WHY



――――どうして、このままじゃいられなかったのだろう?どうしてこのままのふたりでは、いられなかったのだろう?


見つめてくるまなざしの強さに耐えきれずに瞼を閉じれば、再び唇が降りてくる。それを拒む事は、もう自分には出来なくて。
「…アベ…っ……んっ……」
顎を掴まれ強引に口中を開かされられる。開いたその瞬間に生き物のような舌が忍び込んできて、きつく根元を絡め取られた。
「…んっ…んんっ…ふっ……」
息すら奪われる程激しく口中を貪られ、こめかみが痺れるくらいになって、やっと唇が解放される。思いっきり息を吸い込めば、ざらついた舌が口許を伝う唾液を舐めた。
「――――カイン、君の言葉はこういう意味に取って…いいんだね」
「…アベル……あ、……」
息を吹きかけられながら耳元で囁かれた言葉に、睫毛が震えるのを止められない。どう表現していいのか分からなくて、瞼を閉じたら再び口づけられた。そっと、キスされた。
「…もう取り消しは出来ないよ…もう俺は戻れない……」
背中に腕が廻されて、そのままきつく抱きしめられた。あまりの強さに息が出来なくなってしまうほどに。けれども、どうしてだろう?苦しい筈なのに、ひどく。ひどく胸が熱くなるのは。―――どうして、だろう?



君の全てを手に入れたならば、俺は満たされるの?この想いは満たす事が出来るの?君の全てを、手に入れる事が出来たならば。


何度も頭の中で犯していた。その身体をその心を犯していた。真っすぐな視線を潤ませて、その瞳に自分だけを映し出させて。その唇からは自分の名前だけを呼ばせて。そんな淫らな妄想をもう何度繰り返していたのだろう?
「―――もう戻れないよ、カイン」
それが今現実になる。妄想でも夢でもなく、こうして。こうして現実の手で触れてゆく。その身体に、心に、触れてゆく。
「…何、アベ…っ!……」
考える間も与えずに再び唇を奪い、そのまま衣服のボタンに手をかけた。日に焼けた褐色の肌が露わになる。どんなに火の光を浴びても焼けない自分とは対照的な健康的な色の肌だった。そんな色彩に自分が、触れる。淫らな行為をするために、触れる。そう思うだけで、欲情した。
「…っ!…んんっ!!」
唇で声と動きを塞ぎながら、胸の果実に指を這わす。指で摘まんでやるだけで、ソコはぷくりと立ち上がった。
「…はぁ…ぁ…あっ!」
「感じやすいんだね、カインのココは」
「…何…言って…あぁっ……」
人差し指と中指で摘まみながら、乳首を舐めた。その瞬間びくんっと身体が跳ね、口からは堪えられない甘い声が零れてくる。その声は想像していたよりも、ずっと。ずっと甘いもので。
「…もっと感じて…もっと声を上げて……」
「…やぁっ…ぁぁっ…はぁぁっ……」
もっと聴きたかったから、虐めて優しくした。指で何度も摘んで、舌で何度も嬲って。瞳から生理的な涙が零れてくるまで、両の胸を弄んだ。その口が閉じる事を放棄するまで。


どうして、君でなければいけないのか?どうして、君なのだろうか?親友で、ライバルで、けれどもそれ以上に。それ以上に妬ましくて、恋しい相手。どうして、俺の感情の全てが君に向いてゆくのだろう?俺の想いの全てが、君に向くのだろう?


――――どうしてなんて、もう何度も。何度も…頭の中で繰り返している。何故だって。


執拗に愛撫した胸元を解放し、そのまま指先を下腹部へと持ってゆく。それは既に与えた刺激のせいで形を変化させていた。布越しで触れて形を確認して、そのままズボンに手をかけた。
「―――なっ、アベル…っ何してっ?!」
ズボンを膝まで下ろされた所でやっと自分自身の今の状況に気付いて、焦ったように声を発してきた。けれども、もう遅いよ…カイン。
「何って?今さらここまで来て聴くの?決まっているだろう?セックスだよ」
「――――アベ…っ!ああっ!!」
疑問すら封じ込めるように熱く形を変化させた自身を握ってやった。強く力を込めてやれば唇から零れるのは嬌声で。その声に自分自身が欲情した。
「…あぁっ…あぁぁっ…止めっ…アベっ……」
きつく目を閉じて襲ってくる快感に必死に耐えるその姿に。それでも濡れた唇から甘い悲鳴を止める事が出来ないその唇に。逃れるように揺らす紅い髪からぽたりと零れるその汗に。どうしようもないほど、その全てが欲しくて。ずっと、ずっと、欲しくて。
「止めないよ…俺はずっと……」
「…アベ……ル……っ」
「―――ずっと君にこうしたかったんだから」
欲しかった。君だけが、欲しかった。どうしようもない程に、欲しかった。どうして?と思う間もなく、俺は君だけを求めた。


