。それはどうしようもない事だと気付いた時に、私は知った。恋するという気持ちを…知った。
「…イドゥン…好きだよ……」
花びら雨が全てを隠してくれた。二人の全部を隠してくれたから、降りてくる唇を閉じた瞼の先にあるものを、そっと受け入れた。
貴方が教えてくれた事は、私の両腕では抱えきれないほどたくさんあって。たくさんありすぎて、戸惑う事ばかりで。けれどもそれ以上に与えてくれたものが。私だけに与えてくれたこの想いがあるから。だから、私は受け入れようと思った。この世界を、私が生きている事を、私が存在する意味を。生まれ始めた沢山の感情を、芽生え始めた気持ちを、生まれ始めた心を。全てを受け入れられると、そう思った。
――――貴方が与えてくれたから。溢れるほどの優しくて、切ない愛を。
綺麗という感情も、苦しいという想いも、愛しているという願いも。その全ての気持ちの起因は貴方だから。貴方が全て、私に教えてくれた事だから。
指を絡めあいながら重ねる唇は、きっと何よりも甘くてそしてどこか切ないものだった。その切なさの隙間を埋めたくて、きっと。きっとこうして身体を重ねるのだろう。隙間すら何処にもなくなるようにと。互いの存在だけで溢れてしまえるようにと。
「…ロイ…様……」
唇が痺れるほどの口づけから解放すれば、潤んだ瞳がロイを見上げてくる。その瞳に自分だけが映っている事を確認して、ロイはその身体をそっと横たえさせた。花びらのベッドの上に。
「―――イドゥン…好きだ。君だけが好きだ」
「…ロイ様…私も…ロイ様が…好き…です……」
未だに少しだけ戸惑うようにその言葉を告げる瞬間が、ロイには愛しくて堪らなかった。愛しくて、愛しすぎて、そして愛している人。どうしたらこの想いの全てを伝える事が出来るのだろうか?分からないから、こうして。こうして、言葉を紡ぐ事しか出来なくて。
「大好きだよ、イドゥン」
もう一度想いの全てを込めて、唇を重ねる。何度重ねても足りない口づけを与えながら、上着の裾から手を忍び込ませ、柔らかい膨らみに触れた。そっと包み込むように揉めば、手のひらに伝わるのは体温よりも上昇した熱だった。
「…ふっ、…んっ…んんっ……」
そのまま乳首を指の腹で転がせば、それは簡単にぷくりと立ち上がる。しばらくその感触を楽しんでから、親指と人差し指でぎゅっと摘まんでやればびくんっ、とその身体は跳ねた。
「…はぁ…んっ…んんんっ!」
唇は塞いだままで、乳房を揉んだ。強弱を付けながら何度も何度も。揉みながら時々乳首を指で転がしてやれば、下半身がもどかしげに蠢くのが伝わってきた。
「…んんっ…あっ……」
「イドゥン、こっちも…触って欲しいの?」
唇が解放されたと思えば、今度は息を吹きかけるように耳元で囁かれ、イドゥンの睫毛は淫らに震えた。ロイの指先が服の上から、一番恥ずかしい場所をなぞったせいで。
「…ロ…イ…様…そんな事……」
「言ってイドゥン…君の口から聴きたい」
もどかしい程の柔らかい愛撫だけを与えられて、イドゥンのソコは耐え切れなかった。もっと刺激が欲しいのに、入口を布越しになぞられるだけで、我慢できずに無意識に指に押し付けてしまう程に。
「……て……ロイ…さま………」
「―――ん?」
「…さわっ…て…くだ…さい……ココ……を………」
消え入りそうな声で、それでも告げるイドゥンにロイの方が耐えられなかった。恥じらいながらも告げる彼女に対する愛しさと欲望が混じり合って、止められなかった。衣服の裾を捲りあげると、下着の中に手を忍ばせそのまま潤い始めた秘所に指を突っ込んだ。
