―――掴まれた髪すら、心地よい。
撫でられた頬が熱く焼け、落ちる舌に睫毛が震える。
噛み付くような口付けと、見下ろす冷たい視線に。
身体の芯から疼いて、そして。そして止まらなかった。
「――――ガキの癖に…お前は……」
草の匂いのする髪だった。柔らかな大地の、草の匂いのする髪。そこに顔を埋めながら、呆れかえるような声を聴く。相変わらず冷たくて、そして感情の見えない声。でも、俺。でも俺そんなお前の声が、何よりも好き。
「…シン…俺……」
椅子に座りながら視線を窓の外に向けるお前の上に乗っかった。そしてそのまま髪に顔を埋める。自然の、大地の匂いのする髪に。
「発情期か?」
身体を密着させて、微かに変化している自身を布越しに押しつける。それに気付いてお前は一つ微笑った。その顔が好き。馬鹿みたいだけど、すげー好き。
「発情期…だから構って」
「犬か、お前は」
「いいだろっ!だって俺…お前とするのすげー好き」
首筋に手を廻して、そのままキスをした。その柔らかい感触にすら俺は瞼が震えた。こうして唇が触れるだけで、俺は……。
「な、しよ。シン」
もう理由も理屈も何も分からない。とにかく好きなんだ。俺こいつがすげー好きなんだ。全然優しくないし、何時も俺を馬鹿にしたように見下ろしてるけど。でも。でも、好き。
――――滅茶苦茶に、大好き……
大きな手、俺の髪に触れる。優しくなんてないけど。でもいいんだ。いいんだ、こうやって触れてくれるだけで。触れてくれるだけで俺はしあわせだから。
「したかったら、俺をその気にさせろ」
くすりとひとつ口許だけで微笑う。その笑みがしなやかでそして雄を匂わせて、俺は。俺はそれだけで…欲情した。
「なあ、これ外していいか?」
何時も身につけている頭の布に手を掛けて尋ねたら構わんと言ってくれた。だから外して、その髪に触れた。さらさらの黒い髪に触れて、ひどく満たされている自分がいる。
「何をそんなに笑ってる?」
「だってシンの髪滅多に触れないから、嬉しいなぁって」
「ヤッてる時に散々掴んでいるだろう?」
「だってあの時は夢中で…こうやってじっくりと堪能出来ないからっ!」
「じゃあありがたく堪能しろ」
「うん、堪能する」
馬鹿みたいににこにこと笑いながら俺はしばらくシンの髪にじゃれついていた。お前はネコか、と呆れられながらも、それでも構わず指を絡めた。
「髪だけでいいのか?」
「やだっ!髪だけじゃ。今日はシンとえっちな事するんだ」
「髪触られただけじゃ俺はその気にならん」
「…ヴー…分かってるよ。じゃあこれはおしまい。これからは」
もう一回お前にキスをした。触れるだけのキスをして、そのまま唇を開いてお前の舌を誘う。ゆっくりと生き物のような舌が俺の口中に滑り込み、そのままきつく絡め取ってくれた。
「…ん…ふ……」
お前とキスをしていると、身体がふわふわしてくる。頭がボーとして何も考えられなくなる。心地よくて、気持ち良くて。身体の芯がじわりと濡れてゆくのが、分かるから。
「…んん…シ…ン…っ…んん……」
口付けに酔い痴れながら俺は縺れる手で、お前の胸元を肌蹴た。その引き締まった筋肉に指を這わす。肩から胸元、そして腹筋へと。指で強くその肉を押したら弾力で跳ね返って来た。その肉体に欲情した。
服を着ていると分からない、その下に隠された鍛え上げられた引き締まった筋肉に。
「…お前の身体、好き……」
指の辿った後を、舌で追いかけた。微かに汗の匂いのする肌を舐める。俺しか知らないお前の体臭。こうして近付いて触れないと分からないもの。その事実が、嬉しい。
「本当にお前は犬だな。人の身体を舐めまくって」
「…だって…美味しいもん…シンの身体……」
お前の膝の上から身体を下ろして、広げられた脚の間に身体を割り込ませた。臍の窪みをぴちゃりと舐めて、そのままズボンのファスナーへと辿りつく。それを口に咥えて、そのまま降ろした。
「…んっ……」
取り出したお前自身の先端をちゅぷりと舐めた。まだ形を変化させていないソレを手のひらで持ち上げ、くびれた部分に舌を這わした。何度もソコを執拗に舐めながら、手を絡ませる。形を辿りなが浮き上がった筋を指でなぞった。
「…ん…ふっ……」
