その瞳を、俺だけのものにしたい。
我が侭なくらい、お前が好きだと自覚している。本当にどうしようもない程に、俺は。俺はお前が好きなんだって思っている。
自分でも本当に分からないんだ。どうしてこんなにも好きなのか。どうしてお前をこんなにも好きなのか。本当に分からなくて…分からないから、だから。
だから我が侭なくらい、お前のそばにいる。お前と、一緒にいる。
漆黒の瞳。そこに映るのは俺だけだったら…いいのにな。俺だけ映してくれたら、そうしたらいいのにな。
「何をじっと見てる」
穴が開くくらい見つめていたら、不機嫌な声が返ってきた。何時もの声。こいつの機嫌いい声なんて聴いたことない。何時も不機嫌そうな、それでいてつまらなそうな声。でもそんな所すらも、俺。俺全部好きなんだ。
「いいじゃん、お前カッコいいんだもん」
腕を伸ばして背中に廻して、抱き付いた。そうすれば呆れたような溜め息とともに、俺を抱きしめてくれる。それだけで俺、本当に嬉しくなってしまうんだ。
「抱き付いたら顔が見れないのにいいのか?」
「いっぱい見たから次はお前に触れたい」
「…触れて欲しいの間違えだろう?…」
猫みたいに身体摺り寄せたら、本当に呆れた声で返された。確かにそうかもしれないけれど、俺はどっちでもいいんだ。どっちでも同じ事だから。俺にとって大切なのは、こうして。こうして俺とお前が、触れ合っている事。それが、とても大事。
「じゃあ触れて、シン」
「嫌だ」
「じゃあ俺が触る」
そう言って俺はお前の髪に指を絡めた。細くてさらさらの髪。大好きな髪。大地の匂いがする、その髪にキスをしたら。キスをしたら逆に俺の髪を引っ張られた。
「わっ、何すんだよ」
「食べるな、髪を」
「食べてないよ、キスしただけだよっ」
「お前なら食いかねん」
「ひ、ひでーっ!」
髪を引っ張られた痛みとあまりな言い種に涙目になって訴えてみたら、バーカと一言言われて。言われて、そしてキスをしてくれた。
どうしてこんなにも好きなんだろうか?
何で俺こいつをこんなにも好きなんだろうか?
本当に分からない。分からないけど、好き。
こうしてそばにいられるだけで。こうして抱きしめられるだけで。
それだけで本当に嬉しくて。嬉しい、から。
髪を撫でられ、キスをされる瞬間。瞳に俺だけ映してくれる瞬間。
全部、全部、俺の全部で憶えておきたい。
どんな時でも、どんな瞬間でも、お前と一緒にいられるような気がするから。
「欲張りだな、本当に」
もっとと、キスをねだる。もっと、してと。
「だってお前とキスするの好きなんだもん」
羞恥心もプライドもそんなものいらない。
「―――キスだけか?」
そんなものよりももっと。もっと大事な事が。
「違うっ!キスだけじゃないけど」
大事な事が今ここにあるから。そんなちっぽけなもの。
「…けど…今は…キスしたいんだよ……」
お前に比べたら、全然。全然、要らないものだから。
額に頬に、唇に。お前のキスの雨が俺に降って来る。優しい優しいキスの雨。
それに埋もれて死んでしまえたら、もしかしたらすげーしあわせなのかな?
でも死んでしまったら、お前が見れないから。
「どうした?ツァイス」
お前の綺麗な瞳も、お前の不機嫌そうな顔も。
「…見惚れてる…シンに……」
時々見せてくれる、ひどく優しい顔も全部。
「…カッコイイから…見惚れてる……」
全部、全部、俺。俺まだまだ見たいから。
お前に関してだけは欲張りなんだ。お前の事だけは、妥協できないんだ。
好き。大好き。もうなんでもいいや。もう、どうでもいい。お前の事好きだから。その気持ちだけが、俺にとっての全部だから。だからどうしてとか、何でだろうとか、もうどうでもいい。
「お前の目、デカいな」
お前が好き。本当に好き。こうして一緒にいられれば。こうしてそばにいられれば、それで。それでいいんだ。それだけで、いいんだ。
「ガキみたいとかまた言うのかよ?」
「いや、それだけデカければ」
「――――お前は俺の全部を…見ているんだろうなと思っただけだ」
紅い髪を撫でてやれば、馬鹿みたいに嬉しそうにする。キスをしてやれば、大好きだと臆面もなく言ってくる。お前にとって『好き』という感情の前では全てが無意味なのだろう。俺が拘るちっぽけな事も全部無意味なのだろう。
驚くほど素直で、驚くほど真っ直ぐで。それは俺が今まで知らなかったもの。未知なもの。でも嫌じゃない。嫌じゃなかった。むしろ、その真っ直ぐさが俺にとっては……。
「見ている。全部、見ている。お前の事、全部」
羨ましくて、そして。そして眩しいもので。
「全部、見ているから」
愛しいものに、なっていた。大事なものに、なっていた。
「ああ見ていろ。俺から目、離すなよ」