「…あ、あぁんっ!…はぁっ…あぁっ……」
やっと与えられた刺激に満足したようにイドゥンは喘いだ。その声に導かれるようにロイの指の動きが激しくなる。ぐちゃぐちゃと濡れた音をさせながら、蠢く媚肉を掻き分けいちばん深い場所を指で掻き回す。その刺激を受け入れ、むしろ望むように脚を広げて指を受け入れる彼女がどうしようもない程に愛しい。愛しくて、愛しくて、堪らない。
「…ああっ…あぁ…ん…ロイ…さま…ロイ…さま……」
「…イドゥン…イドゥン…好きだ…大好きだ……」
もう我慢が出来なかった。下着だけを脱がすと、脚を折り曲げ一番恥ずかしい場所を眼下に晒す。その濡れぼそった器官がひくひくと蠢いているのを見ながら、ロイは自身だけをスボンの出口から出すとそのままソレをあてがった。
「…イドゥン…挿れるよ……」
「…は…い…ロイ…さ…ま……あああっ!!!」
限界まで膨れあがったロイ自身で入口をなぞる。それだけで剥き出しになった脚ががくがくと震えている。その様子を確認して、ロイは欲望の証をその入口に突き入れた。
「あああっ…あああ…あんっあんっあぁんっ!!」
刺激を求めて蠢いていたイドゥンの媚肉は、与えられた刺激に歓ぶに肉棒をきつく締めつけた。動かす事すら許さないとでも言うように、きつく。けれどもロイはその抵抗すら突き破るように、奥へ奥へと身を進めた。
「…イドゥン…気持ちいいよ…凄く…気持ちいい……」
「…ロイ…さまっ…ロイさまっ…あぁぁっ…あああ……」
腰を掴み組み敷いた細い身体を激しくゆすった。そのたびに、長い髪が揺れる。花びらのベッドとともに、零れる汗とともに。花びらの雨とともに、重なり合った身体が揺れる。
「…イドゥン…好きだ…好きだ……愛して…いるよ……」
「…ロイ…さま…ロイ…さ…んっ…んんんっ!」
言葉を閉じ込めた。唇で閉じ込めた。その言葉は自分だけのものだから。この花びらですら聴かせたくないから。自分だけの、ものだから。
「…んんんっ…んんんっ!!」
全部、全部、自分だけのものだから。細い髪も、白い肌も、透明な声も、宝石のような瞳も、柔らかい声も、綺麗な汗も、その全てが。
「――――っ!!!!」
一番深い場所を抉って、そのままどくどくと欲望を吐き出した。欲望よりも深い想いを、注ぎこんだ。
白い肌が朱に染まっている。その上に落ちてくる花びらの雨が、君を隠してゆく。それが嫌だったから、抱きしめた。きつく、抱きしめた。君と繋がったまま、きつくきつく、抱きしめた。
「――――イドゥン…ずっとなんて…僕からは言えない…でも一緒に…生きてくれ…ううん…僕と一緒に…生きてください……」
何もいらない。本当に何もいらない。君がいれば。君がいてさえくれれば。けれどもきっとそれこそが。それこそが、他のどんな願いよりも、一番罪深く重い願いなのだろう。それでも僕は、諦められない。諦める事が出来ない。だから。だから…。
「…はい…ロイさま…私は…貴方をずっと…ずっと…見てゆきます…だから…私を貴方のそばに…おいてください……」
知っていた。貴方に恋をしたその瞬間から、知っていた。私の願いは何よりも哀しく、決して叶わない願いだと。それでもいい。それでも、いい。今の私に『生』を与えてくれたのが、貴方ならば、私は見てゆきたい。貴方の全てを見てゆきたいから。
永遠なんていらない。そんなもの必要ない。だから、結んでいて。この指を、この身体を、このこころを。
そっと降り注ぐ花びらの雨の中でふたり瞼を閉じた。繋がっているぬくもりだけが世界の全てになるように。降り注ぐさくら色の雨の中で。