好奇心



―――――最初は、ただの好奇心だった。ただの好奇心、それだけの筈だったのに……


肌を重ねればただの他人ではいられなくなる。人恋しさだと言い訳めいた言葉を口にしてみても、湧き上がるものは別の感情だった。別の、想いだった。
「…んっ…ふぅ……」
重ねあった唇を離して、ガイアは自分の下に在るその漆黒の瞳を見下ろした。何処までがこの色彩の境目なのだろうと思いながら。何処までが二人の距離なのだろうと感じながら。
「…ロンクー…お前の……」
きっかけを思い出せば苦笑せずにはいられない。本当に始まりは些細な事だった。それなのに、どうしてだろう?どうして今はそんな事にこだわり始めているのか?
「…お前のココ、もうこんなんなってるぜ」
剥き出しになったソレにガイアは指先で形を辿った。その巧みな指先にロンクー自身はみるみるうちに硬度を増してゆく。それを楽しむかのように何度も何度もガイアの指は形を辿った。
「――――お前が、巧いからだ……」
ぽつりと呟いた言葉にガイアは微笑った。それは苦笑気味にも自嘲気味にも、嬉しそうにも…見えた。


初めはただの好奇心だった。女が苦手な相手がどうやって性欲処理をしているのか、下世話な興味だった。けれども気付けば、自分からその身体に跨り貫かれていた。男と寝るのに抵抗はなかった。むしろそういう行為こそが生活の糧だった。親のないガキが金を稼ぐには一番手っ取り早い方法だったからだ。そうする事でしか生きる手段を知らなかったからだ。
「…んっ…んんんっ……」
目の前に突き出されたソレをガイアは戸惑うことなく口に含んだ。甘い菓子を頬張るように夢中で肉棒を舐める。先端の割れ目に舌を這わせば、とろりとした雫が零れてくる。それをわざと音を立てて啜ってガイアは顔を上げる。
「…俺も…気持ちよく…させてくれよ……」
限界まで膨れ上がったロンクー自身の先端を指できつく摘まみ、口許に透明な雫を滴らせながらガイアは言った。それはひどく淫乱な獣のようにロンクーの瞳には映る。そう淫らな一匹の獣だった。
「――――ああ、分かった…お前の望みどおりに」
背中に廻されていたロンクーの腕が背筋を辿りそのまま剥き出しになったガイアの秘所に忍び込む。ソコは既に雄を求めてひくひくと切なげに蠢いていた。
「…っ!…ああっ…んっ!」
ずぷりと音を立てながらロンクーの指が挿ってゆく。奥へ奥へと忍び込み、くいっと中で折り曲げられればガイアの一番感じる部分に当たった。
「…ああんっ…ソコっ…ソコはっ…あぁぁっ……」
「ココが、いいんだろう?」
耳元で囁かれる言葉にガイアは戸惑うことなくこくこくと頷いた。幼い頃より欲望に塗れていた身体は、痛みよりも快楽を覚える事で苦痛から逃れる術を知った。快楽に溺れれば、身体の痛みも心の痛みも何処かへ流されてくれるのだと。
「…ぁぁっ…も…もぉっ……」
「もう、どうした?」
自分だって出口を塞がれ限界な癖に何が『もう』、だ…そう言葉にしようとしても与えられる刺激が言葉を紡ぐ事を許してはくれなかった。口から零れるのは嫌になるほどの甘い喘ぎだけで。
「…限界…っ…あ、あ、あ、…あああんっ!!!」
くちゃくちゃと中を掻き乱され一銀感じる場所を指の爪で抉られる。その瞬間ガイアは耐え切れずに白濁した液体をロンクーの腹の上にぶちまけた。それと同時に塞いでいた指先が外れ、ロンクー自身のソコからも大量の精液が溢れだした……。


ただの好奇心だった筈なのに、どうして。どうして、こんなにも。こんなにも俺はお前が欲しいと思うのか?他の誰でもないお前を欲しいと願うのか?


消えない印に触れる唇が優しい。優しすぎて湧き上がってくるものがあった。それは幼い頃に捨てた筈の、忘れた筈の感情で。
「…ロンクー…お前の……」
初めて肌を重ねた時、あの時はまだ不器用で。どうやって他人を抱けばいいのかすら、知らない腕だったのに。なのにこの印に触れた唇だけは何よりも優しくて。何よりも、優しかったから。
「…お前のコレ…欲しい…俺の中に……」
数え切れないほど他人と肌を重ね、唇を重ねてきたけれど、けれどもあの印に誰も触れはしなかったから。欲望を吐き出す事が全ての関係の中で、誰ひとりこの印に気に留める者はいなかったから。罪人である証のシルシに。けれども。
「…俺の…中に……」
けれども、お前は。お前だけはそっと触れてくれた。唇で、指先で、俺の消える事のない傷口に。


「―――――あああああっ!!!!」


欲望を吐き出した筈のソレはまだ適度な硬度を保ち、ガイアを欲情させた。その欲望のままにロンクーに跨りそのまま一気に自らの体内にその凶器を埋め込んだ。抉られる痛みにガイアは喘いだ。引き裂かれる肉棒にガイアは溺れた。
「あああっ…ああああっ……あああんっ!!!」
自ら腰を上下に振り抜き差しを繰り返した。そのたびに果てた筈の肉棒がガイアの中で激しく主張し、媚肉を奥深くまで抉ってゆく。一番感じる箇所を突き立て、押し広げ、掻き乱す。その全てに呑み込まれた。熱く激しい渦の中に。
「…ロンクーっ…ロンクー…ああああっ……」
髪先から零れる雫が、ロンクーの頬に当たる。その雫に導かれるように自らの上で腰を振る相手を見上げれば、そこにいるのは切ない程に綺麗な獣だった。淫らで綺麗で切ない生き物だった。
「…ガイア…お前は……」
「…あああんっ…ああああ…ああああっ!!!!」
綺麗だ、と囁いてもきっと聴こえないだろう。快楽に呑まれた意識の中では。それでもロンクーは告げた。綺麗だ、と。そしてそのまま。そのまま最奥まで貫き、体内に欲望を吐き出す。それと同時にガイアも二度目の射精を、した。



ただの好奇心だと言って俺の服を脱がし、自ら跨ってきた。そんなお前にどうして服を脱がないのだと尋ねれば。尋ねればお前は微笑う。醒めた表情で自虐的に、そして泣き顔で笑いながら告げる。
『――――だって、お前だって好奇心だろう?拒まないのはただの好奇心だからだろう?』
好奇心だけならば、そのままでいい。ただ欲望を吐き出せばいい。けれどもお前がそんな顔をするから。だから俺は服を脱がしてお前を見つめた。お前の全部を、この瞳で見つめた。


―――――好奇心だけならば、俺はお前を抱きはしない。お前の印に触れはしない。



無意識に重ねてくる指先に拒むことなく絡めれば、口許に浮かぶのは子供のような笑みだった。その笑みを見ていたいと思った。ずっと見ていたいと、ロンクーは想った。