空を見上げて、星を探してみる。ただひとつの願いを、叶えてほしくて。
ただひとつの想いを、叶えてほしいから。ただひとつだけ。
夢を見るのは簡単だけど、目覚めた後の残像を消す事は難しい。
手を伸ばして、髪に指を絡めて。その漆黒の髪に指を、絡めて。そのまま目の前にある顔を見つめた。何時もと変わらないその無表情な顔を。
「なあ、どうして俺。俺こんなにもお前の事好きなんだろう?」
髪に絡めていた指をそのまま頬に滑らせる。人肌のぬくもりのある肌だった。この肌を指で触れるまでは、こうして手のひらで実感するまでは。ずっとこの頬はひんやりと冷たいものだと思っていた。冷たい肌だと、思っていた。
そんな事はありえないと分かっていても、何故だか触れるまでぬくもりがないのではと…不安だったんだ。
「何でこんな…好きなんだろう?」
俺の問いにお前が答える事はない。ただ静かに俺を見下ろしているだけ。優しい愛撫を与えてくれる訳じゃない。甘い言葉をくれる訳じゃない。でも。でも俺の好きなようにさせてくれる。俺に好きなだけ、触れさせてくれる。
「…大好きなんだ…シン……」
顔を寄せ、間近で見つめる顔にどうにも出来ない想いが胸に広がる。それを言葉で説明する事は出来なかった。ただどうしようもなく、お前を好きだと思うだけで。ただ好きだと。好きなんだと、それだけを思うだけで。
「――――ツァイス」
やっと名前を呼んでもらえた。その瞬間だけで満たされる俺がいる。その低い声が、俺の名前を呼んでくれるだけで。それだけで、甘い疼きを憶える自分がいる。
「お前はすぐに感情が顔に出るな」
その大きな手が伸ばされ、俺の頬を包み込む。手は、ひんやりと冷たかった。体温はあったけれど、冷たかった。だから余計に、俺の頬の熱さを感じたかもしれない。
「本当にガキだな。でも」
そのまま頬をニ、三度撫でられて、身体を引き寄せられる。この腕に包み込まれる瞬間、何時も死にたいという衝動に駆られる。それは次に与えられる口付けを感じるまで、続く衝動だった。甘くない、けれども官能的なその口付けが…与えられるまで。
お前という名の見えない鎖に、捕われている。
全身を絡め取られ、俺は逃げられない。ううん。
逃げたいと思う気持ちすら、何処にもなかった。
何処にも、ない。お前に捕らわれる事が。
ただひたすらに胸の奥から広がる甘美な想いだった。
「でも…俺のものだ……」
髪を引っ張られ、そのまま強引に重なる唇。その激しさに俺は酔った。全てを奪うような口付けに、俺は睫毛を震わせた。普段からは想像出来ない、この激しさが。ストイックで絶対に感情を表に出さないお前の。そんなお前の、この激しさが。それが俺には何よりも。何、よりも。
「…シ…ンっ…はぁっ…ん……」
嬉しいのだと。嬉しいんだと。どんな理由であろうとも、そんなお前をここまで突き動かす事が出来る事が。それが何よりも、嬉しいんだと。
「お前は俺だけのものだ」
こめかみが痺れるほどの口付けから解放されれば、口許からは無数の唾液が伝った。その唾液を舌で辿りながら、お前の手が俺の胸元を滑ってゆく。節くれだった指だった。この指があの弓を放つのかと思うと、戦場でこの指が敵を射貫くのかと思うと、背筋がぞくりとした。
「…あっ…あぁ……」
胸の飾りを指が捉える。そのままぎゅっと摘まれて、肩がびくんっと跳ねた。けれどもお前の手は止まる事無く、突起を甚振るように摘む。時折かりりと、爪を立てながら。
「…はぁっ…あ…シン…っ……」
背中に手を廻して、そのまましがみ付いた。滑らかなその肌を手探りで、探る。感触を、味わいたくて。俺の指に刻みたくて。お前の全部、刻みたくて。
指に胸を押しつけ、もっとと愛撫をねだった。痛みのような刺激に、身体を痙攣させながら。
「…シンっ…あぁっ…あ…んっ……」
胸を甚振られながら空いた方の手がそのまま。そのまま俺自身に絡まる。触れた瞬間、一瞬竦むように俺の身体は硬直した。けれども次の瞬間、与えられた愛撫に一気に唇が解かれる。指が形をリアルに辿り、先端の縊れた部分を擦る。それだけで上擦ったような声が零れた。
「…あぁんっ…シン…シンっ……」
投げ出した脚をお前の腰に絡め、身体を引き寄せた。もっとお前に触れたくて。もっとお前に触れてほしくて。少しでもたくさん、お前と重なっていたくて。
「もう俺が欲しいのか?しょうがない奴だ」
呆れたような溜め息とともに落とされる言葉ですら、俺は否定できずに頷いた。だって本当の事だから。本当の事、だったから。
何時でも俺はお前が欲しい。お前だけが、欲しい。俺という器全てで、お前を感じたいんだ。
優しくなくていい。俺だけに冷たいなら、それでいい。
俺だけを乱暴に扱うなら、それでいい。それが、いい。
どんな形でも、どんな理由でも、お前が。
――――お前にとって俺が『特別』だって、感じられるなら……
「そんなにも俺が欲しいか?」