――――なぜ、なんて。そんな疑問すら通り過ぎてしまうほどに、俺は君を求めた。



脚を限界まで開かせて、そのまま秘所を暴く。眼下に曝け出した一番恥ずかしい場所に舌を伸ばしぴちゃぴちゃと舐めた。誰にも触れられた事のない個所を舐められて、羞恥の為にカインの肌がさっと朱に染まる。けれどもアベルの動きは止まる事はなかった。
「…やぁっ…止め…止め…アベ…ル…そんな所…汚いっ…!……」
「―――でもこうして舐めておかないと君が辛いんだよ」
言われた言葉の意味を正確に理解するには、カインの霞んだ意識では無理だった。ただ本能的に『恥ずかしい』という思いだけで、首をイヤイヤと横に振る事以外には。
「…駄目…だっ…アベルっ…アベ…っ!」
濡れた舌と入れ違いに指が中へと入ってくる。異物など受け入れたとこのないソコは、指を排除しようと蠢く。けれどもその動きが逆に内部の異物を締め付ける事となって、カインを悩ませた。
「…くっ…ふっ…やっ…やだっ…アベ…ルっ……」
未知の感覚に本能が怯えた。けれども中を動く指の動きは止まらない。それどころか本数を増やされ、好き勝手に中を掻き回される。そのたびに蠢く内壁と滴らされた唾液の濡れた音がして、カインの身体を熱くさせた。羞恥と、そしてもっと別の濡れた感情のせいで。
「…あっ……」
不意に訪れた消失感に思わずカインの口からはため息のような声が零れた。けれどもそれはすぐに打ち消された――――入り口にあたる圧倒的な存在感のせいで。
「…ア…アベ…ル……」
「君のせいでこんなになっているよ、カイン」
先端で入り口をなぞられて、びくびくとカインの身体が震える。なぞっているソレがこれからどうされるのかを理解して、カインは思わず足を閉じようとする。けれどもそれは、許されなかった。
「怖い?でも、もう俺は止められないよ。ずっとこうしたかったんだ…君に……」
「…アベル……」
「ずっと君のココに挿いりたかった―――」
「―――ひぃっ!!!」
入り口をなぞっていたソレが、強引に中へと入ってくる。それは身体を真っ二つに引き裂くような痛みで。激しい、痛みで。
「…やだっ…痛いっ…アベル…っ…抜い…ひぁっ!!……」
逃れようと腰を浮かしても両の手で掴まれ、そのまま引き寄せられる。ずぶずぶと濡れた音ともに楔が中へと挿いってゆく。
「―――あああ…あぁぁっ……」
隙間ない程にみっしりと中に埋められた所で一端、動きが止まる。それに息をつく間もなく、萎えてしまったカイン自身に手が添えられた。
「…あぁっ…あぁぁ…やぁっ…!……」
巧みな愛撫に再びソレは息を吹き返す。すぐに手のひらでは収まりきらない大きさになって、どくどくと脈を打つ。それを確認して、アベルは動きを進めた。腰を激しく打ち付け、カインの中を抉ってゆく。
「…ああぁっ…アベル…やだぁ…もうっ…もうっ…!……」
前からは今にもイキそうな程の快楽が与えられ、後ろからは引き裂くような痛みが貫く。痛みと快楽が同時に襲い、カインの意識を奪ってゆく。もう何も、考えられない。ただ。ただ、自分を襲う痛みと快感以外には。もう何も。何も、考えられない。
「…もう…俺も限界だ…出すよ…カイン…くっ……」
「――――あああああっ!!!!」
どくんっと何かがはじけた音がして、体内に熱い液体が注がれる。それが何かと思う前に、前に与えられた激しい愛撫によって、カイン自身も精液を吐き出した……。



親友でもなくライバルでもなく相棒でもなく、もっと。もっと別の存在になりたくて。その先の想いが知りたくて。その先にあるものが欲しくて。その先に、在るものを……。


「…アベル……」
貫かれた痛みは身体の奥に消えずに燻っている。声を出す事すら億劫なほどに。けれども今は。今はこうして名前を呼びたかった。
「―――ごめんなんて謝らないよ。俺はずっと君にこうしたかったんだ」
「…謝らなくていい…そんなものはいらない…だから……」
その先にあるもの。親友でもライバルでも相棒でもない。その先にある想いの。その名前を、それが知りたいから。
「…だから…言ってくれ……」
どうしてなんて、何故なんて、もう。もうそんなものは通り越したから。通り過ぎていったから。だから。
「…ああ…カイン…幾らでも言ってあげる……」


「…君が…好きだよ……」


身体を結ぶ事が全てではなくても。こうして言葉を伝える事が全部じゃなくても。それでも手探りで探した想いを確認する方法がこれ以外にないのならば。幾らでも伝えるから。幾らでも結びあうから。



「――――好きだよ、カイン。君だけが好きなんだ…ずっと君だけが……」