何時かこの地にも春が来るようにと。暖かい春が、来るようにと。柔らかい日差しの中で、そっと。そっと笑顔が生まれるようにと。
「――――貴方はとても、不思議な人ですね」
その顔を見下ろせば何時もと変わらない貴方の顔があった。本当にどんな時でもあまり表情を変えない。けれどもそれが。それがひどく、自分にとって安らぎを覚えるようになっていた。
何時も変わらない表情。どんな時でも穏やかなその表情。見ているだけでこっちが、ひどく優しくなれる表情。
「不思議って言われたのは初めてだなあ」
私の言葉に相変わらず間延びしたような声で、首を傾げながら答える。そんな所も本当に何一つ変わる事無く、何時もと同じで。同じで、嬉しかった。
「でもそんな貴方だから、私は」
好きになった、と言う前に。言う前にその手が伸びてきて、私の髪をそっと撫でてくれた。それは本当に予想外の行為で、私は思わず驚いた表情を浮かべてしまった。
「そんな顔されると困るな。俺…変な事しているかなあ?」
「いいえ…ちょっとビックリしただけです。貴方がこんな事をするとは…って失礼ですね」
「うん、まあ…そうかなあ?そうだよなあ。俺、あんまり女の人には慣れていないから、よく分からなくて。うん、でもこう言うのって嫌なものなのか?」
真剣に聴いてくる貴方はひどく純粋だった。そう貴方は何時も。何時もそうだった。貴方が思っている事は、貴方が告げる事は、何時も正直な思い。嘘偽りない貴方の本音。それが私にとって何よりも心地よいものだったから。心地よく、そして暖かくなれるものだったから。
「いいえ、嫌じゃないです…嫌じゃない…貴方が好きだから…私は……」
腕を背中に廻し、自分からキスをした。その言葉が嘘ではないのだと、伝えるために。
あの人と別の道を歩み、そしてギネヴィア様の為だけに生きると決めた日。
もう二度と恋など出来ないと、誰かを愛する事など出来ないと思っていた。
私は王女のためだけに生き、そして死ぬのだと。死ぬのだと、そう思っていた。
『あんた、どうしてそんな淋しそうなんだ?』
不思議な人。不思議な人だった。何時もぼーっとしているのに。
『なんかこう…もっときっといい事が世の中にはあると思うんだけどなあ』
それなのに一番大切な事を分かっている人。本当に大切な事を。
『だからいい事を見つけた方がいいと思うんだけど』
貴方は知っていた。貴方はちゃんと、知っていた。私ですら見えなかったものを。
『そうしないと、あんたを大切に思っている人が哀しむから』
私が見失って、見えなくなってしまったものを。貴方が教えてくれた。
例え道が別れても、永遠のさよならでも。
それでも確かにそこに想いは存在している。
どんなに時が流れても、どんなに時間が経っても。
確かにここに、この想いはあったのだから。
笑う事すら忘れて、廻りの景色を見る事すら忘れて。全ての現実から目を反らしていた。
『空は蒼いし、日差しは暖かい。それだけでしあわせな気持ちになれると思うんだけど』
私が見失っていたもの。そこに変わりなくあるもの。ずっとそばにあり続けるもの。
『こうして気持ちのいい場所で眠れるだけで』
空の透き通る蒼さ。森の萌える緑。優しい太陽の光。それは何時も私のそばにあったのに。
『しあわせだなあと思うんだけどなあ』
私はそんな当たり前のものですら、見えなくなっていた。感じなくなっていた。
貴方がいたから、思い出せた。貴方がいたから、気付けた。何気ない日々にある小さなしあわせこそが、どんなにかげがえのないものなのかと。今ここに貴方がいるから、私は気付く事が出来た。
「…こういうのが未だに慣れないんだけど……」
唇を離して、私は貴方を見下ろした。鎧の下に隠されている筋肉は逞しく、それは戦う者の肉体だった。その裸の胸に指を触れれば、胸襟が弾力で私の指を押し返した。
「でもあんたみたいな…綺麗な人が俺を好きだっていうんなら…しあわせだなあと思う」
「フフ、貴方らしい。そんな所が…好きなんです」
そのまま指を胸に這わした。硬い筋肉を何度もなぞりながら、その指を辿るように舌を這わした。微かに匂う男の体臭が私の背筋をぞくりと、させた。普段の言動と見掛けからは想像も出来ない野性的な身体だった。
「…んっ…はむ…んん……」
首筋のラインから鎖骨まで舌でちろちろと舐める。唾液の線が伝い、鎖骨の窪みに落ちた。それを舐め取りながら、更に舌と指を滑らせてゆく。胸の間の筋肉に触れ、硬い乳首を口に含む。ぺろぺろと舌先で舐めれば、それは硬く張り詰めた。
「…んんっ…ん……」
しばらく胸を舌で嬲り、ゆっくりと下腹部へと下ろしてゆく。わき腹の硬いラインを撫でながら、腹筋の弾力を舌で楽しむ。鍛え上げられた男の身体。強靭な身体。そして無数の傷跡のある身体。普段から想像も出来ないほどに、貴方は強かった。何でもない顔をしながら、戦場で戦い続ける貴方は。それが傭兵だからとか、そんな理由だけではない。貴方は本当の意味で強い人だった。どんなものにも、強い人だった。