冷たく見下ろす瞳も。優しくない言葉も。
「…欲しい…お前だけが…欲しい……」
それが俺だけに与えられるならば。それが俺だけのものならば。
「…欲しいよぉ…シンっ……」
他人に関心のないお前にとって、その態度こそが何よりも。
何よりも、自分に関心があるって…確認出来る事だから。
ベッドの上に座るお前の下にしゃがみ込み、俺は微妙に形を変え始めたお前自身を口に含んだ。まだ大した熱を帯びてはいないのに、充分に硬さを持ったソレを俺は必死になって舐めた。
「…んんっ…んんん……」
先端をわざとぴちゃぴちゃと音を立てるように舐める。それと同時に袋の部分を指で揉みしだく。そうする事で次第に形を変化させるお前自身に、俺はぞくぞくした。この硬く熱いモノが、俺の器官を貫き引き裂くんだと思うだけで…震えが止まらなかった。
「…はぁっ…んんっ…ふぅっ…ん……」
口に頬張り、そのまま顔を上下させた。舌を尖らせ先端を舐めながら、手で竿をなぞる。それを何度か繰り返した所で、お前に髪を摘まれた。
「うぐっ!んんんっ!!」
そのまま強引に股間に押し付けられ、喉の奥までお前自身が侵入してくる。その大きさに噎せ返りそうになりながらも必死に堪え、俺はソレを頬張った。喉につかえる程の大きさと熱が俺の口中を支配する。支配されていると、感じる。
そう思うだけで、俺は感じた。自身の先端からとろりとした先走りの雫が零れて来るのが分かる。それでも俺は排泄感を堪えながら、お前の楔に必死で奉仕した。そして。
「―――もういい…後はお前の下の口でイカせろ」
また髪を引っ張られ、顔を上げさせられる。けれども俺にとっては掴まれた髪ですら、お前ならば心地よいものだった。それすら俺には感じるものだった。
「…きっと…俺のが先にイッちゃうよ……」
のろのろと身体を起こして、お前の上に乗っかった。こうする事で見下ろすお前の顔も、好きだった。
「そうしたらまたイケばいい。俺なら幾らでもイケるんだろう?」
腰に手を掛けられ、縊れたラインを手ですっと撫でられる。それだけで両膝ががくがくと震えた。そんな俺を見て、お前はひとつ微笑う。くすりと、ひとつ。
「…うん、イケる…お前なら幾らでも…だから、俺壊すくらいに無茶苦茶にして…」
震える膝を堪え、そのまま腰を浮かした。手をお前自身に伸ばし、入り口にあてがう。花びらがその硬さに触れただけで、俺は背筋を震わせる。これから与えられる激しい衝撃を、思って。そして。そして、俺は一気に腰を降ろしてお前を中へと埋め込んだ。
「――――あああああっ!!!」
がくんっと腰を降ろし、中までお前を受け入れた瞬間。その瞬間俺自身の先端からは、耐えきれずに白い液体を放出させた。それがお前の裸の胸に飛び散る。
「…あぁっ…シンっ…シ…ン……」
繋がったまま俺は舌を伸ばして、お前の胸を舐めた。お前の肌に付いた精液を舐めた。自分が放出したものなのに、嫌だった。俺のものじゃなくなったモノが、お前に付いているのがイヤだった。
「…あぁんっ…ふぅっ…んっ…はぁっ……」
お前の身体をベッドに押し倒し、ぴちゃぴちゃと身体を舐める。繋がった個所はそのままで。そのままで。
俺がお前の肌に舌を滑らせるたびに、中の楔が動いてぎゅっと器官が締め付け快楽を求めているのが分かる。それによって果てたはずの俺自身も再び立ち上がり、感じている事を伝えた。
「…シン…俺っ……」
「もうこっちはいいから、動け。望み通り、壊してやるから」
言われた言葉にぞくぞくしながら、俺は上半身を起こしてお前の胸に手を付いた。そしてそのまま自分から腰を動かし始める。がくがくと上下に揺さぶり髪を乱しながら、喘いだ。
「…あああっ…あぁぁっ…ああっ!」
抜き差しをするたびに自分を突き刺す楔が太く硬くなる。引き裂くような痛みと、それ以上の激しい快楽。貫かれる悦びを知った器官は貪欲に刺激を求め、きつく中で締め付けているのが分かる。ぎゅっとお前を締め付けているのが。
「…シンっ…シンっ…あああああっ!……」
喉を仰け反らせ、胸を突き出しながら喘いだ。その瞬間俺の内壁がぎゅっとお前を締め付け、その刺激に体内に熱い液体が注がれる。その熱さを感じながら、俺もまた果てた。
星が、見えた。お前の背後にある窓から、星がうっすらと見えた。
「…あぁぁっ…シンっ…もっと…もっと……」
滲む視界に映る星。ぼんやりとした光。けれどもそれよりも。それよりも。
「…もっと俺を…俺を…無茶苦茶に…あぁっ……」
目の前にある顔が。その双眸が。漆黒の瞳が、俺にとっては。俺にとっては。
「…ああああっ…あああああ……」
見上げた星よりも、ずっと。ずっと綺麗で、焦がれたものだった。
そばにいたい。呆れるくらい、おまえのそばにいたい。
滲む視界に見える星に、そっと俺は願った。繋ぎ合わせた熱に溺れながら。
俺は願った。ただひとつの願いを。お前と繋がっているこの瞬間に、願った。