METAMORPHOSIS



――――見下ろしてくる視線の強さに目眩がする。もっと貫いてほしいと、心が疼いた。


月明かりだけが埋める四角い部屋の中で、その瞳が怖い程に綺麗で。綺麗だったから、ずっと見ていたいと思った。
「―――どうした?見られているだけで欲情したのか?」
違う、見られているからじゃない…見ているだけで欲情したんだ。そう言葉にして告げようとしたら、声に出す前に口づけられた。噛みつくような口づけに、それだけで意識が溶かされそうになる。
「…シン……」
間近にあるその顔を見上げるだけで、身体の芯が疼いた。じわりと足許から広がってくる欲望の火種が、身体を埋めてゆく。
「欲情しているよ。俺、何時もお前の事を考えると…どうしようもなくなって」
「セックスを覚えたてのガキみたいだな、その言葉は」
手を伸ばして髪に触れた。さらさらの、髪。指をすり抜けてしまいそうな程の。それが嫌だったから、きつく指先に絡めた。―――痛いぞ、と冷たく言われても止められなかった。
「馬鹿みたいに何時もお前の事だけ、考えている」
理由とか説明とかそういったものは全てどうでもよくなっていた。どうでもよかった。ただ好きなだけだ。どうしようもなく好きなだけだ。
「大好き、シン」
それだけが、全て。それだけが、大事。それだけが俺の、本当の事。他には何もいらない。


素肌のまま座り込んだ床はひんやりと冷たかった。けれどもその冷たさが今は心地よい。お前に見られているだけで火照ったこの身体には。
「俺が欲しいか?」
「欲しいよ、シン。お前だけが欲しい」
迷う事など何一つなくて、ただ望み通りに告げるだけ。思った事を告げるだけ。そんな俺を何時もお前は羞恥心のない奴だと言うけれど、そんなものすらどうでもよくなってしまうほど俺はお前だけが、欲しいから。お前だけが、欲しいんだ。
「なら誘ってみろ。俺がその気になるように、その身体で」
見下ろす瞳は冷たくて熱い。俺が何よりも好きな視線。お前は冷たく俺を見下ろしながら、その奥で激しい熱で貫く。それはどんなものよりも俺にとっては、欲情するものなんだ。
「…お前がその気になってくれるなら…俺はどんなことだってするよ……」
自分を見下ろす冷たく熱いその視線を体中に絡ませながら、俺はお前を誘うために自らの肌に指を落とした。



――――こんな風に試すような事をしなくても、お前は俺だけを好きだと分かっているけれども。


それでも時々無性に、確かめたくなる。お前の気持ちを、お前の想いを。
どれだけお前が俺を欲しがっているのかを。どれだけ望んでいるのかを。
その紅い瞳に映っているのは俺だけだと。映していいのは俺だけだと。