手のひらで大きくなるソレが嬉しかった。初めはへたくそだとか、歯を立てるなとか、散々文句を言われたけれど。でも今は。今は俺の舌と手でお前のコレが感じてくれるから。
「…はぁっ…んっ!」
ぺろぺろと側面を舐めていたら不意に髪を掴まれそのまま口中にソレを押しこまれた。圧倒的な質感が俺の口の中に広がり、思わずむせそうになる。
「んんんっ!んんんんっ!!」
それでも必死でそれを堪えると、俺は懸命に口の中のソレを舐めた。熱く硬くなってゆく、ソレを。喉まで届きそうな、ソレを。そして。
「――――っ!!!」
ドピュッ!と大きく弾ける音と共に、俺の口の中に独特の味のする液体が注ぎ込まれた。
「零すなよ、ちゃんと全部飲め」
「…あっ……」
飲みきれず口許に零れる精液をお前の指が掬い上げると、そのまま口中へと指が入れられる。俺は夢中になってその指を舐めた。
「…ん…くふっ…ん……」
口の中で指が折り曲げられ、粘膜をなぞった。舌に精液が擦り付けられ、俺はそれを必死でむしゃぶりつくした。
「…シン…今度は……」
「うん?」
「…下の口に…出して……」
のろのろと俺は起き上がると、再びお前の膝の上に乗った。もどかしげにスボンを脱ぎ捨てると、まだ準備すらしていない入り口にお前のソレをあてがう。けれどもそんな俺の手を、お前が止めた。
「…シン?……」
不安になってお前を見つめた。俺はお前をその気にさせられなかったのかと思って。口では出してくれたけど、それ以上の気持ちにはさせられなかったかと思って。
「そんな顔するな、犬」
けれども、そんな俺の頭の上にお前の手が乗っかって。そして。そしてくしゃりと俺の髪を乱して。
「…犬じゃない…ツァイスって名前がちゃんとある」
「そんな捨て犬みたいな顔するからだ。それよりもほら」
「…あっ!…」
びくんっと思わず俺は身体を跳ねさせてしまった。お前の指が俺の秘所に入ってきて。俺の唾液で濡れたその指が。
「…ひゃ…あ…ん……」
「ちゃんと挿れてやるから、準備はしろ」
「…あぁ…シンっ……」
くちゅくちゅと音ともに指が俺の中を掻き乱す。その音だけで俺の神経は濡れた。感覚が全てソコに集中して、指の動きを追ってしまう。無意識に腰が揺れ、指の動きを求めてしまう。
「…シン…早く…もう平気…だからっ……」
「欲しいか?コレが」
「…あっ……」
指が引き抜かれ、その代わりにお前自身が入り口に当てられる。熱くて硬い、お前自身が。
「…欲しい…シン…シンのが…欲しい……」
入り口をソレでなぞられ、俺は目尻に涙を零しながら答えた。欲しくて欲しくて、堪らなかったから。どうしようもない程に、ソレが。ソレが欲しかったから。
「じゃあご褒美だ。たっぷりと味わえ」
腰を掴まれ、そのまま一気に引き寄せられた。その瞬間、俺の中に熱い塊が挿ってきた。
ぐちゃぐちゃと接合部分から淫らな音がする。粘膜が中で擦れ合って、その摩擦が熱かった。
「…あああっ…シンっ…ああっ…イイっ…イイよおっ!……」
俺は夢中になって腰を振り、お前を求めた。突き上げてくる硬い楔に酔いながら、何度も何度もそれを受け入れる。
「…あぁぁ…俺…俺っ…シンっ……」
「イイか?ツァイス」
「…うん…うん…イイっ…イイ…俺…イッちゃうっ!……」
耳元で囁かれる微かに掠れた声が。その声がお前も俺を感じていてくれている事が分かるから。分かるから、その声にすら俺は感じた。ぞくりと、感じた。
「じゃあ後ろだけでイケ」
「――――ああああっ!!!」
大きく腰をグラインドさせられて、俺は耐えきれずにお前の腹の上に射精した。そしてその後を追うように、俺の中にお前の精液が注がれた。
「…シン…好き……」
お前の髪からも汗が、零れている。
「…大好き……」
それに触れたくて指を伸ばす。
「…お前が…大好き……」
滅多に触れられないその髪に。
「―――ああ…分かってる……」
好きだとか、そんな言葉なんてくれないけど。でもこうやって繋がっていれば分かるから。こうやって身体を繋げれば、分かるから。お前の冷たい言葉の下にあるものが。だから。
だからその分、俺が言うから。いっぱい、いっぱい、好きだって言うから。
「…大好きだよ…シン……」