「…あんたの身体…柔らかいな…やっぱ女の人だなあ……」
裸の胸が貴方の筋肉に当たる。それだけで、感じた。両の胸を腹筋に押しつけ、胸を跳ね返す弾力に睫毛を震わせた。貴方の筋肉の上で自らの乳首が硬くなるのを感じる。
「…もっと私を…感じてください……」
「―――っ!」
びくんっと一瞬貴方の身体が揺れた。私の胸が貴方自身を包み込んだせいで。その硬く立ち始めた肉棒を両の乳房で挟みこむ。そのまま指で胸を揉みながら、肉を擦り合せた。
「…はぁっ…あぁっ…あんっ……」
ぎゅっぎゅっと乳房を揉みながら、貴方のソレを擦り合わせる。胸を上下させ、熱くなってゆく楔を感じた。自分で尖った胸の果実を指で摘みながら、身体を激しく揺する。
「…あぁんっ…トレック…っ…はっ…んっ!」
立ち上がり存在を主張する貴方のソレをそのまま口に含んだ。先端の縊れた部分まで口に咥えると、割れ目を舌先でちろちろとしゃぶった。それと同時に乳房を押しつけ擦り合わせる。その同時の刺激に、貴方のソレはどんどんと私の口の中で大きく硬くなってゆく。
「…んんんっ…ふぅっん…んんんんっ……」
「…ミレディ…俺…もうっ……」
声が掠れて、感じているのが伝わった。私しか知らない、声。私だけが知っている、貴方のそんな声。そう思うだけで、私の子宮はじゅんっと鳴った。自分の割れ目が濡れるのが分かる。
「…出して…ください…私の口の中に……」
身体を擦り付け腰を振りながら、ソレを口いっぱいに含んだ。収まり切れないほどの大きさが、私の目尻から涙を零させた。それでも口から離す事はしなかった。喉までつかえるその大きさを懸命に私は奉仕した。口を窄め先端を吸い上げ、先走りの雫を受け止める。両の胸を肉に擦り合わせ、何度も上下をさせた。そして。
「んんっ…んんんっ…んんんんっ!!!」
どくんっ!!と弾ける音とともに、私の中に生臭い熱い液体が注がれた。
ごくごくと喉を鳴らしながら、私はそれを飲み干した。けれども飲みきれない唾液が口許を伝い、私の胸の谷間へとぽたりと零れていった。
「…濡れている、あんたのココ……」
「…あっ!……」
のろのろと起き上がり上半身を起こし貴方の上に跨った瞬間、私の蕾に貴方の指が挿ってきた。それは言葉通りに、ねっとりと濡れていた。
「ぐちゃぐちゃになっている」
指で中を捏ね繰り回され、私は脚をがくがくとさせた。独りで支える事が出来ずに、貴方の胸に手を付けば、そっと私の腰に手を当て支えてくれた。力強いその腕が。
「…あぁっ…あんっ……」
びくびくと身体が跳ねる。指が抜き差しされるたびに。感じる個所を攻めるたびに。蜜が花びらから溢れ、指を湿らせてゆくのが分かる。
「…トレック…あぁぁ…もう…指は…私っ……」
「―――ああ、俺も。俺もあんたが欲しい」
引きぬかれた指の刺激にすら身体が跳ねた。それでも私は懸命に堪えると、胸に付いていた手を離して、そのまま再び立ち上がった貴方のソレに触れる。何度か指で扱いて、先端を入り口に当てる。その硬さに睫毛を震わせながら、私は腰を落とした。
「…はぁぁっ…ああああんっ!!」
ずぶずぶと音を立てながら、貴方のソレが私の中に飲みこまれてゆく。繋がった個所から液が溢れ、ぐちゅぐちゅと濡れた音を響かせた。肉を押し広げられる感触に震え、貫かれる痛みに悦びの声を上げる。頭の芯が痺れるようにじわりと熱が広がり、意識が飛びそうになった。
「あああんっ…ああんっ…あんあんっ!」
腰を揺らし、肉を擦れ合わせた。身体を上下に揺するたびに、胸の膨らみが振動する。がくがくと身体が震え、じゅぷじゅぷと繋がった場所が音を立てる。その音にすら、私の身体は反応をした。
「…もぉ…私…もぉ…駄目っ…ああああああっ!!!」
がくんっと身体が揺れ、私は耐えきれずにそのまま貴方の胸へと倒れ込む。その瞬間意識が真っ白になった。真っ白になり遠ざかると思った瞬間、身体の中に熱い液体が注がれ、そのまま私はそれを感じながら意識を飛ばした。
『俺の故郷は雪ばかりで春がほとんどないんだ』
けれども貴方は春のような暖かい人。貴方は暖かい人。
『だからずっと待っている。春が来るのを』
私も待っていた。心の何処かで待っていた。暖かいものを。
『でもあんたの笑った顔は春みたいだなあ』
優しく暖かく、そして何よりも安らげるものを…待っていた。
春を待つ人。春を待ち続ける人。
イリアの冬と、私の失った愛は。
きっと何処か同じものだった。
…きっと、同じものを…捜していた……
「最初はあんたは物好き人だと思っていた」
貴方がここにいるだけで。こうしてそばにいるだけで。
「…でもそれでもこうしてそばにいてくれるなら……」
私の心は暖かい。私の心は優しくなれる。それは。
「…俺は…物好きでもいいなあと…思っているんだ」
それは、貴方が。貴方が春のような人だから。
――――何時かふたりで。ふたりで、イリアの春を…見にゆこう……