――――いいところをひとつずつ見つけていったら、気付くと好きという気持ちでいっぱいになっていた。溢れるほどいっぱいに、なっていた。
自然に手の甲が触れ合って、その暖かさに少しだけ戸惑ってから、そっと。そっと指先を重ねる。そのままゆっくりと指を絡めあったら自然と口許に笑みが零れてきた。
「ってお前、さっきから何でそんなニヤニヤしてんだよ」
「もーひどいー。にやにやしているんじゃないよ。嬉しいからにこにこしているんだよ」
言われた言葉が少しだけ悔しくて繋がった手のひらをぎゅっと握り締めたら、大げさに顔をしかめられた。その様子がおかしくて微笑ったら、今度はこつんとひとつ額を突かれた。
「全くお前は…見かけによらず馬鹿力なんだな」
「何それー。そんなに力込めてないよー。そんなんで痛がるヴェイクがか弱いんだよ」
「俺様をか弱いとはよくも言ったなっ!」
「へへーん。だって私のちょっとの力で痛いんでしょ?」
勝ち誇ったように告げたら、悔しそうな表情を隠そうともせずに見せてくる。そんな所が可笑しくてまた微笑ったら、今度はそっと頭を撫でられた。そして。
「―――しゃーねーな。そんな顔されたら…俺様の負けでいいぜ」
そして繋がった手のひらに少しだけ力を込めて、優しい顔で微笑ってくれた。
ひとつずつ気が付いて、ひとつずつ知っていった。あなたの優しさと、あなたの存在の大きさを。そして気がついた、それがどんなに大切なものなのかを。
離したくないなと思った。離れたくないと願った。ずっとこの手のひらを繋いでいたいと、この先もずっと、と。
「しっかし、クロムも相当変な王族だけどお前もだな」
伝わってくるよ、あなたの優しさが。手のひらから伝わってくるから。全部、全部、私の指先に。
「王族なのにこうして俺様と一緒にいてくれるんだからよ」
「…ヴェイク……」
「お前はお姫様なのに――――」
その先を告げる事を一瞬ためらうあなたが、どうしようもなく好きだと思った。言いたい事は分かっている。言えずにためらう言葉も理解している。それでも告げようとするあなたが、私にとっては大事だから。
「うん、変だよ。変でいいよ、ヴェイクと一緒にいられるなら」
「―――リズ…俺様はお前に贅沢とかさせてやれねーし、綺麗な服とかも買ってやれねーけど」
うん、いらないよ。そんなものいらない。私にとっての贅沢はあなたと一緒にいる事。私にとっての綺麗なものはあなたの真っ直ぐな気持ち。だからね、そんなものは必要ないよ。
「でも、大事にすっからよ。俺の全部で、お前護るから」
「うん、ヴェイク。うん」
貧民街育ちのあなたに着いてゆく事をたくさんの人が反対をした。まだまだリズ様は子供だから世間を分かっていないとか、そんな生活にお姫様の貴女が耐えられる訳がないと。けれどもそんな事よりも、もっと大切なものを私は知っているから。
「大好きだよ、ヴェイク。だから一緒にいよ。私はそれだけでいい」
あなたと一緒にいられない事よりも辛い事を私は知らない。あなたとともに生きられない事よりも苦しい事を私は知らない。だから何も怖くない。この手を繋ぐ事を、この指を絡めることを。そして、あなたとともに生きてゆく事を。
「ああ、俺様も―――大好きだぜ、リズ」
耐え切れなくなって抱きついたら、ぎゅっと抱きしめてくれた。顔を上げればそこには同じ笑顔があった。同じ気持ちで、同じ笑顔でいられること。そんなしあわせを私は他に知らないから。
同じ瞬間に笑いあったり、同じ気持ちで哀しんだり。同じ想いで見つめあったり、同じ優しさで触れ合ったり。そんな日々が重なって、ふたりの絆が結びあうから。
そっと目を閉じれば胸の鼓動が聴こえてくる。優しい命の音が聴こえてくる。その音に耳を傾ければ、胸板に重なった頬に熱が静かに伝わった。
「―――リズ、ありがとな」
髪を撫でる指先が少しだけぎこちないのを知っているのは私だけなのだと思ったら、どうしようもなく嬉しくなった。普段の豪快さとは正反対の不器用なくらいの優しさを私だけがひとりいじめしているのだと。
「俺様を選んでくれて、ありがとな」
「それを言うなら私もだよ」
見つけてくれた、私のいいところを。私自身ですら気付かなかった事に、いっぱい気付いてくれた。自信がなくて俯きそうになる私に、上を向いていいんだって教えてくれた。
「私のいいところいっぱい見つけてくれて、ありがとう。私を選んでくれて、ありがとう。私を好きになってくれて…ありがとう」
私があなたのいいところをひとつずつ見つけてきたように、あなたも私のいいところをひとつずつ捜しだしてくれた。だから私は今こうやって胸を張れて生きられるんだよ。
「あー、畜生。俺様の言いたい事を先に言いやがって…俺様のカッコイイ所見せられねー」
「大丈夫だよ、ちゃんと分かっているから。どんなにヴェイクがカッコイイか」
「…ってお前俺様喜ばす天才だな……」
「当たり前じゃん。だって私が一番ヴェイクの事そばで見ているんだから」
「それを言うなら俺様だって…お前の事一番に見ているぜ」
顔を上げてゆっくりと額を重ね合った。そうやって互いの対顔と表情を確かめ合って、微笑いあう。同じだなって、嬉しいなって、思いながら。
「ふふふ、一緒だね」
「ああ、一緒だな」
もう一度ふたりで微笑いあって、そっと。そっと唇を重ねた。まだ何処かぎこちなさが消えないキスだったけれど、それすらも嬉しかったから。嬉しくて、泣きたくなるほどに。
――――大好きだよ、本当に大好き。あなたの全部が、私にとっての一番だから。
一緒にいようね、ずっと。年を取ってふたりの顔がしわくちゃになっても、こうやって手を繋いで微笑っていようね。一緒に生きてゆこうね。
「大好き、ヴェイク。大好きだよ」
この先どんな事があっても、どんな未来が来てもこうやって。こうやって指を絡めていれば何も怖くないから。
「ああ、俺様も。俺様も大好きだぜ、リズ」
怖くないよ。このぬくもりがある限り。この大きな手のひらがある限り。何も何も、怖くないから。
「…大好き……」
ずっと見てゆくから。あなたのことをずっと。だからあなたも見ていてね。すぐに間違えそうになる私を、些細な事で落ち込みそうになる私を、大丈夫だぜって言って笑い飛ばしてね。そうしたら私も、微笑うから。一緒にいっぱい微笑うから。
――――だから、ずっと。ずっと、一緒にいようね。