胸の突起に指を這わせて、そのままぎゅっと親指と人差し指で摘まんだ。最初は優しく、次第に激しく。お前が俺に何時もしているように、そう。
「…はっ…ふっ…くふっ……」
乳首を嬲りながら、自らの指を口に含んだ。そのままぴちゃぴちゃと音を立てながら、指先を舐める。そんな様子をお前は無言で見下ろしていた。
「…はぁっ…ぁぁ…っ…あっ!…」
唇から指を離すと、そのまま尖った両の胸を摘まんだ。捻るようにきつく摘まみ上げれば、それだけでもう耐えきれずに口からは悲鳴のような声が漏れる。
「…あぁっ…あぁぁ…んっ……」
身体が小刻みに揺れるのが自分でも分かる。けれども手を止める事が出来なかった。止めようとは思わなかった。だって、見ている。お前が俺を、見ている。お前を欲しがっている俺を…見ているから。
「…シン…好き…大好き…シンっ……」
名前を呼ぶ。呼んだらお前が触れていてくれるみたいな気持になって、嬉しくなった。嬉しかったから、もっと。もっと自分の身体を追い詰めた。
「お前は本当にどうしようもないな。まだ触れてもいないのにこんなになっているぞ」
「…あぁっ…そんな事…言うなっ…はぁっ……」
言葉だけなのに、背筋がぞくぞくする程に感じた。その言葉だけで俺自身は形を変化させる。自分の指の直接的な刺激よりも、お前の声に俺は感じた。
「自分で触れ」
「―――ああんっ!!」
手を掴まれたと思ったらそのまま自らの股間へと導かれた。上から手を被されて、そのままきつく握られる。その刺激にびくんっと俺の身体が跳ねた。
「…ああっ…ああんっ…あぁぁ……」
重ねられた手はすぐに離れたけれど、俺の手は止まらなかった。一方の手で胸を弄りながら、もう一方の手で自身を扱く。上下に擦ってやればたちまちソレは限界まで膨れ上がった。
「本当にお前は…どうしようもないな」
呆れたような、けれども何処か楽しげに囁かれた声に、また俺は感じた。お前の感情の破片は、どんなものでも俺にとっては刺激だった。
「…ああっ!!やめっ!!」
先端を軽く扱かれ、それだけでイキそうになる。けれどもその寸前にきつく出口を塞がれ、吐き出す事は叶わなかった。限界まで膨ち上がっているソレは望みを叶えらずに、ただひくひくと震える事しか出来なかった。
「…やぁ…シンっ…俺…っ……」
「嫌なら脚を開け」
この状態に耐えきれずイヤイヤと首を振っても、願いがかなえられる事はなかった。それどころか脚を開かされ、恥ずかしい所を丸見えにさせられる。
「こんなにヒクつかせて…そんなに俺が欲しいのか?」
「…やぁ…シンっ…駄目っ…ソコはっ…!」
出口を塞がれたまま、秘所に指が埋められる。ひくひくと切なげに震えているソコは、侵入してきた指を待っていたかのようにきつく締めつけた。
「…やだぁっ…もうっ…もうっ…駄目っ…!」
くちゅくちゅと指が中を掻き回す。気持ちいい。気持ちよくて、全てが溶かされてゆく。けれども意識が飲み込まれそうになると、その瞬間に苦痛が押し寄せる。イキたくてもイケないでいる、自身から。
「―――これが欲しいか?」
「…あっ……」
指が引き抜かれる。その刺激にすら俺の身体は感じた。けれども先端はまだ塞がれたままだった。塞がれたまま、指とは違うモノが入り口に宛がわれる。それは。それは何よりも俺が欲しいモノだった。
「…欲しいっ…欲しいよっシンっ!!」
熱くて硬いお前の楔。それで俺の中をぐちゃぐちゃに掻き回して欲しい。俺を激しく貫いてほしい。壊れるくらいに、俺を。俺をお前の欲望で満たして欲しい…。
「お前だけが…欲しいよぉっ……」
最後の方は涙声になっていて、ちゃんと言葉にはならなかった。けれどもお前には伝わったから。お前には伝わったから。だって俺の中に挿ってくる。一番欲しいものが、俺の中に……。



その唇から零れる名前は俺だけでいい。俺の名前だけを、呼んでいればいい。それ以外の言葉は欲しくない。
「…あああっ…シンっ!…シンっ!…あぁぁぁっ!!」
俺の腕の中だけで溺れればいい。俺だけが知っていればいい。こんな淫らでどうしようもないお前を。知っているのは、俺だけでいい。
「…ツァイス…気持ちいいか?…」
そしてそんなお前を愛しているのは、俺だけでいい。俺だけがお前をどうしようもない程に求めて、そして愛していればいい。
「…いいよっ…シンっ…気持ちいいよぉ…ああぁっ……」
汗ばんだ肌も、濡れた瞳も、微かに薫る髪の匂いも、全部。全部、俺だけのもの。全部、俺だけのものだ。
「――――あああああっ!!!!」
お前は俺だけのもの。俺はお前だけのもの。それだけで、いい。それ以外、いらない。


髪を指先に絡めるのも。きつく、絡めるのも。
「…シン…大好き……」
お前が必死に俺を掴んでいるように思えるから嫌じゃない。
「…大好き…シン……」
濡れた瞳で俺を見上げてくるのも。ねだるように、見上げてくるのも。


――――その瞳に映っているのが俺だけだから…嫌じゃない……


「…ああ、知っている…ツァイス…その事は俺が何よりも………」



それでも好きだと告げるお前を、俺は誰よりも望んでいた。お前よりも、ずっと。